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三十九話
しおりを挟む何の特徴もない茶色の髪と茶色の瞳に、何処にでもいるつまらない顔の女。それに加えて頭も性格も悪く救いようが無い。
「ねぇ、ロラン! 聞いてるの⁉︎」
「聞いてるよ」
「なら何とか答えてよ! 何時私と結婚してくれるの⁉︎」
結婚を餌に今回の件を手伝わせたのはいいが、煩くて仕方がない。早々にドニエ侯爵に連絡をして引き取らせるかとロランはシーラを見て溜息を吐く。
「結婚の話は、ドニエ侯爵と話して追々進めるよ。だから暫く君は屋敷に帰りな」
面倒そうに言うと、彼女は顔を真っ赤にして更に憤慨する。
「嫌よ! あんな屋敷にもう二度と帰りたく無い! ロランだって知ってるでしょう⁉︎ あの屋敷の人間は皆私を蔑んでる……まるで塵でも見る様な目で私を見ては嘲笑うの」
シーラ・ドニエーージャコフ・ドニエ侯爵の娘で一応侯爵令嬢だ。というのも、彼女は正妻の娘ではない。そしてジャコフはロランの母方の伯父にあたる。現在この国の王子は三人であるが、皆腹違いの兄弟で妹のブランシュだけはロランの母と同じだ。
シーラの母は遊び女と聞いているが、正直ジャコフという人間はそんな女の産んだ子供引き取る様な律儀な男ではない。何か打算がなければ有り得ないと思っていた。そして最近になりようやく理由が分かった。ジャコフ家は息子ばかり三人で、娘がいない。政治的道具にするなら娘の方が利用し易い。今回の事が良い例だ。まあロランは端からシーラを娶るつもりはないが。
「ねぇ、私頑張ったでしょう? 結婚、してくれるわよね?」
「はいはい、分かったって。でもさ、結果的に今回失敗しちゃっただろう? だから兄さんもご立腹でさ……次の策練らなくちゃいけないし、俺もこう見えて忙しいんだよねー」
シーラは今回の事で顔が知られているし、もう使い道はない。伯父の手前、これまである程度は構ってやって来たがそれも仕舞いだなと思う。
「ねぇ、どうしてロランは王太子殿下じゃなくてクロヴィス様の味方をするの? やっぱり仲が良かったから?」
仲が良いか……確かにレアンドルよりは接する機会は多く、歳も近いしブランシュと良く三人で一緒にいた。ブランシュの事は本当に可愛がってくれていたし、別にクロヴィスの事は嫌いではない。だが好きかと言われたら、分からない。
(でもまさか、クロヴィス兄さんがあんなになっちゃうなんてね……)
兄は驚く程に脆弱だった。ブランシュが死んで呆気ない程簡単に壊れた。そしてまたベルティーユへの執着が凄まじかった。正に愛憎というべきだろう。
ロランだってブランシュが死んだ事に憤慨しまた悲嘆に暮れた。だがクロヴィスの様に壊れたりはしない。それは妹への想いがその程度だったのか、はたまた冷たい人間だからかは分からない。だがそれでもリヴィエを憎み赦せない気持ちは変わらないのは事実だ。
(俺は絶対に赦さないからね、ブランシュ……)
「さあ、どうだろうね。俺はただブランシュは死んだのに、あの子だけのうのうと生きている事が赦せないーー絶望を味合わせて、もっと苦しんで苦しんで、苦しませたい……それだけだよ」
「……でも、ブランシュが死んだのはあの子の所為じゃないでしょう?」
「何、それってまさか庇ってるつもり?」
一体何を言い出すかと思えば……余りに戯言をほざくので思わず鼻で笑ってしまった。
「わ、私が、言うのも違うけど……あの子だって、好きで人質になった訳じゃ無いし……。リヴィエの人間は非道とか残忍とかよく聞くけど、私からしたらブルマリアスの人間だって同じだし……悪い奴は悪いし……それにあの子、そんな悪い子じゃなかった、痛っ‼︎」
気付いたらシーラの頬を叩いていた。思っていた以上に力が入っていたらしく、彼女は床に倒れ込む。
「分かった様な口を聞くな! 次そんな下らない事を言ったらどうなるか分かってるんだろうね」
「ロラン、ごめんなさいっ‼︎ もう言わないから、私を見捨てないでっ」
縋り付くシーラに舌打ちをして、ロランは彼女を放置したまま立ち去った。
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