冷徹王太子の愛妾

月密

文字の大きさ
54 / 78

五十三話

しおりを挟む
「話を聞いて欲しいんだ」


 城へと辿り着くと城内は騒然としていた。どうやらレアンドル達は城へと突入をしたらしい。敵味方入り乱れ、威風堂々と聳え立つ城はただの戦場と化していた。
 物陰を上手く利用し身を隠しながらロランと二人クロヴィスの元へと急いだ。
 ベルティーユは団員等が付いて来るのを拒否した。こんな状況故、逆に多人数で行動するのは目立ってしまい危険だと判断したからだ。
 そして命懸けで辿り着いた先は、離宮だった。離宮は不気味な程閑散として人の気配すらない。奥へ奥へと進んで行くとロランはある部屋の前で足を止める。そこはかつてベルティーユが人質として六年もの間暮らしていた懐かしい部屋だった。

 中に入るとクロヴィスは、何をするでもなく一人窓辺に佇んでいた。彼が徐に振り返った瞬間、ロランは素早く剣を抜きクロヴィスの喉元に剣先を突き付け話を聞く様にと脅した。だが彼は気にも留めない様子で、ロランの後にベルティーユの姿を見つけると歓喜する。

「ベル‼︎ あぁ、やはり戻って来てくれたんだねっ」

 相変わらずの彼にこれまでの恐怖が蘇り足が竦みそうになるが、躊躇っている時間はない。

「そこから動くな。兄さん、先ずは話をさせて欲しい」
「ロラン、君まで僕とベルを引き裂こうとするのかい」

 虚な顔でロランを睨むが、ロランに引くつもりはない様だ。

「クロヴィス様、私が此処に来たのは貴方に話したい事があるからです。決して貴方の元へ戻って来た訳でありません」
「ベル、意地を張らなくていいんだよ。逃げ出した事ならもう怒ってないから。君さえ帰って来てくれるならそれで全て水に流して忘れて上げる。また二人で愛し合おう」

 今この瞬間にも敵味方関係なく命を落としている者達がいるというのに、彼は気にも留めず自分の事ばかりだ。それが腹立たしくて遣る瀬無くて仕方がない。

「クロヴィス様、私の話を聞いて下さい。大事な話です。貴方の大切な妹君ブランシュ王女の死の真相です」

 その言葉にクロヴィスの顔から急激に表情が抜け落ちた。まるで硝子玉の様な瞳がベルティーユを凝視する。此方を見ているのにただその瞳には映しているだけに見えた。少し不気味だ。

「……良いよ、聞いてあげる」

 窓際の壁に寄り掛かり床にそのまま座り込んだ。顔はあからさまに背ける。そんな彼にベルティーユは落ち着いて丁寧に話し始めた。




 もっと喚き散らすかと思ったが、意外にもクロヴィスは落ち着いていた。ベルティーユが話し終えると、ロランが証拠である書簡を手渡す。

「これは沢山ある内のほんの一部に過ぎない。残りは安全な場所に隠してある」
「……」

 黙り込み彼は食い入る様に書簡を見続けている。

「それでも兄さんは国王側に付くの? それとも王太子になれたから……死んでしまったブランシュの事なんて、もうどうでもいい?」
「っ‼︎」

 態と挑発する様な言葉をロランが吐くと、案の定クロヴィスはその瞬間立ち上がりロランに掴み掛かった。
 
「僕は別に王太子の地位が欲しかった訳じゃない‼︎ ブランシュが生きてくれていればそれで良かったんだっ!」
「だったら‼︎ やるべき事は分かるだろう⁉︎」
「……父上に楯突くつもりか」
「そうだよ。ブランシュを道具の様に利用して殺した国王を討つしか選択肢はないだろう⁉︎」

 まるで子供の様に掴み合い言い争う二人を冷静にベルティーユは見ていた。

「そんな事は、分かっているっ‼︎ でも、これを肯定するなら僕はっ……」
「……」

 ロランの衣服を掴み手を振るわせながら、彼はベルティーユに視線を向ける。その顔は今にも泣き出しそうだった。

「僕はっ‼︎」

 そのまま力なくその場に崩れ落ちて、俯き身体を振るわせる。
 クロヴィスが今、何を思っているのか分かりたくないのに分かってしまうのが苦しくて辛い。
 
「僕は……信じない」
「兄さん」
「こんな書簡だって偽装した物に違いないっ。ロラン、君だって騙されているんだ‼︎ ブランシュはリヴィエの王に陵辱されてそれで嘆いて自ら命をっ」
「俺も始めは信じられなくて、筆跡の鑑定をした。その後にドニエ侯爵家の使用人を問い詰めたら吐いたんだ。国王の側近が頻繁に屋敷に出入りしていて、その手紙の話をしていたらしいよ。自分の屋敷内だから油断していたんだろうね。それに使用人だけじゃなくて、シーラもそれを聞いている」

 その言葉にクロヴィスは諦めた様に大人しくなった。

「クロヴィス様、今は間違いを嘆いている時間はありません。私やロラン様と一緒に来て下さいますよね。そして真実を皆の前で明らかにする事に協力して下さい」

 否定も肯定も出来ないでいるクロヴィスを連れベルティーユ達は国王のいる本殿へと向かった。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或
恋愛
◆第18回恋愛小説大賞で【優秀賞】を戴きました。 ありがとうございました! 「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」 ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。 まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。 彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。 そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。 仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。 そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。 神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。 そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった―― ※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。 ※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

処理中です...