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《蝶に堕ちる》
【凛:蝶に堕ちる】
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嫌だ。
嫌だ、嫌だ。
抗えない。流される。
脳内はずっとぐちゃぐちゃで、言葉さえも忘れてしまう。
濡れる肌は熱くて、碧人の舌先からは狂おしいほどに好きだ好きだと伝わってくる。
気持ちいい。
気持ちいい。
この快楽が、常に自己肯定感の低い俺の心の底まで満たして、満たして、癒やして……慰めていく。
でも、このまま終わるのは嫌だ。
俺はまだ碧人に何も返していない。
「じゃあ、凛もしてよ」
投げかけられた突然の要求。
その途端に俺の全身から力が抜けた。
分かっているのか、いないのか。
いや分かっているのだろう。
碧人には、いつも俺が隠したい心の声まで届いてしまうから。
握らされた手に力を込める。
誘導に合わせて動かしてみると、碧人の呼吸が僅かに乱れた。
「ん、上手」
さっきまでとはまた少し違う声音。
その声に、胸がとくりと音を立てた。
俺の手でも、碧人にそんな顔させられるんだ。
あとはもう見よう見真似でしかない。
碧人に合わせてひたすらに、ただひたすらに手を動かす。
「う……ぅ、はぁ、凛……」
碧人から段々思考が消えていく。
今、碧人は俺の名前しか頭になくて、俺の体しか求めてなくて、俺だけに全てを捧げている。
何、これ。
何だこれ。
碧人がすごく気持ち良さそうで、俺まですごく満たされる。
体勢を入れ替え、今度は俺が上。
自分でも驚くほど自然に、碧人から溢れる体液を舐めてから全部を咥え込んだ。
口に入り切らない部分は手で握り、さっき覚えたばかりの快感をそのまま返す。
碧人は肘を突き上半身を起こしたまま声を噛み殺した。
「うぅ、それ、イ……く」
上目遣いで送る了承の合図。
むしろ俺の手でイッて欲しい。
それくらいはしてあげたい。
何もかもが初めての俺に、一言も挿れさせてと言わなかった、優しい恋人に。
俺は最後まで一切手を緩めなかった。
碧人は俺の名を呼びながら俺の中で全てを出し尽くした。
荒い呼吸と共にぐったりと倒れ込んでいたが、すぐに体を起こすとティッシュを引き寄せ俺の口元に当てた。
「ごめん。出して」
「ん」
素直に従うと、綺麗になるまで拭い取られる。
「ごめん、ごめん、凛」
「なんで、謝ってんの?」
俺は、たぶん晴れやかに笑っていたと思う。
重い殻を破り捨てたみたいに、驚くほど情緒が安定している。
もう充分満足だったのに、碧人は申しわけなさそうに抱き寄せると、温かい腕の中で律儀に俺を果てさせた。
***
「おはよ」
「ん、あおと、今、何時?」
「まだ六時半くらい」
レースしか引いていない窓辺から、今は明るい日差しが舞い込んでいる。
「よかった、晴れてる」
寝ぼけ半分で言うと、碧人が俺の背中に額を寄せた。
「なに?今日は外に行きたい?」
「ううん。シーツ洗わなきゃって」
初っ端からそんなことを気にしたからか、背中から小さく笑う声がした。
「じゃあ全部洗濯機に入れて、俺らもシャワー浴びに行こ」
「先に、碧人がいっていいよ」
「もう二人で入ってもいいだろ?」
「……やだ」
碧人は、何も言わない。
どうだったとか、気持ちよかったかとか。
今そんな事を言われたら、きっと俺は自分の何かが許せなくなる。
碧人はそれが分かっているから、何も言わない。
俺はきっと空の飛び方を知ってしまった。
それはとても淫らな安らぎで、でも、今もたまらなく幸せで。
もしかしたら、そのうち俺は碧人がいないと生きていけなくなるのかもしれない。
あの薄い色の瞳が他の誰かを見つめることすら、あの熱い手が俺以外に触れることすら、どうしようもなく許せなくなるのだろう。
一生、一生、一生。
俺はそうやって碧人を縛り、そして碧人は……
「凛、朝ごはんは目玉焼きとハムにしようか。ここの使っていい?」
冷蔵庫を覗き込みながら碧人が笑いかけてくる。
昨日までと何も変わらないのに、目が合うだけで押し込めた感情が疼く。
ああ、愛って、こんなに根深いんだ。
「どうした?ぼんやりして」
「ん、なんでも。俺も手伝うよ」
俺の中がすっかり変わってしまったことなど知りもしないで、今日も二人の世界は穏やかに回り始めた。
ー 蝶に堕ちる 了 ー
嫌だ、嫌だ。
抗えない。流される。
脳内はずっとぐちゃぐちゃで、言葉さえも忘れてしまう。
濡れる肌は熱くて、碧人の舌先からは狂おしいほどに好きだ好きだと伝わってくる。
気持ちいい。
気持ちいい。
この快楽が、常に自己肯定感の低い俺の心の底まで満たして、満たして、癒やして……慰めていく。
でも、このまま終わるのは嫌だ。
俺はまだ碧人に何も返していない。
「じゃあ、凛もしてよ」
投げかけられた突然の要求。
その途端に俺の全身から力が抜けた。
分かっているのか、いないのか。
いや分かっているのだろう。
碧人には、いつも俺が隠したい心の声まで届いてしまうから。
握らされた手に力を込める。
誘導に合わせて動かしてみると、碧人の呼吸が僅かに乱れた。
「ん、上手」
さっきまでとはまた少し違う声音。
その声に、胸がとくりと音を立てた。
俺の手でも、碧人にそんな顔させられるんだ。
あとはもう見よう見真似でしかない。
碧人に合わせてひたすらに、ただひたすらに手を動かす。
「う……ぅ、はぁ、凛……」
碧人から段々思考が消えていく。
今、碧人は俺の名前しか頭になくて、俺の体しか求めてなくて、俺だけに全てを捧げている。
何、これ。
何だこれ。
碧人がすごく気持ち良さそうで、俺まですごく満たされる。
体勢を入れ替え、今度は俺が上。
自分でも驚くほど自然に、碧人から溢れる体液を舐めてから全部を咥え込んだ。
口に入り切らない部分は手で握り、さっき覚えたばかりの快感をそのまま返す。
碧人は肘を突き上半身を起こしたまま声を噛み殺した。
「うぅ、それ、イ……く」
上目遣いで送る了承の合図。
むしろ俺の手でイッて欲しい。
それくらいはしてあげたい。
何もかもが初めての俺に、一言も挿れさせてと言わなかった、優しい恋人に。
俺は最後まで一切手を緩めなかった。
碧人は俺の名を呼びながら俺の中で全てを出し尽くした。
荒い呼吸と共にぐったりと倒れ込んでいたが、すぐに体を起こすとティッシュを引き寄せ俺の口元に当てた。
「ごめん。出して」
「ん」
素直に従うと、綺麗になるまで拭い取られる。
「ごめん、ごめん、凛」
「なんで、謝ってんの?」
俺は、たぶん晴れやかに笑っていたと思う。
重い殻を破り捨てたみたいに、驚くほど情緒が安定している。
もう充分満足だったのに、碧人は申しわけなさそうに抱き寄せると、温かい腕の中で律儀に俺を果てさせた。
***
「おはよ」
「ん、あおと、今、何時?」
「まだ六時半くらい」
レースしか引いていない窓辺から、今は明るい日差しが舞い込んでいる。
「よかった、晴れてる」
寝ぼけ半分で言うと、碧人が俺の背中に額を寄せた。
「なに?今日は外に行きたい?」
「ううん。シーツ洗わなきゃって」
初っ端からそんなことを気にしたからか、背中から小さく笑う声がした。
「じゃあ全部洗濯機に入れて、俺らもシャワー浴びに行こ」
「先に、碧人がいっていいよ」
「もう二人で入ってもいいだろ?」
「……やだ」
碧人は、何も言わない。
どうだったとか、気持ちよかったかとか。
今そんな事を言われたら、きっと俺は自分の何かが許せなくなる。
碧人はそれが分かっているから、何も言わない。
俺はきっと空の飛び方を知ってしまった。
それはとても淫らな安らぎで、でも、今もたまらなく幸せで。
もしかしたら、そのうち俺は碧人がいないと生きていけなくなるのかもしれない。
あの薄い色の瞳が他の誰かを見つめることすら、あの熱い手が俺以外に触れることすら、どうしようもなく許せなくなるのだろう。
一生、一生、一生。
俺はそうやって碧人を縛り、そして碧人は……
「凛、朝ごはんは目玉焼きとハムにしようか。ここの使っていい?」
冷蔵庫を覗き込みながら碧人が笑いかけてくる。
昨日までと何も変わらないのに、目が合うだけで押し込めた感情が疼く。
ああ、愛って、こんなに根深いんだ。
「どうした?ぼんやりして」
「ん、なんでも。俺も手伝うよ」
俺の中がすっかり変わってしまったことなど知りもしないで、今日も二人の世界は穏やかに回り始めた。
ー 蝶に堕ちる 了 ー
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