冷徹王太子の愛妾

月密

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五十一話

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「さて、これからが本番だ。どうする、騎士団長」

 騎士団の幹部を集めて、古城の応接間にて作戦会議が開かれていた。団長であるレアンドルの他に副団長のジークハルト、医療班の隊長であるルネ、その他各隊の隊長等が顔を揃え総勢二十人程が集まっている。見るからにベルティーユだけ場違いではあるが、彼から参加して欲しいと言われたので此処の場にいる。彼曰くこれからはベルティーユを妻と同等に扱い、それを周囲に示すいい機会だと話す。ただ先程から視線が痛い。レアンドルの思いがどうあれ敵国の人間が自分達の明暗を分ける重要な会議に参加しているのだ。面白い筈がない。

「現状から推測して向こうは騎士団こちらを殲滅するつもりだ。無論和解や降伏などは応じるつもりはないだろう。ならばすべき事は一つだけだーー国王を討ち悪政を終わらせる」

 レアンドルの言葉に誰一人異論を唱える事はなかった。
 その後は細かな役割や時間、様々な状況を想定し全てに対応出来る様に話し合われた。

 傍観するしか出来ない自分が情けなく思う。なのでせめて毅然としていたい。だがそれも出来そうになかった。
 話が進むにつれ不安が募っていく。最悪な事態ばかりが頭を過り、もしレアンドルが死んでしまったらーーそんな下らない事まで考えてしまう。彼が身体的にも精神的にも強い人なのは分かっている。だが相手はブルマリアスという国家そのものだ。正直勝てる気がしない。

「ベルティーユ、終わったぞ」
「え……」

 彼の少し後ろで控えていたベルティーユにレアンドルが声を掛けた。我に返ると全員が此方を見ていた。どうやら意識を飛ばしていたらしく、ベルティーユが不安な気持ちを抱いている間に会議は終了していた。
 
「心配しないで下さい。例え何があろうと団長は勿論の事、ベルティーユ様にも指一本触れさせはしません」
「必ず俺達が命を懸けお護り致します」
「実は団長の血は緑で不死身なんですよ」
「そうそう、それに冷酷非道と名高く敵も団長の顔見ただけで逃げ出す程で」

 一人の団員が声を上げると他の団員等も冗談混じりに口々にそう言っては頭を下げていく。そんな団員等を見て、如何に彼等からレアンドルが信頼されているかを知った。
 隣にいるレアンドルを見れば安心させる様に笑ってくれた。

「うわ、団長が笑ってる」

 誰かがそう言うと一斉に笑いが起きた。ジークハルトは大口を開け笑い、ルネは含み笑いをしている。レアンドルはあからさまに嫌そうな顔をするが気にする事なく皆笑い続ける。

「私は……私は、敵国の人間です。その様な言葉を頂ける立場にはありません」
「ベルティーユ……」

 誰もが心の底から笑っていない事なんて分かっている。和やかでだが異様な程張り詰めた空気に耐えられなくなり、ベルティーユはそんなつまらない言葉を言ってしまった。

「確かに貴女は敵国リヴィエの姫君です。ですが、私共の仕えるべきお方の大事なお方です。そこに国など関係ありません」

 その言葉にベルティーユは周りを見渡す。ジークハルトやルネ、団員等一人一人と目が合った。そこに憎しみや蔑む思いは全く感じられない。レアンドルを見れば頷いてくれた。
 ベルティーユは唇をキツく結び、背筋を正す。呼吸を整えると顔を上げた。

「レアンドル様の事を宜しくお願いします!」

 一瞬部屋静まり返り、次の瞬間皆一斉に吹き出した。先程とは違う笑い方だ。本当にただただ可笑しくて仕方がないのだと伝わってくる。

「ははっ、こりゃ傑作だな! 良かったな、レアンドル!」
「ぷっ、レアンドル、貴方愛されてますねー」

 ジークハルトやルネに茶化され怒るレアンドルの顔は真っ赤になっている。
 皆が笑う中、ベルティーユだけが理解出来ず目を丸くしていた。
 
「後……死なないで下さい」

 小さな声で言ったつもりが、部屋に響いていた。ピタリと笑い声は止まり、一人の団員が微笑み掛けてくる。

「お約束は出来ませんが、もし私共を思って下さるのでしたら、戦いが終わった後に命を懸けた勇士等に花を一輪供えてあげて下さい。それだけで私共は救われます」




 その夜、ベルティーユは寝室として使う様にと宛てがわれた部屋の窓辺で佇んでいた。
 古城の周囲は森に囲まれており、とても静かだ。風音と時折鳥の鳴き声が聞こえてくる。

「ベルティーユ」
「レアンドル様、お疲れ様でした」

 レアンドルは部屋に入って来るとベルティーユを背中から抱き締めた。

「先に休んでいていいと言ったのに。眠れないのか?」
「少しでもレアンドル様と一緒に居たかったので」

 夕食後、宴会宛ら皆酒を酌み交わし各々が愉しんでいた。酒の弱いベルティーユは早々に抜け出して来ると部屋で休んでいた。

「奇遇だ、俺もだ」
「レアンドル様」
「どうした」
「……実は私は謝らなくてはならない事があるんです」

 言わなくてはと思っていたが、中々言い出せずにいた。

「レアンドル様から頂いた香り袋を、失くしてしまったんです。折角レアンドル様が作って下さったのに、それに指輪も……すみません」

 何時も肌身離さず持ち歩いていたが、逆にその所為で失くす事になった。
 クロヴィスに捕まっていた時、ナイフでドレスを裂かれた際に失くした。香り袋もその中に入れてあった指輪も母の形見のブローチも……。

「香り袋はまた作ればいい、指輪もまた新しい物を用意すればいいだけの話だ。気に病む必要はない。俺にとって大事なものは君だ。君が無事ならそれでいい」

 肩越しに振り返ると、彼から触れるだけの口付けをされた。不意打ちにベルティーユは気恥ずかしくなり身を縮める。すると彼が笑う声が聞こえた。

「レアンドル様」
「今度はどうした? また何か失くしたか?」

 珍しく茶化してくる彼にベルティーユは少し拗ねた様に口を尖らせる。

「ははっ、冗談だ。それでどうしたんだ」
「失念していましたが、シーラがレアンドル様に"伝えなくちゃいけない大事な事がある"と話していた事を思い出したんです」

 逃げて来た先でシーラが殺されロランが彼女を連れ去り、レアンドルは負傷し生死の境を彷徨っていた。この短期間で色んな事があり過ぎて頭の整理が追いつかないでいる。そしてようやく少し落ち着く事が出来て彼女の言葉を思い出した。

「大事な事とは?」
「私にも分かりません……。ただシーラの様子からしてとても重要な事ではないかと。なので一応、レアンドル様の耳に入れておいた方が宜しいかと思いまして」
「そうか、心に留めておこう」

 彼はそう言うと甘える様に頬を寄せ、手を絡ませるとベルティーユをベッドへと誘導する。何時と違って可愛いらしいレアンドルにベルティーユは笑んだ。
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