夏だから君を

うづきあお

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《春だけに君と》

【碧人:桜舞う】

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泣いてる。
凛が、見たことないくらい。
参ったな。
どうすればいいんだろう。

「……凛」
「う、うぅ」
「泣くなって。俺は別に大丈夫だから」

全くもって大丈夫ではないし、泣きたいのはこっちだし、頭の中は真っ白だが今は物分かりのいいフリをするしかない。

「心配しなくてもこれからも別に無視とかしないし、凛を急に嫌いになったりとかもないから」

出来るだけ突き放さないように凛の手を解く。

「ただの友だちに戻るだけだ。だから……」
「ただの友だちって、何?」

絞り出すような、掠れた声。

「碧人はもうここへ、来ないの?」
「それは……」
「もう俺の前でごろごろしたり、寄りかかってきたり、しないの?もう俺だけ碧人の家に入れてくれることも、ないの?」
「そりゃあだって、きっぱりフラれてるのにそんな事したら逆に駄目だろうし」

凛は「うー……」と声にならない声を出してまたボロボロと涙を流した。
何か、違う気がする。
凛は本当は何が言いたいのだろう。

「凛。今思ってることちゃんと教えてよ」
「あお……、碧人、俺……」
「うん」
「俺、ごめん。こんなんで、ごめん……」

凛は懸命に言葉を探している。
急かさぬよう待っていると、思わぬことを言い出した。

「俺、この先も碧人に好きでいてもらえる自信なんか、ない。絶対に無理だ。そ、それなら、このまま、と……友だちのままのほうが、いいって。でも、こんなの、そうじゃなくて」

……え。
分からない。
凛が何を言ってるのか。
俺を受け入れられないから、無理なんじゃないの?

「待って。すごく大事なところが抜けててちょっと分からないんだけど。凛は……えと、俺のことどう思ってんの?」

口にしたものの、自分で自分にとどめを刺すようで恐い。
凛はまたうつむいてしまったが、代わりに俺の服の裾を握った。
俺を離せない、凛の手。
これ以上動けない俺。
今は互いに言葉じゃ難しいらしい。
俺は少し躊躇ったが、そっと凛を抱き寄せた。
はっきり伝わったのは、凛の体から安心したように力が抜けたこと。
これってもう確定でよくないか?

「凛、もう泣くなって」

あやすように背中を撫でる。

「あのさ、俺こそこの先凛に好きでいてもらえる自信なんか全然ないけど」
「え……」
「だって俺の愛情はこーんなに大きいのに、凛なんか今やっとこれっぽっちくらいじゃん」

人差し指と親指で2センチ幅を作ると、凛が目を瞬いた。

「それはさすがに、小さすぎ……」
「そう?じゃあどれくらい?」
「どれくらいって……」

凛は涙を拭うと、少し俺から離れて眉間に皺を寄せた。

「分からないけど、多分碧人とそこまで変わらないと思うけど……」

俺の頬が自然とほころぶ。
逆に凛は自分が今何を言ったのか理解すると口元を押さえた。

「いや、だから……」
「もう遅いから。どうしよう、嬉しい!」

今度は力を込めてぎゅっと凛を抱きしめる。

「ちょっ、碧人!」
「俺、凛が好きだよ。この先もずっと好きに決まってんじゃん。俺がどれだけ凛を想ってきたと思ってんだよ」
「それが分からないんだって!なんで俺なの⁉︎」
「何でって、一晩くれれば語り尽くすけど。それって凛も教えてくれんの?」
「えっ」

凛は真っ赤になると俺を押しのけた。

「言うわけないだろそんな事」
「そう?まぁいいか。じゃあ俺が今までためにためたモノだけ語り尽くす」
「……やっぱりいい」
「え、何で?凛の不安なんか空の向こうまで飛んでいくと思うけど」
「それは……」

言葉を濁した凛の目が泳ぐ。
泣いてしまった手前バツが悪そうだ。
俺はひとつ深呼吸すると、凛に改めて頭を下げた。

「ちゃんと向き合ってくれてありがとう。凛、俺と付き合ってください」

凛は今時真っ当すぎる交際の申し込みに戸惑っていたが、蚊の鳴くような声で聞こえたのは「よろしくおねがいします」というやたらきちんとした返事だった。






***





新年度を迎えた4月。
満開の桜は今日も青空に舞い散り、淡い色が光に映えている。
俺と凛はまたクラスが離れたが、もうそんな事は何の障害でもない。
二人はこれからも、毎日平穏に仲を深めていくんだ。
……と、思ってたけど。

「凛、お待たせ!」

試合を終えた俺は、凛の待つ新しい教室に飛び込んだ。

「お疲れ。試合見てたよ」
「うわぁ、あれ見てたんだ。俺何にも出来なかったのに」
「3対1でマークつかれちゃ仕方ないんじゃないか?」
「何か対策考えないとなぁ。キャプテンがこれじゃ頼りない」

浮かれて話していたが、凛はどことなく不貞腐れている。

「凛?何か怒ってんの?」
「別にぃ。教室に一人になるまで待たされたからって怒ってないけど?」

確かに、普段の凛ならそれくらいで怒らない。
それなら俺がキャプテンになった事がやっぱり引っかかったとか?
少し不安になっていると、凛が唐突に言った。

「何て返事したの?」
「え?」

極力気にしていない素振りと、素っ気ない声。

「遅かった理由、それなんだろ?」

俺は目を瞬いた。
それから、凛が不機嫌な理由が分かり笑みがこぼれた。

「凛」
「何だよ」
「おいで」
「えっ」

ほれほれと両手を広げて凛を待つ。

「いや、ここ学校だし」
「いいじゃん。誰もいないんだし」

凛が一歩だけ近付いたので、俺は残りの距離を全部詰めて抱きしめた。

「告白してくれた子には、俺には大好きな人がいるからごめんって断ったよ。なに、すねてくれるとか可愛いんだけど」
「すっ、すねてないしっ。それに俺男なのに可愛いとか言うなって」
「無理。だってもう破滅的に可愛い!早く人目のないところで撫で倒したい!」
「何言ってるんだよ⁉︎お前の目、絶対におかしなフィルターかかってるからな!」

凛は怒った顔で俺を押しのけた。

「帰るぞ」
「あ、ちょっと待って。俺の鞄まだそっちに……」

凛の向こう側に手を伸ばすと、その手を絡め取られる。
驚いて振り返ると、真っ直ぐな眼差しで俺を見つめる黒い瞳と間近で目が合った。
廊下から生徒達が近付いてくる賑やかな声が届く。
凛は二人分の鞄をさらうと俺の手を引いて歩き出した。

「……凛?」
「俺、碧人のイヤイヤ期うつったのかも。今日はこれ以上、碧人に誰も絡ませたくない」

肩越しに見えた、少しだけ尖った唇。
揺れる黒髪の下に見え隠れする耳は真っ赤だ。
記念すべき凛からの初アクションに、俺の全身が試合中より熱くなった。

「やばい。今すっごい両思い感あった!」
「なんだよ今更……」
「芳恵さん……そうだった芳恵さんの所に報告に行かなければ!」
「はぁ⁉︎何で⁉︎」
「いいから、今から長谷川家行くぞ!」
「それ本気で言ってんの⁉︎」

前途は、恐らく多難。
でもそんなことはどうでもいい。
肝心なのは今隣で凛が笑ってることだから。
桜吹雪く春風の中、俺は凛の手を取り新しい扉の向こうへと走り抜けた。



その後、俺の家族総員で凛を愛でる事件(?)が起こったり、あんなに繊細だった凛が驚くほど変化を見せたり、色々な事が起きる。
勿論あまり人に言えないあれこれではあるが、それでも真っ当に輝く俺の青春は、また別のオハナシだ。




ー 春だけに君と 了 ー
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