夏だから君を

うづきあお

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《秋だけど君は》

【碧人:手強い敵】

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待ってくれ。
待ってくれ、待ってくれ。
突然の状況に心が全く追いつかないのだが。
しかも週末の部活帰りなんて疲れに疲れてるんだが。
……なんて思いつつも、気を抜けば緩みそうな頬がやばい。
勉強?見る見る。
凛の部屋?久々だな、おい。
晩御飯?とんだボーナス。
泊まってけ?……はい、ありがとうございます。
いやいや、少し落ち着こう。
いくらなんでも舞い上がりすぎだ。
そもそも、ずっと自制してきた俺はどこへ行ったのか。
凛とは学校以外で出来るだけは接触しないよう気をつけていたのに、何の迷いもなくついて来てしまった。
凛が珍しく頼み事をしてたきたというのもあるが、やはり距離が出来た分を俺は少しでも取り戻したいのかもしれない。
何にしても目下の問題は、今日の自分が最後まで冷静でいられるかどうかで。

「碧人ぉ、ジュースは何にする?やっぱり炭酸水?」

人の苦悩など露とも知らぬ凛が、ひょいと覗き込んでくる。
思ったより目線が近い。
確かに最近の凛は身長が伸びているようだ。

「碧人?」
「ん、ああ、うん、それで」
「じゃあこれと、俺はカルピスかなぁ。あ、チョコパイ欲しい」

人の多いコンビニで、凛が次々とおやつを手に取り籠に入れている。

「すごい量だな」
「だって楽しみすぎない?今日碧人拉致ってよかったぁ」

心底嬉しそうなのがもはやにくい。
今すぐ撫で倒したいくらいかわいい。
それにしても夏のあれ以来、多少はぎくしゃくするかと思いきや凛は全くもって変わりない。
そうなるように仕向けたのは自分なのだが、余りにも普通だとちょっと複雑だ。
一人悶々としていると、再び戻ってきた長谷川家の玄関扉を開きながら凛が振り返った。

「碧人、聞いてる?」
「ん?」
「だから、時間も勿体無いし風呂一緒にさっさと入っちまおうぜ」

え、無理。
無理無理。
何言ってんのお前。

「先に凛が入れよ」
「何で?」
「こ、個人的な理由。ほら、俺部活でめっちゃ汗かいてるし。のびのび洗いたいっていうか」
「のびのび洗う?」
「いや、だから……」
「まぁいいか。じゃあ碧人が先に行ってきて」

凛はあっさり引き下がると、洗面所に入りタオルを何枚か渡してきた。
……してない。
内心舌打ちなんて決してしてないぞ。
俺は熱いシャワーを浴びながら、出来るだけのびのびと体を洗った。
さっぱりして凛と交代し、部屋でスマホをいじりながらひたすら待つ。
ほんの十五分程で、部屋の主は買い込んだおやつとジュースを両手に抱えて戻ってきた。

「はいお待たせ。よし、一戦やりますか」
「はいはい、何賭ける?」
「またそれ⁉︎」
「ただ勝負して楽しむのは小学生までだぜ」
「くそぉ、今度は負けないからな!」

凛は煎餅の袋を開くと数が半分になるように分けた。
なるほど。
おやつ取り合戦というわけだ。

「いいね、それ」
「笑ってられるのも今のうちだぞ」

炭酸水を開けていると、コントローラーを二つ手にした凛が俺の隣にすとんと座った。
風呂で温められた凛の体温と洗い上がりの匂いがダイレクトに伝わってくる。

「はい、こっちが碧人の」

渡されたコントローラーを黙って受け取る。
それから体をずらし少し離れようとしたが、凛はぴくんと反応するとむしろ鼻先を寄せてきた。

「あ、木崎家の匂いがする。やっぱ私服は制服より分かりやすいよな。碧人のこの匂い結構好きかも」

凛に浮かぶ、自然ナチュラルな笑み。
そうか。
ナチュラルとやらよ。
お前は敵なのだな。
俺の理性に挑戦してくる、天使の顔をした悪魔に違いない。

「いってぇ、な、何?」

つい伸ばした手を誤魔化すために、凛のほっぺをつまみ上げる。

「早く始めるぞ」
「くぅ、見てろよ!」

テレビ画面に映し出された、格闘ゲームの屈強なキャラクター。
だが俺はそんなものとは比べ物にならない手強い敵と、この先ひたすら戦い続ける羽目になった。
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