夏だから君を

うづきあお

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《最終話:WINDING ROAD》

【凛:道の先へ】

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卒業という後押しもあったからだろう。
それは自分でも驚くほどはっきりと口から出ていた。
江原たちは何を聞いたのか理解できずにまだ固まっている。
俺の周りだけ時が止まったみたいで、その外側を卒業生たちが流れるように通り過ぎた。

「碧人、行こう」

碧人の腕を掴み直し、そのまま歩き出す。
後ろを振り返る勇気はなかったけれど、やっと自分の口で言えたことが何よりも嬉しかった。

「凛……」

心配そうな淡い瞳がどこか申し訳なさそうに俺を見ている。
違うよ碧人。
俺は碧人のせいで全てを捨てるんじゃない。
自分を保つだけで精一杯だった過去を脱ぎ捨て、自分で選んだ未来に顔を向けただけなんだ。
迫る校門を真っ直ぐに見ていると、背中から大声が追ってきた。

「りーん‼︎」

びっくりして振り向くと、江原たちが大きく手を振っていた。

「帰ってきた時は絶対連絡しろよー!」
「俺らはいつでも待ってるからなー!」
「向こうへ行っても頑張れよー!」

馬鹿みたいな声量で、千切れそうなくらい両手を振って。
ずっとそばにいてくれた友だちが、これからも何も変わらないからと、全身で、笑顔で、俺に伝えてくれている。
今の今まで平気だったのに、堪えきれずに溢れだした涙が後から後から頬を伝って流れ落ちた。
繋がったままの碧人の熱に励まされ、手を振って応える。
俺は何も失っていない。
これからも、今まで歩いてきた道の続きを碧人と一緒に歩んで行くんだ。

「碧人」

万感の思いが込み上げるままに、晴れやかなこの心を、今隣にいてくれる君へ。

「ずっとそばにいてくれて、好きだと言ってくれてありがとう。碧人が俺を選んでくれてよかった」

碧人はぐっと顔を歪めると手の甲で目元を覆い、唇を噛み締めた。

「……うん」

いつも優しく朗らかな声は、俺にだけ分かるくらい微かに震えて、風の中に消えた。



***



普通とは何だろう。
普通じゃないとは何だろう。
左手の薬指にしっくりはまる銀の輪を撫でながら、そんな無駄なことに思いを馳せてみる。
ソファに沈みこみ、膝に乗せたパソコンを閉じているとリビングの扉が開いた。

「凛。ミロがやたら離れないんだけど、もう餌やった?」
「うん。碧人の出張が長かったから甘えてるんじゃないかな」
「凛は?まだ仕事?」
「今週分はもう終わらせたから、この土日は久々にゆっくりできるよ」
「やった」

碧人は木崎家の親猫ニコによく似た猫を抱えたまま軽くキスを落とす。
テーブルの上にはシャンパンとグラス。
ささやかなケーキと、ちょっとだけ贅沢なオードブル。
一年に一度だけ二人で祝う記念日は、付き合い始めた日ではない。
碧人が俺にキスをした、夏日のど真ん中。
あの日から続く光の道を、決して真っ直ぐではない曲がりくねったこの道を、どこまでも碧人と歩く俺はとても幸せだ。
だから、この生き方が俺の普通。
誰かと新しく出会うたびに驚かれたりもするけれど、今更何も変えようとは思わない。

「今日はミロたんは俺のためにゲージで寝んねしてくれるかなぁ」
「そんなに碧人から離れないのにちょっとかわいそうな気もするけど」
「いいよなぁミロはずっと凛と一緒にいて。俺なんか出張先で一人寂しく冷たい弁当食べてさぁ」
「分かった分かった」

両手を伸ばして碧人の頭をよしよしと撫でる。
ソファに押し倒されたのは、まぁ、想定内。
沢山変化した環境と、何も変わらない愛情を織り重ねた日々を慈しみながら、今日も俺は碧人の腕の中で生きている。
絡んだ舌と熱に翻弄されながら、やっぱりミロにはゲージで眠ってもらわなければならないようだと、ぼんやり思いながら目を閉じた。








— 最終話:WINDING ROAD 了—



『夏だから君を』 完
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