55 / 78
五十四話
しおりを挟む
こんな状況でも眉一つ動かす事もなく堂々と玉座に座り此方を見据える国王に流石だと思ったーー。
明け方に出立してから城に辿り着いたのが同日の夕暮れだった。闇に紛れ攻め入る事も考えるが、かなりの犠牲が予想出来る。成功率は上がるが余り好ましい作戦ではないと断念した。
レアンドル達は城の後方に陣構え、夜が明けるのを待った。そして空が白み始めた頃、レアンドルは騎士団を率いて城へと攻撃を開始した。
半日掛けて城内への突入が成功し、此処からは各部隊に分かれての行動となる。レアンドルはジークハルトと共に二部隊を連れ国王のいるであろう謁見の間を目指した。
多勢に無勢ではあったが、そんな事は物ともせずにレアンドル達は向かって来る敵兵を薙ぎ払う。
まさか生まれ育ったこの城に攻め入る事になろうとは思わなかった。迷いはないが今更ながらに複雑な気分だった。
血飛沫を幾度も浴びながらようやく謁見の間へと辿り着く。重圧のある華美な扉を開け放つと国王とその側近等がいた。
レアンドルは剣を鞘へと収め、ゆっくりと中へと足を踏み入れる。兵士らは緊迫した様子で剣を構えており、側近等は情けない事に見るからに弱腰に見える。そんな中、こんな状況下であるにも関わらず一人だけ普段と何ら変わらない異質な存在がいる。国王のオクタヴィアンだ。
「随分と騒がしいな、レアンドル」
涼しい顔をしてレアンドルを見据えるオクタヴィアンにたじろぎそうになる。これまで父に逆らった事など一度たりともなかった。幼い頃から植え付けられた父への服従心の所為かも知れない。無意識に逆らう事に恐怖を感じている。
「フッ、どうした、態々私に会いに来たのだろう? 何をそんな所で突っ立っている」
上から押さえ付けられる様な重圧に唇をキツく結んだ。
「レアンドル、確りしろ」
少し離れた後方からジークハルトが声を掛けてくる。その声に我に返りレアンドルは拳を握り締め背筋を正しオクタヴィアンを見据えた。
「俺が此処に来た理由は一つだけです。長く続いて来た悪政を終わらせる為ーーその為に俺は貴方を討つ」
レアンドルが一歩踏み出すと兵士等がオクタヴィアンの前に壁を作る。それと同時にレアンドルは剣を抜いた。
「私の首一つ取った所でこのブルマリアスは変わらぬぞ」
冷笑しているオクタヴィアンの言葉は正しい。王の権威は絶大だ。だが国を維持するには此処にいる国の中枢と呼べる側近等の力が必要不可欠であり、例えオクタヴィアンを討ちレアンドルが王になろうが彼等に王として認めさせ従わせる力が無ければただの王という名の道化となるだけだ。そんな事は疾うの昔から理解している。だがいざオクタヴィアンの前に立ち、格の違いを感じてしまい臆する自分がいる。果てして本当に自分が玉座に座るに相応しいのだろうかと迷いや不安が生じてくる。
「レアンドル、先程このブルマリアスを悪政と称したが何故そう言える? 確かに今のブルマリアスの体制に不満を持つ民もいよう。だが戦をし国土を広げ国を豊かにする事の何がおかしい? 幸福は無償では手に入らぬ。それ相応の対価としての犠牲が必要となるのは当然であり致し方のない事だ。お前なら誰よりもそれを実感してきたのではないか」
「っーー」
常に戦に身を置いてきたレアンドルだからこそ分かると言いたいのだろう。恩恵を受ける側であり犠牲になる側でもある。これまで多くの仲間達が犠牲になる様を見て来た。その一方でそれがあったからこそこの国の民達が豊かに暮らす事が出来ている様を見て来た。無論自分も同じだ。それを否定する事は出来ない。だがーー。
邪念に惑わされ、此処まで来てどうする事も出来ずただただ困惑する自分が情けない。ジークハルトが何かを喚いているが言葉として認識が出来ない。雑音に聞こえてしまう。聞きたくないオクタヴィアンの言葉ばかりが耳に入ってくる。自分の信じる正義が曖昧になり思考が鈍っていく感覚がした。
「レアンドル、今からでも遅くない。考えを改め今度こそ私の意に逆らわず付き従うと約束するならば、お前を王太子へと戻そう。何しろクロヴィスは思った以上に不甲斐なく王太子の器ではないと思っていた所でな」
「俺は……」
レアンドル様ーー。
不意に彼女が呼ぶ声が、姿が思い浮かんだ。内ポケットに入れている香り袋を衣服の上から握り締める。そうだ彼女と約束をした。リヴィエと和平を結び、争いのない国にする。もう誰も嘆く事のない犠牲を払わなくても幸せに暮らせる国にーー。
(俺は一体何をしている)
レアンドルは剣を握り直すと、オクタヴィアンを見据えた。もうそこに迷いはない。その事を感じ取ったオクタヴィアンは呆れ顔で溜息を吐いた。そして右手を上げ攻撃の合図を兵士等に送ったーー。
「レアンドル様」
その時だった。此処にいる筈のない彼女が現れた。
明け方に出立してから城に辿り着いたのが同日の夕暮れだった。闇に紛れ攻め入る事も考えるが、かなりの犠牲が予想出来る。成功率は上がるが余り好ましい作戦ではないと断念した。
レアンドル達は城の後方に陣構え、夜が明けるのを待った。そして空が白み始めた頃、レアンドルは騎士団を率いて城へと攻撃を開始した。
半日掛けて城内への突入が成功し、此処からは各部隊に分かれての行動となる。レアンドルはジークハルトと共に二部隊を連れ国王のいるであろう謁見の間を目指した。
多勢に無勢ではあったが、そんな事は物ともせずにレアンドル達は向かって来る敵兵を薙ぎ払う。
まさか生まれ育ったこの城に攻め入る事になろうとは思わなかった。迷いはないが今更ながらに複雑な気分だった。
血飛沫を幾度も浴びながらようやく謁見の間へと辿り着く。重圧のある華美な扉を開け放つと国王とその側近等がいた。
レアンドルは剣を鞘へと収め、ゆっくりと中へと足を踏み入れる。兵士らは緊迫した様子で剣を構えており、側近等は情けない事に見るからに弱腰に見える。そんな中、こんな状況下であるにも関わらず一人だけ普段と何ら変わらない異質な存在がいる。国王のオクタヴィアンだ。
「随分と騒がしいな、レアンドル」
涼しい顔をしてレアンドルを見据えるオクタヴィアンにたじろぎそうになる。これまで父に逆らった事など一度たりともなかった。幼い頃から植え付けられた父への服従心の所為かも知れない。無意識に逆らう事に恐怖を感じている。
「フッ、どうした、態々私に会いに来たのだろう? 何をそんな所で突っ立っている」
上から押さえ付けられる様な重圧に唇をキツく結んだ。
「レアンドル、確りしろ」
少し離れた後方からジークハルトが声を掛けてくる。その声に我に返りレアンドルは拳を握り締め背筋を正しオクタヴィアンを見据えた。
「俺が此処に来た理由は一つだけです。長く続いて来た悪政を終わらせる為ーーその為に俺は貴方を討つ」
レアンドルが一歩踏み出すと兵士等がオクタヴィアンの前に壁を作る。それと同時にレアンドルは剣を抜いた。
「私の首一つ取った所でこのブルマリアスは変わらぬぞ」
冷笑しているオクタヴィアンの言葉は正しい。王の権威は絶大だ。だが国を維持するには此処にいる国の中枢と呼べる側近等の力が必要不可欠であり、例えオクタヴィアンを討ちレアンドルが王になろうが彼等に王として認めさせ従わせる力が無ければただの王という名の道化となるだけだ。そんな事は疾うの昔から理解している。だがいざオクタヴィアンの前に立ち、格の違いを感じてしまい臆する自分がいる。果てして本当に自分が玉座に座るに相応しいのだろうかと迷いや不安が生じてくる。
「レアンドル、先程このブルマリアスを悪政と称したが何故そう言える? 確かに今のブルマリアスの体制に不満を持つ民もいよう。だが戦をし国土を広げ国を豊かにする事の何がおかしい? 幸福は無償では手に入らぬ。それ相応の対価としての犠牲が必要となるのは当然であり致し方のない事だ。お前なら誰よりもそれを実感してきたのではないか」
「っーー」
常に戦に身を置いてきたレアンドルだからこそ分かると言いたいのだろう。恩恵を受ける側であり犠牲になる側でもある。これまで多くの仲間達が犠牲になる様を見て来た。その一方でそれがあったからこそこの国の民達が豊かに暮らす事が出来ている様を見て来た。無論自分も同じだ。それを否定する事は出来ない。だがーー。
邪念に惑わされ、此処まで来てどうする事も出来ずただただ困惑する自分が情けない。ジークハルトが何かを喚いているが言葉として認識が出来ない。雑音に聞こえてしまう。聞きたくないオクタヴィアンの言葉ばかりが耳に入ってくる。自分の信じる正義が曖昧になり思考が鈍っていく感覚がした。
「レアンドル、今からでも遅くない。考えを改め今度こそ私の意に逆らわず付き従うと約束するならば、お前を王太子へと戻そう。何しろクロヴィスは思った以上に不甲斐なく王太子の器ではないと思っていた所でな」
「俺は……」
レアンドル様ーー。
不意に彼女が呼ぶ声が、姿が思い浮かんだ。内ポケットに入れている香り袋を衣服の上から握り締める。そうだ彼女と約束をした。リヴィエと和平を結び、争いのない国にする。もう誰も嘆く事のない犠牲を払わなくても幸せに暮らせる国にーー。
(俺は一体何をしている)
レアンドルは剣を握り直すと、オクタヴィアンを見据えた。もうそこに迷いはない。その事を感じ取ったオクタヴィアンは呆れ顔で溜息を吐いた。そして右手を上げ攻撃の合図を兵士等に送ったーー。
「レアンドル様」
その時だった。此処にいる筈のない彼女が現れた。
0
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない
望月 或
恋愛
◆第18回恋愛小説大賞で【優秀賞】を戴きました。
ありがとうございました!
「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」
ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。
まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。
彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。
そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。
仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。
そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。
神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。
そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった――
※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。
※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる