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《sentimentalism》
【凛:銀杏の葉】
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やって、しまった。
自分で自分が信じられない。
どれだけ大反省を繰り返しても気は沈むばかりだ。
俺はいったいどうしたのだろう。
学校であんなこと、絶対に許せないと思っていたのに。
指先から何かが壊れていくようで怖い。
愛に溺れる映画ですら苦手だった自分が、まさかこんなに感情の深みにはまってしまうだなんて。
放課後になっても気鬱は晴れず、机に突っ伏す。
もうすぐ帰り支度を終えた碧人が迎えにくる。
早く会いたい。
けれど昨日自分がしたことを思うと合わせる顔がない。
二人きりになるのも怖い。
今度は何をしてしまうのか、自分自身ですら分からないから。
不安定な気持ちで揺れていると背中にずしりと重みがかかった。
「ちょ、碧人……」
「ざんねーん、木崎じゃないよん!」
ふざけた口調でじゃれてきたのは一年から付き合いのある江原だ。
「江原、重い。どいて」
「えー、木崎はいいのになんで俺は駄目なの?」
江原は離れるどころか襟元に犬みたいに鼻先を寄せてきた。
「あれ、凛の匂いがなんか違う。でもこれも知ってる気が……」
心臓がどきりと跳ねる。
たぶん、制服についた碧人の移り香だ。
「離せって、江原!」
「なんだよぉ、凛最近冷たくない?俺はこぉんなに大好きなのに!」
江原の手が容赦なく俺の頭を撫でてくる。
……嫌だ。
嫌だ、触らないでほしい。
碧人と違う匂い、体温、体格、腕。
その全てに、ぞわりと体に震えが走った。
明るく笑う江原に悪気や他意はまるでない。
分かっているから、今までは笑っていられたはずなのに。
「やめろって!」
堪らず出た大声に、周りがぎょっと振り向いた。
「あ……」
自分でも驚き固まっていると、他の友だちが集まってきた。
「おいおい江原、なに凛怒らせてんの?」
「えー、だって凛が木崎ばっか贔屓するからさぁ」
「それは仕方ないだろ。碧人は凛の旦那なんだから!なぁ、凛!」
一人がふざければ、周りも気軽に笑い飛ばす。
「そういや碧人ってK大受験するんだろ?よかったなぁ、凛。将来安泰じゃん」
「なんだ、凛は受験しないって小耳に挟んだけどそういうことかぁ」
「駄目だぞ凛!木崎みたいなモテ男で苦労するより、安牌取って俺にしとけって!」
「バーカ、江原の受ける底辺大学じゃ先が思いやられるじゃん」
「なんだとー!」
いつも通りのたわいない軽口だ。
今までのように、「皆勝手だな」と文句を言いながら流せばいい。
それなのに。
頭の天辺から血の気が引いていくのをはっきりと感じる。
手足は冷たく、水の中にいるように耳が遠い。
早く、笑え。
早く誤魔化さないと。
早く、早く……
「え、凛⁉︎」
賑やかに騒いでいた江原達が慌てふためく。
無感情な雫が、俺の目から流れ落ちていたからだ。
「どど、どうしたんだよ⁉︎何で泣いてんの⁉︎」
江原が慌ててくしゃくしゃのポケットティシュで俺の涙を拭う。
「ご、ごめ……。最近ちょっと、情緒不安定で……。俺、帰る」
江原たちに背を向け、逃げるように教室を出る。
いつもの友だち。
いつものじゃれ合い。
いつもの会話。
皆は何も変わっていない。
変わってしまったのは……俺だ。
校舎を出れば並木からハラハラと銀杏の葉が落ちてくる。
潔く散る様が、すごく綺麗だ。
どうして胸が苦しいのか。
どうして涙が出るのか。
風が吹き抜ける黄色い世界が、隠している一つの答えを浮き彫りにする。
——俺は、碧人との関係が負担なんだ。
増えていく秘密と嘘。
意思を無視して溢れる感情。
消えることのない焦りと不安。
抱えるものは一日一日と重くなるばかりで、気がつけば呼吸さえ上手くできていない。
俺は絶対に碧人を手放せない。
それなのに今すぐ楽になりたくて、全てを捨てたいとも思うんだ。
酷い矛盾を吐き出すことも飼い慣らすこともできず、俺の中身だけが変質していく。
怖い。
何もかも。
俺は最低な人間だ。
自分で自分が信じられない。
どれだけ大反省を繰り返しても気は沈むばかりだ。
俺はいったいどうしたのだろう。
学校であんなこと、絶対に許せないと思っていたのに。
指先から何かが壊れていくようで怖い。
愛に溺れる映画ですら苦手だった自分が、まさかこんなに感情の深みにはまってしまうだなんて。
放課後になっても気鬱は晴れず、机に突っ伏す。
もうすぐ帰り支度を終えた碧人が迎えにくる。
早く会いたい。
けれど昨日自分がしたことを思うと合わせる顔がない。
二人きりになるのも怖い。
今度は何をしてしまうのか、自分自身ですら分からないから。
不安定な気持ちで揺れていると背中にずしりと重みがかかった。
「ちょ、碧人……」
「ざんねーん、木崎じゃないよん!」
ふざけた口調でじゃれてきたのは一年から付き合いのある江原だ。
「江原、重い。どいて」
「えー、木崎はいいのになんで俺は駄目なの?」
江原は離れるどころか襟元に犬みたいに鼻先を寄せてきた。
「あれ、凛の匂いがなんか違う。でもこれも知ってる気が……」
心臓がどきりと跳ねる。
たぶん、制服についた碧人の移り香だ。
「離せって、江原!」
「なんだよぉ、凛最近冷たくない?俺はこぉんなに大好きなのに!」
江原の手が容赦なく俺の頭を撫でてくる。
……嫌だ。
嫌だ、触らないでほしい。
碧人と違う匂い、体温、体格、腕。
その全てに、ぞわりと体に震えが走った。
明るく笑う江原に悪気や他意はまるでない。
分かっているから、今までは笑っていられたはずなのに。
「やめろって!」
堪らず出た大声に、周りがぎょっと振り向いた。
「あ……」
自分でも驚き固まっていると、他の友だちが集まってきた。
「おいおい江原、なに凛怒らせてんの?」
「えー、だって凛が木崎ばっか贔屓するからさぁ」
「それは仕方ないだろ。碧人は凛の旦那なんだから!なぁ、凛!」
一人がふざければ、周りも気軽に笑い飛ばす。
「そういや碧人ってK大受験するんだろ?よかったなぁ、凛。将来安泰じゃん」
「なんだ、凛は受験しないって小耳に挟んだけどそういうことかぁ」
「駄目だぞ凛!木崎みたいなモテ男で苦労するより、安牌取って俺にしとけって!」
「バーカ、江原の受ける底辺大学じゃ先が思いやられるじゃん」
「なんだとー!」
いつも通りのたわいない軽口だ。
今までのように、「皆勝手だな」と文句を言いながら流せばいい。
それなのに。
頭の天辺から血の気が引いていくのをはっきりと感じる。
手足は冷たく、水の中にいるように耳が遠い。
早く、笑え。
早く誤魔化さないと。
早く、早く……
「え、凛⁉︎」
賑やかに騒いでいた江原達が慌てふためく。
無感情な雫が、俺の目から流れ落ちていたからだ。
「どど、どうしたんだよ⁉︎何で泣いてんの⁉︎」
江原が慌ててくしゃくしゃのポケットティシュで俺の涙を拭う。
「ご、ごめ……。最近ちょっと、情緒不安定で……。俺、帰る」
江原たちに背を向け、逃げるように教室を出る。
いつもの友だち。
いつものじゃれ合い。
いつもの会話。
皆は何も変わっていない。
変わってしまったのは……俺だ。
校舎を出れば並木からハラハラと銀杏の葉が落ちてくる。
潔く散る様が、すごく綺麗だ。
どうして胸が苦しいのか。
どうして涙が出るのか。
風が吹き抜ける黄色い世界が、隠している一つの答えを浮き彫りにする。
——俺は、碧人との関係が負担なんだ。
増えていく秘密と嘘。
意思を無視して溢れる感情。
消えることのない焦りと不安。
抱えるものは一日一日と重くなるばかりで、気がつけば呼吸さえ上手くできていない。
俺は絶対に碧人を手放せない。
それなのに今すぐ楽になりたくて、全てを捨てたいとも思うんだ。
酷い矛盾を吐き出すことも飼い慣らすこともできず、俺の中身だけが変質していく。
怖い。
何もかも。
俺は最低な人間だ。
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