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十二話
しおりを挟む白い楕円のテーブルの端と端に座り、向かい合わせにならない様に絶妙に僅かに椅子をずらした。
分かってはいたが、もの凄く気不味い。
予定時間より少し早めにベルティーユが中庭へと着くと、既に彼の姿があり謝罪しつつ慌てて着席をした。すると側で控えていた執事のホレスがお茶を淹れてくれる。その際に彼から「態々すまない」と声を掛けられたので「いえ……」そう一言だけ返した。それから互いに一言も発していない。
(こんな時、どうすればいいの……)
何か気の利いた言葉も話題も全く浮かばない。自分の引き出しの少なさに落胆した。
この六年、話せる人間は限られていた。ブルマリアスに来た時はまだ十二歳で、ベルティーユが気を回さなくても周りが気を利かせてくれていた。だがベルティーユも、もう十八歳だ。本来ならば淑女としての振る舞いが出来ていなくてはならない。当然立ち居振る舞いのみならず気を利かせる事も重要だ。
ふとテーブルの上に視線をやると、少し大き目のホールケーキが置かれていた。席に着いてからは、ずっと手元ばかり見ていたのでまるで気付かなかった。たっぷりのクリームの上に、隙間なく苺やブルーベリー、木苺などが乗せられている。ケーキの他にもサラダにスープ、肉料理等がテーブルに隙間なく並んでいる。豪華過ぎる食事に、とてもお茶会とは思えない。だがこれではまるでーー。
(お誕生日みたい……)
「ベルティーユ」
「え……」
彼から声を掛けられた瞬間、ふわりと花の香りが鼻を掠める。そう思った時には視界が花で覆われた。
「君の為に用意したんだ。受け取って欲しい」
気付けば彼の姿はベルティーユの直ぐ側にあった。徐に片膝をつき真っ直ぐにベルティーユの瞳を見つめながら、真っ白で愛らしい小さな無数の花を束ねたものを差し出された。
彼の青みを帯びた銀色の艶やかな髪を涼やかな風が揺らし、眩しい日差しが灰色の瞳を照らし出している。それは、気が付けば見惚れてしまう程に美しい光景だった。時が止まってしまったのではないかと錯覚を覚えた。
「ありがとう、ございます」
抱えきれないくらい大きな花束を、ベルティーユは抱き締める様にして受け取った。見覚えのあるそれに思わず目を見張る。この花を何時も窓辺に飾ってくれていた侍女も兄の様に慕っていたクロヴィスもロランも皆、変わってしまった。もしかしたらクロヴィスが言っていた様に実兄であるディートリヒも、ベルティーユが知らない間に変わってしまったのかも知れない。たった六年ーーされどあれから六年もの歳月が流れた。実妹である自分が信じなくてどうするのかと自分に強く言い聞かせてきたが、本当はもう限界だった。兄がブランシェを陵辱し、その所為で彼女は死んだ。
「っ……」
抑えきれない涙が溢れ出してしまう。自分はやはり淑女になんてなれない。人前でこんな醜態を晒すなんて情けないと分かっているが、止めようとすればする程更に涙が溢れてしまう。せめて泣き顔は見せない様にと花束で顔を隠した。きっと彼は呆れ果てているに違いない。折角用意して貰ったお茶の席を台無しにしてしまった。
「ベルティーユ」
不意にフワリと風を感じた。彼は自らの上着を脱ぐとベルティーユに掛け一瞬躊躇う素振りを見せた後、その上から抱き締めてくれた。
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