冷徹王太子の愛妾

月密

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三十三話

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 波打つ赤く長い髪と緑色の瞳、女性にしては長身の彼女の名はサブリナ・フォートリエ。レアンドルの叔父であるジークハルトの妻だ。そして今回、彼女から侍女のアンナを借り受けた。

 郊外にあるフォートリエ家へと到着すると、ロビーでサブリナがレアンドルを出迎えた。普段和かな彼女だが、今日は随分と深刻な面持ちだ。

「レアンドル殿下、この度はご迷惑をお掛け致しまして誠に申し訳ございません」

 頭を深く下げたまま何時迄も顔を上げないサブリナに、内心溜息を吐く。
 正直かなり腹は立っているが、此方にも落ち度はある。今回は早急に対処する必要があったので手短な所から手配してしまったのだが、幾ら信頼出来る相手だとしても素行調査くらいはしておくべきだったと反省をしている。
 
「サブリナ様、叔父上は何方に」

 大人気ないが、今はまだ謝罪を受け入れる気分にはなれず話を進めた。すると彼女は顔を上げ困った様な表情をしながらもレアンドルを屋敷の奥へと案内をする。

「ジークハルト様は応接間にてお待ちです」


 部屋に案内されると、長椅子に普段と別段変わった様子のないジークハルトが座っていた。レアンドルに気付くと正面へ座る様に促される。
 使用人が人数分のお茶を淹れそのまま下がると、部屋にはレアンドル含め三人となった。

「レアンドル、今回の件完全に此方の落ち度だ、悪かった」
「……それで、アンナはどうしたんですか」

 昨夜、アンナを問い質した後フォートリエ家へ使いをやりフォートリエ家からは侍従等がアンナを引き取りに来た。

「今は監視を付けて部屋に置いている」
「そうですか……。昨夜、本人からも話は聞きましたが随分と取り乱していて話にならなかったんです」

 何を聞いても顔を青くして謝罪するばかりで、時折り「リヴィエが憎かった」と言葉を洩らすも会話にはならなかった。強引に吐かせる事も出来なくはないが、あくまでも借りている立場である故に断念をした。
 
「その前に少しいいか。お前に謝罪したいと言っている奴がいる」
「?」

 言い回しからしてアンナではないだろう。ならば一体誰何だとレアンドルは怪訝な表情をする。

「入って来い」

 ジークハルトがそう言うと、サブリナが席を立ち扉を開ける。すると意外な人物が部屋に入って来た。

「キース」

 あの時はベルティーユの身を優先したのでその場に捨て置いたが、屋敷に戻ってから別れた場所へ兵を向かわせていた。だが既に彼はその場にはいなかった。当然城の宿舎も確認させているがやはり姿はなく、行方を探していた所だ。

「団長っ、申し訳ありませんでした‼︎」

 目が合った瞬間、キースは顔を歪ませ今にも泣き出しそうな表情になりその場で崩れ落ち頭下げた。

「経緯は分からないが、お前のした事は到底赦される事ではない。無論それ相応の覚悟は出来ているのだろうな」
「はい……」

 上官を欺こうとするなど極刑にされても文句はいえない。もしこの様な事態が戦さ場で起きたならば、騎士団が全滅する危機に晒される可能性も十分にあり得る。

「レアンドル、そう目くじらを立てるな。先ずはキースの話を聞いてやってくれ」

 叔父であり元上官でもあるジークハルトには昔から頭が上がらない。無論今はレアンドルが彼の上官であり最終的な決定はレアンドルが下す。ただやはり彼の言葉を無下には出来ない。
 
「キース、お前の話を聴こう。但し、嘘や誤魔化しなどは絶対に赦さない」
「はい……」

 冷ややかな目をキースに向けると、彼は床に膝を付いたまま居住まいを正した。普通に立てばいいものの……余り見る事ない姿勢に呆れるが、キースはこういう人間だ。
 これまでは生真面目だが少し抜けている、だが真っ直ぐで誠実な人間だと信頼をしてきた。故にこんな裏切りをするなど正直信じ難いし、残念でならない。

「実は……ロラン様に」

 彼は嘘偽りなく話すと誓いを立て、重い口を開いた。
 
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