夏だから君を

うづきあお

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《最終話:WINDING ROAD》

【凛:自然な姿】

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翌日は小雨が降り、窓の外も薄暗かった。
明け方に力尽きた俺と碧人はチェックアウトぎりぎりまで眠ってしまい、予定していた観光地へはひとつだけ寄ってから帰ることにした。
傘を差しながら昔ながらの町を歩く。
名物である蕎麦や団子を楽しみ、雨が演出するゆったりした時間を満喫する。
少し早めの、少し短い卒業旅行。
新しい生活に忙殺される前に、それから二人が大人になる前に、今だけしかないこの時間を一つ一つ惜しみながら大切に胸に残していく。

帰りの電車は気怠げに揺れた。
疲れきって眠ってしまった碧人に肩を貸しながら、落ちかけた瞼の中で今までのことが思い返される。
去年の夏、突然キスをされた夕立の中。
年末での告白。
付き合い始めた春。
季節は巡り、初めて恋人として体を重ねた初夏。
依存という言葉の意味を体で覚えた秋。
我慢の冬。
それから、ひどく穏やかな今。
俺は碧人と付き合い始めてから、「愛」の中身を知った。
それは想像を絶する生々しさで、相反する感情がせめぎ合い、溺れ、堕ちていくもの。
不安、嫉妬、独占欲、支配欲にまみれながらも、幸福、安心、満足、悦びへといとも容易く裏返る。
何もかもが根深くて、どちらへ転んでも息苦しい。
でもそれら全ては愛しさに包まれていて、だからきっとこの先、何があっても俺は碧人が好きで。

「ん、凛……、今どこ」

肩に寄りかかっていた碧人が寝ぼけ半分で目をこする。

「まだ着いてないよ」
「ごめん、本気で寝てた」

車内を見まわした碧人が少し離れる。
触れていた肩から温もりが遠ざかり、俺と碧人の間に現実的な距離が空いた。
電車は規定速度で淡々と進み、閉塞的な日常へと二人を連れ戻していく。

「雨止んでる?」
「ううん。まだ降ってる。明日は晴れるみたいだけど」
「明日は学校かぁ。あと一週間で卒業だもんなぁ」

大きく伸びをした碧人が、窓の外を流れる景色を見つめる。
その横顔がとても逞しく、揺るぎなく見えて。
……好きだ。
好きだよ、碧人。
誰に何を言われても、俺だって胸を張って、大きく口を開いてそう言いたい。
電車が最寄駅に滑り込むと、碧人の手を握り立ち上がる。

「行こう」

碧人は驚いていたけれど、ちゃんと握り返してくれた。
誰に見られていてもいい。
だってこれが二人の自然な姿なのだから。

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