冷徹王太子の愛妾

月密

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五十話

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 怒りに震えどうにかなってしまいそうだ。
 ベルティーユからクロヴィスに監禁されていた時の話をされた。卑猥な行為は無論赦す事は出来ないが、何よりも首を絞めた事が赦せない。クロヴィスがベルティーユを本気で殺そうとしたとは考え辛いが、殺意の有無は関係ない。
 レアンドルは音が鳴る程に奥歯を噛み締めた。

(どれだけ彼女を傷付ければ気が済むんだっ)

「すまない……」
「どうしてレアンドル様が謝られるんですか」
「俺が不甲斐ないからだ。弟一人止める事が出来ず、それどころか足を掬われた。父上……いや国王は俺を見限った。ブルマリアスの騎士団は今や反逆者として扱われている……全て俺の責任だ」

 自分の甘さが招いた結果だ。
 敵からは冷酷非道などと恐れている自分が何とも情けなく滑稽な有様だ。父から見限られる可能性は十分に考えられた。だが心の何処でそんな日は来ないと思っていた。父にとって自分はただの駒に過ぎないが、それでも血の繋がった息子に違いないのだからと信じたかったのかも知れない。本当に莫迦だった。あの傲慢で冷淡な人間が情など持ち合わせている筈はないのだ。


「君には辛い思いばかりをさせてしまっているな」

 少し落ち着きを取り戻したレアンドルは、シーツを身体に巻き付け此方を不安気に見ているベルティーユの頭を撫でた。そして今更恥じらう必要などないのに懸命に隠そうとしている姿は本当に愛らしい。斯く言う自分も話が長くなる事を見越して手短かに置かれていた寝着を羽織っていた。まあ彼女とは意味合いが違うが。

「いいえ、そんな事はありません。確かに辛かったり悲しかったり苦しいと思う事もありましたが、楽しい事も嬉しい事も優しさを感じる事も沢山ありました。それに何よりも、今こうしてレアンドル様のお側にいる事が出来て心から幸せだと思っています」

 穢れとは無縁と思える様な真っ直ぐで澄んだ蒼い瞳に吸い込まれそうになる。きっと彼女を穢す事は誰にも出来ないのだろう……そんな風に思わされた。
 そっと抱き締めればベルティーユもそれに応える様にして腕をレアンドルの背中へと回す。細くて華奢な身体は少しでも力加減を間違え様ものなら簡単に壊れてしまいそうだ。
 あの塔での再会した時から彼女は随分と成長を遂げている。強くなった、レアンドルが頼もしいと思うくらいにーー。

「俺も同じだ。君が側にいてくれるだけで生きる気力が湧いてきて生きていると強く実感出来る。君は俺にとって希望であり唯一無二の存在なんだ。……君がいない世界など考えられない」

 再びベッドに二人で沈み込んだ。身体を隙間なく密着させ長い口付けを交わす。レアンドルはベルティーユの唾液や息すら喰らうかの様に夢中で口付けた。

(彼女のこの唇に、身体に触れて……)

 脳裏にクロヴィスが彼女に触れている妄想が過り腹立たしく悔しくて仕方がない。今直ぐにクロヴィスの息の根を止めてやりたい衝動に駆られる。

「レアンドル、様……?」
「何でもない。ただ君が愛おしくて堪らないんだ……」

 それからレアンドルとベルティーユは朝日が窓から射し込むまで互いに求め合った。


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