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《sentimentalism》
【凛:二人の湿度】
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信じられない。
あの面倒な流れでどうやったら一緒に風呂に入ろうなんて発想になるんだ。
時折見せる碧人の大胆さと強引さには、いつも狼狽えることしかできない。
「ほら、おいで」
先に脱ぎ終えた碧人がほぼ強制的にひん剥いてくる。
抗議の声はシャワーの熱で立ち込めた湯気に覆われ、気づいた時にはプラスチックの椅子に座らされていた。
「頭にシャワーかけるから上向いて」
「うぅ、いやだ」
「渋らない渋らない」
丁寧な手がどうにか懐かせようとあやしながら湯をかける。
「なんか、シャンプー嫌がるニコみたい」
碧人はくすくす笑いながらシャンプーボトルを手に取った。
世話に慣れた人は機嫌の良い鼻歌と泡を絡ませながら凝り固まった心をほぐしてくる。
あっという間に浴室を満たしたオーガニックの香りは、穏やかな空間をシャボンの中に閉じ込めた。
意外に……平気かもしれない。
碧人があまりにも平然としてるせいか、肌が温まるほどに羞恥心は薄れ心地よくすらなってくる。
なんて狭い世界なんだろう。
シャワーの音と、泡の香りと、碧人の感触しかない。
「……気持ちいい」
無意識に落ちた言葉は、両手に握りしめていた最後の抵抗を絡めて排水溝へと流れていった。
「流すから俺がいいって言うまで目閉じてて」
「うん」
素直に瞼を下ろし、頭の上から注がれる温かいお湯を堪能する。
木崎家の三匹目の猫になった気分で身を委ねていると、浴室を包んでいたシャンプーの香りに柑橘系が混じった。
それがボディソープだと気づく前に、ぬるりとした碧人の手が首筋を撫でる。
「え、ま、待って!体は自分で洗うから!」
「まだ目開けていいって言ってないよ」
「いや、無理!流石にそれは……わわっ!」
椅子から引き摺り下ろされ、樹脂製の床に座り込んだ碧人の足の間に座らされる。
「丸ごと洗ってあげるって言っただろ?」
指先は皮膚をたどり、大きな手が迷いなく全身を滑り始める。
甘い痺れが電流のように体を巡り、息が一気に上がった。
「んんっ!や、やだっ……て、は…ぁ……」
「うん、すごい気持ちよさそうでかわいい」
「何、言って……うぅ……」
「もっとさらけ出していいよ。凛の声が聞きたい」
背中を辿られ、意志に反して体が勝手に跳ね上がった。
浴室に響く自分の声は倍になって降り注ぎ、堪りかねて碧人の右腕にしがみつく。
「はぁ、はぁ……。な、流して、もう、いいから」
「いいよ。じゃあ次は凛の番」
「え……?」
「俺も洗って?」
力の抜けた手にとろりとシャンプー液が落とされる。
湿度に乱れた頭は回らず、逃げ場はない。
「ほら、頑張って力入れて。体支えててあげるから」
抱き合うように引き寄せられ、手に触れた碧人の頭を辿々しく洗う。
呼吸が触れればキスをして、感情が高まれば抱きしめて。
くらくらするほど距離が近い。
荒くなる呼吸を噛み殺し、流れっぱなしのシャワーで泡を落とす。
「ん、上手。次はこれ」
手に握らされた、ボディソープのボトル。
クリーム色の液体を掌に乗せ、碧人の腹に糸のように垂らす。
引き締まった腹筋を撫でながら泡立てれば、熱くこぼれる吐息に混じり「気持ちいい」と低い声が耳をくすぐった。
オレンジのライトでぼやけた湿度が非現実な感覚へと誘う。
碧人にこんな触り方をしたのは初めてだし、腰骨の横に二つ並んだ黒子があることも知らなかった。
心臓が、壊れそうなほどうるさい。
「えと、背中は?」
「そのまま洗って」
膝立ちできるように腰を支えられる。
広い肩を越え背中に手を回したが、自然と押しつけた胸の先に碧人の舌が這った。
「んっ」
「手止めないで」
「そ、そんなことしたら、で、できな……」
「凛ならできるよ」
座り込もうとしても支える碧人の腕がそれを許さない。
意地悪く吸う音に合わせて固くなった下半身に触れられ、自制を忘れた嬌声が湿気に混じった。
自分でも驚き、口を塞ぐように碧人の肩に噛み付く。
……どうしよう。
死にたいくらい気持ちいい。
喰らい尽くしたいほど愛しい。
離さないで。
離れないで。
溢れだす思いが強すぎて、泣きたい。
どうか、どうかこんな俺を……
「あおと」
「うん?」
「俺を、見捨てないで……」
一雫だけの感情の吐露が水音に消える。
碧人の大きな手が頬に触れた。
「なぁ、凛。俺はそんなに凛を不安にさせてる?どうしたら凛は安心できる?どうして欲しい?何でもしてあげるし、俺は凛になら何されてもいいよ」
優しく包まれた過度な言葉が、胸の隙間に染みていく。
どうしてそんなことが言えるのだろう。
人の気を、知りもしないで。
「碧人……」
逞しい二の腕に爪を立てた瞬間、俺の中で押し留めておけなくなった感情が牙を剥いた。
俺がいないと息ができなくなればいい。
俺がいないと何処へも行けなくなればいい。
俺がいないと壊れてしまえばいい。
碧人は、俺だけのものだ。
この狂気にも似た想いを、どうか思い知れ。
「それなら、今日は俺に抱かれてよ」
反応も返事も待たずに送った口づけは、いつもと違う味がした。
あの面倒な流れでどうやったら一緒に風呂に入ろうなんて発想になるんだ。
時折見せる碧人の大胆さと強引さには、いつも狼狽えることしかできない。
「ほら、おいで」
先に脱ぎ終えた碧人がほぼ強制的にひん剥いてくる。
抗議の声はシャワーの熱で立ち込めた湯気に覆われ、気づいた時にはプラスチックの椅子に座らされていた。
「頭にシャワーかけるから上向いて」
「うぅ、いやだ」
「渋らない渋らない」
丁寧な手がどうにか懐かせようとあやしながら湯をかける。
「なんか、シャンプー嫌がるニコみたい」
碧人はくすくす笑いながらシャンプーボトルを手に取った。
世話に慣れた人は機嫌の良い鼻歌と泡を絡ませながら凝り固まった心をほぐしてくる。
あっという間に浴室を満たしたオーガニックの香りは、穏やかな空間をシャボンの中に閉じ込めた。
意外に……平気かもしれない。
碧人があまりにも平然としてるせいか、肌が温まるほどに羞恥心は薄れ心地よくすらなってくる。
なんて狭い世界なんだろう。
シャワーの音と、泡の香りと、碧人の感触しかない。
「……気持ちいい」
無意識に落ちた言葉は、両手に握りしめていた最後の抵抗を絡めて排水溝へと流れていった。
「流すから俺がいいって言うまで目閉じてて」
「うん」
素直に瞼を下ろし、頭の上から注がれる温かいお湯を堪能する。
木崎家の三匹目の猫になった気分で身を委ねていると、浴室を包んでいたシャンプーの香りに柑橘系が混じった。
それがボディソープだと気づく前に、ぬるりとした碧人の手が首筋を撫でる。
「え、ま、待って!体は自分で洗うから!」
「まだ目開けていいって言ってないよ」
「いや、無理!流石にそれは……わわっ!」
椅子から引き摺り下ろされ、樹脂製の床に座り込んだ碧人の足の間に座らされる。
「丸ごと洗ってあげるって言っただろ?」
指先は皮膚をたどり、大きな手が迷いなく全身を滑り始める。
甘い痺れが電流のように体を巡り、息が一気に上がった。
「んんっ!や、やだっ……て、は…ぁ……」
「うん、すごい気持ちよさそうでかわいい」
「何、言って……うぅ……」
「もっとさらけ出していいよ。凛の声が聞きたい」
背中を辿られ、意志に反して体が勝手に跳ね上がった。
浴室に響く自分の声は倍になって降り注ぎ、堪りかねて碧人の右腕にしがみつく。
「はぁ、はぁ……。な、流して、もう、いいから」
「いいよ。じゃあ次は凛の番」
「え……?」
「俺も洗って?」
力の抜けた手にとろりとシャンプー液が落とされる。
湿度に乱れた頭は回らず、逃げ場はない。
「ほら、頑張って力入れて。体支えててあげるから」
抱き合うように引き寄せられ、手に触れた碧人の頭を辿々しく洗う。
呼吸が触れればキスをして、感情が高まれば抱きしめて。
くらくらするほど距離が近い。
荒くなる呼吸を噛み殺し、流れっぱなしのシャワーで泡を落とす。
「ん、上手。次はこれ」
手に握らされた、ボディソープのボトル。
クリーム色の液体を掌に乗せ、碧人の腹に糸のように垂らす。
引き締まった腹筋を撫でながら泡立てれば、熱くこぼれる吐息に混じり「気持ちいい」と低い声が耳をくすぐった。
オレンジのライトでぼやけた湿度が非現実な感覚へと誘う。
碧人にこんな触り方をしたのは初めてだし、腰骨の横に二つ並んだ黒子があることも知らなかった。
心臓が、壊れそうなほどうるさい。
「えと、背中は?」
「そのまま洗って」
膝立ちできるように腰を支えられる。
広い肩を越え背中に手を回したが、自然と押しつけた胸の先に碧人の舌が這った。
「んっ」
「手止めないで」
「そ、そんなことしたら、で、できな……」
「凛ならできるよ」
座り込もうとしても支える碧人の腕がそれを許さない。
意地悪く吸う音に合わせて固くなった下半身に触れられ、自制を忘れた嬌声が湿気に混じった。
自分でも驚き、口を塞ぐように碧人の肩に噛み付く。
……どうしよう。
死にたいくらい気持ちいい。
喰らい尽くしたいほど愛しい。
離さないで。
離れないで。
溢れだす思いが強すぎて、泣きたい。
どうか、どうかこんな俺を……
「あおと」
「うん?」
「俺を、見捨てないで……」
一雫だけの感情の吐露が水音に消える。
碧人の大きな手が頬に触れた。
「なぁ、凛。俺はそんなに凛を不安にさせてる?どうしたら凛は安心できる?どうして欲しい?何でもしてあげるし、俺は凛になら何されてもいいよ」
優しく包まれた過度な言葉が、胸の隙間に染みていく。
どうしてそんなことが言えるのだろう。
人の気を、知りもしないで。
「碧人……」
逞しい二の腕に爪を立てた瞬間、俺の中で押し留めておけなくなった感情が牙を剥いた。
俺がいないと息ができなくなればいい。
俺がいないと何処へも行けなくなればいい。
俺がいないと壊れてしまえばいい。
碧人は、俺だけのものだ。
この狂気にも似た想いを、どうか思い知れ。
「それなら、今日は俺に抱かれてよ」
反応も返事も待たずに送った口づけは、いつもと違う味がした。
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