夏だから君を

うづきあお

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《sentimentalism》

【碧人:秘蜜】

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「まだ、切らなくていいと思う」

秋は深まり、合服期間を迎えた教室内にも彩りが増える。
美容室を探す凛の手からスマホをひょいと抜き取ると、不服そうな眼差しが返ってきた。

「いや、これ以上伸びたら見た目にも鬱陶しいし」
「そんなことないって。俺の方が凛より長いじゃん」
「そりゃ碧人は髪色が軽いから似合ってるけどさぁ」

長袖のシャツにチョコレート色のカーディガンを掛け合わせた凛が襟足の髪をいじる。
たったそれだけの仕草で、胸の奥はざわりと波打った。
凛の赤い唇に目が吸い寄せられ、慌てて窓の方を向く。
困ったな。
最近の凛は進化が止まらない。
小さな口から漏れる吐息も、どこか憂いを帯びた黒目がちな瞳も、秋の深まりに熟れては静かな魅力を増していく。
本音を言えば、戯れに凛に絡むクラスメイトは許せなくて、プリントを渡し「頑張れよ」と凛の肩に手を乗せる先生ですらやめてほしい。
誰も凛を見つけないで欲しい。
指一本だって触れないで欲しい。
凛の全部は、俺のものなのに。

「うっ……んん」

掃除を言い渡された、人気のない化学準備室。
手伝いに来てくれた凛を壁に押し付け舌を絡める。
茜色に差し込む夕陽が上気する凛の頬を殊更赤く染め上げていた。

「ん、碧人……!学校はダメだって!」
「大丈夫。こんな所誰も通りかからないよ」

凛が嫌がるのを知っていながら、あえて深く口づける。
俺のことをどこまで許してくれるのか、時折こうして量りたくなってしまって。
もっと。
もっと凛に感じて欲しい。
もっと思い知って欲しい。
凛の中で、俺は特別なのだと。
独占欲のまま抱きしめる腕に、凛の熱い体温が伝わる。
これ以上はまずいと忠告する理性。
このまましたいと誘う本能。
いつもみたいに凛が「いい加減にしろ」と押し返してくるのを期待していたが、抵抗していたはずの華奢な手はいつの間にか俺のベルトに触れていた。

「え、凛……?」
「……煽ったのは、碧人だから」

驚いて離れようとした俺を、今度は凛が棚まで追い詰める。
制止をかけた声は濃厚なキスで塞ぎ返され、柔らかな手がスラックスのホックを割り中まで滑り込んできた。

「ま、待って。だって、汚れるし」
「汚さないよ。俺が」

両膝を床についた凛が扇情的な瞳で見上げてくる。
完全にスイッチが入った夜の顔だ。
明るい場所で見るのは初めてで、部屋中が茜色に染まるせいか綺麗さと妖艶さにくらくらと眩暈がした。

「り……ん、うぅ…」

漏れかけた声を行き場のない手で塞ぐ。
凛の濡れた舌が局部を這い、慣れた手が包み込むように快感を高めていく。
甘い痺れに体の自由は奪われ頭の中は真っ白だ。

「凛、ほんと、や、ばい……から」
「ん、我慢して」

力の抜ける膝を凛が体で支える。
耳に届く、遠くから響いた生徒の声。
崩れ落ちることすら許されず、背徳的な行為に神経は過敏に。
罪悪感は煮詰めた蜜より甘いエクスタシーに格上げされ、細胞の隅々までどろりと満たされていく。
常識という概念はとっくに置き去り状態だ。
もはや一滴も抗えず忘我の境地に達すれば、凛が苦しそうな声を漏らした。

「んん…」

受け止めたものをすぐに吐き出そうとはせず、凛は手近なペーパータオルで丁寧に後処理をしてから律儀に自分で乱した俺の衣服を整え直す。
流れる汗に耐えることしかできなかった俺は、情けなくも凛にそこまでさせてから棚を背にしたままズルズルと床に座りこんだ。

「は、はぁ、はぁ……頭、死にそ……」

とてつもない気持ちよさと脱力感に動けずにいると、凛のさらりと流れる黒髪が胸に寄せられた。

「碧人……」
「ん、なに……?」
「俺、碧人が好きだ」

凛の目尻が夕陽の名残に淡く反射する。
小さな肩が震えたから、それが涙なのだと気がついた。

「凛、泣いてんの?なんで?」
「分かんない。でも、好きすぎて、……切ない」

茜色に混じるのは抑えた哀愁。
俺はどうすれば凛の涙が止まるのかが分からず、震える肩を撫でることしか出来なかった。
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