夏だから君を

うづきあお

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《最終話:WINDING ROAD》

【碧人:卒業】

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三月中旬、卒業式。
沢山の涙と笑顔に見送られ、卒業証書を手にし、教室を後にした。
凛との待ち合わせは校門前にある桜の木の下。
互いに友だちや先生との別れを済ませてから落ち合おうと事前に約束をしていた。

靴を履き替え、最後にもう一度校舎を振り返る。
同じ制服を着た生徒が行き交う光景に、そっと別れを告げて目を伏せた。
三年間、凛のおかげで高校生活は夢のように煌めいていた。
でも凛にとってはどうだろうか。
ずっと窮屈な思いをさせていたことは知っている。
何度も苦しそうな涙を流させてしまった。
それでも、凛は俺といてよかったと思ってくれるだろうか。
後悔はしていないだろうか。
帰りがてらちゃんと聞いてみようと決意しながら桜の木を目指したが、そこにいたのは凛一人ではなかった。

「凛、こっち向いて。ツーショットツーショット!」
「次は俺らも!」

教室から離れずついて来たのか、江原や吉田たちとお決まりのメンバーが凛の周りではしゃいでいる。
相変わらず馴れ馴れしい奴らめ。
でもまぁ、凛が嬉しそうだから邪魔はしないけれども。
凛を取り囲む輪を遠巻きに眺めながら、ふと思う。
もし去年の夏、凛と二人で夕立に打たれていなかったら。
俺は今でも凛の友だちの一人で、誰にも言えない想いを秘めたままあの中にいたのかもしれない。
心の中で凛に別れを告げ、二度と会おうとしなかったかもしれない。

凛が好きだ。
凛が好きだ。
凛が好きだ。

たとえ友だちの輪の中に戻ることができなくても、この絶え間ない想いが伝わるのならこんなに幸福なことはない。
だから凛が誰と親しげにしていても邪魔はしない。
口出しもしない。
どこまでも大らかな気持ちで見守って……

「なぁ、凛。やっぱこの後打ち上げも来いよ。このままお別れじゃ寂しいじゃん!」
「凛は卒業したら県外へ行くんだっけ?遊びに行くからまた住所送ってよ」
「その前に久々に俺ん家泊まりにこいよ。徹夜で遊ぼうぜ!」

……見守って、おこうと、思ったんだけど、やっぱ無理ですけど。
おいおいおい、なんで江原はさっきから馴れ馴れしく凛の肩に手回してんの?
誰の許可で吉田は凛の腕組んでんの?
他三人もどういうつもりで凛にベタベタしてんの?
無理無理無理無理。

「凛、お待たせ。帰ろ」

足早で桜の木へ寄り、できるだけにこやかに——青筋は浮かんでいたかもしれないが、割って入る。
江原は分かりやすく「げげっ」と顔をしかめた。

「出たよ木崎。もしかして凛が打ち上げ来ない理由ってまた木崎?」

忍耐に挑む俺を煽るように、江原の腕が凛を抱え込む。

「あのなぁ、凛はお前だけのものじゃないんですぅ。独占禁止!木崎だけ特別ってわけじゃないんだぞ!」

あ。
まずい。
イライラする。
でも我慢、我慢だ碧人。
ここで全てをぶち壊したら今までの凛の努力が水の泡だ。
ぐっと腹に力を入れ、かき集めた理性で穏便な対処法を探す。
手っ取り早いのは俺が一旦この場を離れることだろう。

「分かった分かった。じゃあ俺は先に帰るから、気が済んだら凛を解放してやって」

作り笑顔がやや引きつったのはやむなしだ。
大丈夫。
仕方がない。
俺はこの先もずっと凛と一緒だけど、あいつらは今日で最後なんだから。
自分をなだめるように何度も心で繰り返していると、後ろからぐいと腕を引っ張られた。
引き止めたのは必死な顔をした凛だった。

「待って。一緒に帰るから」

後ろではもれなく江原たちがブーブー文句を垂れている。
凛は不自然なほど強く俺の腕を握りしめ、何かに耐えるように地面を睨み、大きく息を吸った。

「江原ごめん。碧人は……、碧人だけは俺の特別なんだ」

ほのかに薫る春風が木々の間を吹き抜ける。
続く言葉を遮るように凛の肩を掴んでしまったが、凛はじっと俺を見上げ、見惚れるほど綺麗に笑った。

「俺、碧人と付き合ってるから」
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