冷徹王太子の愛妾

月密

文字の大きさ
56 / 78

五十五話

しおりを挟む

「犠牲になるのが貴方方の大切な人でも同じ様に言えますか? 大切な親、妻や子、友人……誰かの幸せの為に殺す事が出来ますか? 誰かの幸せの為に貴方方自身が今、死ねますか?」

 謁見の間へとベルティーユが入って来た瞬間、レアンドルは夢でも見ているのかと目の前の光景に目を見張った。更に彼女の後に続いて現れたクロヴィスとロランを見て困惑する。一体何が起きていると。
 無論それはレアンドルのみならずその場にいる者達は一様に驚愕をしていた。そんな中、彼女は靴音を鳴らしながら堂々と歩いて来るとレアンドルの横を擦り抜け一歩前へと出た場所で足を止めた。そしてオクタヴィアンや側近等や兵士等と対峙をする。

「小国リヴィエの姫君には、私の考えはちと難しかった様だ」
「そうですね、私には貴方方の考えは分かり兼ねますし分かりたくありません。私は国が違えど話す事が出来れば分かり合えると信じていました。リヴィエとブルマリアスは和平を結べると信じていました。でもそもそもそれすら茶番でしかなかった」

(ベルティーユ……)

 彼女からヒシヒシと怒りが伝わって来るのを感じる。

「貴方は始めからリヴィエと和平など結ぶつもりはなかったんですよね?」
「……」
「ブランシュ王女にリヴィエの王ディートリヒの謀殺を命じたのは貴方ですね」

 ベルティーユの言葉にレアンドルは視線を落とし側近等は騒然となる。

「ドニエ侯爵との書簡での遣り取りや彼の屋敷の使用人等からの証言、ドニエ侯爵の娘からの証言もありますよ……国王陛下」

 怒りに満ちた表情を浮かべたロランは冷静に淡々と話すとオクタヴィアンを睨み付けた。

「俺はあんたを絶対に赦さない」
「父上……何故ブランシュにその様な命を下したのですか。もし仮にリヴィエの国王の謀殺に成功してもブランシュには自害する様に命じてあったんですよね⁉︎ 何故ですか⁉︎ ブランシュは父上の娘ではないのですか⁉︎」

 久々に見たクロヴィスは以前とは違い何処か虚で覇気を全く感じられなかった。興奮した様子でオクタヴィアンを問い質す。すると側近等も口々にベルティーユ達の言葉が事実かどうかを問いかける。当然だ。もしこれが事実ならば彼女の言う通りリヴィエとの和平など茶番に過ぎない。
 七年程前、側近等の中にはリヴィエとの和平に反対している者もいたが意外にもリヴィエとの和平に前向きな者が多かった。その理由は多々あるが、このまま行けばブルマリアスに未来がないと考えているからだ。今でさえ多くの国々から恨みを買い嫌厭されている。これから先、オクタヴィアンの体制を続けていけば大陸全ての国を敵に回す事になりブルマリアスは陸の孤島と化すだろう。幾ら大陸一の大国であろうとそうなれば先は知れている。国が維持できなくなり自滅するか、他国から袋叩きにあい破滅するか……何れにせよ未来などない。だからこそリヴィエとの和平はブルマリアスにとっても希望だった筈だった。

「まあ失敗に終わったがな。全く六年の歳月が水の泡だ。我が娘ながらに情けない。ブランシュに自害を命じたのは何方にせよ、生きていると面倒になる。それに後々理由付けにも使えるからのう。生きているより死んだ方が価値が出るというものだ。そもそもリヴィエなどの小国と大国であるこのブルマリアスが対等の立場になろうなど烏滸がましい話だったのだ。だが向こうから和平の申し出があったのはまさに僥倖だった。あの孤島に巣篭もりされたままでは此方は手も足も出せないからのう。それなのにも関わらず、外交の力で他国を使い我が国を攻め立てようとしてくる小賢しさよ」

 リヴィエの国王を討ち取った所で他国の様に侵略は出来ない。ならば何の為にそんな事をしようとしたのか。最早その問い自体が愚問なのだ。始まりは違ったかも知れないが、今やブルマリアスとリヴィエの戦いに意味はない。ただただ相手が憎いのだ。それは遥か昔から続いて来た慣習の様に身体や思考に染み付き、ブルマリアスの血に刻まれた呪いではないかとさえ思てしまう。きっとそれはリヴィエも同様だろう。
 
 玉座に座り独善的な言葉ばかりを並べるオクタヴィアンを見て急に滑稽に思えてきた。語るに落ちた彼にブルマリアスの国王としての威厳や誇りは何処にも感じられない。どんな言い訳を並べようとも、結局はリヴィエをのさばらせたくないとの自分本位なくだらない感情だ。
 レアンドルはゆっくりと前進し上段に足を掛けると兵士等が一斉に斬り掛かって来る。だが瞬く間に薙ぎ払う。オクタヴィアンの長年護衛を務めている大柄の剣士と対峙するも、なんて事はなかった。レアンドルの敵ではない。

「貴方の時代、いやこれまでのブルマリアスは終わった。時代は変わる……俺が変える。古き因果は俺が断ち切るっ‼︎」

 逃げる事も臆する事もなく玉座に座り続けるオクタヴィアンに迷う事なくレアンドルは剣を振り下ろした。その瞬間、目が合った父は笑って見えた。
 大量の血飛沫が宙を舞い、首が床に転がった。その光景に側近等はその場に膝をつき降伏の意思を示す。ただ一人を除いて。

「私達は悪くないっ! 我が国ブルマリアスは絶対的な正義だ‼︎ 悪いのは憎きリヴィエだっリヴィエだっリヴィエだー‼︎‼︎‼︎」

 気が触れ様に叫び短剣を鞘から抜き、ジャコフはある一点だけを目指し突進をする。

「ベルティーユっ‼︎‼︎‼︎」

 床を蹴り上げ彼女の元へと走る。ジルベールや他の団員等も駆け出すのが視界に映るが、誰もが彼女からは距離がある。このままでは間に合わないっーー。

 ズシュッーーそんな鈍い音が響き、短剣が肉体を貫いた。そして力なくゆっくりと床に転がった。

「ゔっ、グッ‼︎」

 次の瞬間ジークハルトがジャコフを斬り捨てると呆気なく彼は絶命した。

「クロヴィス様⁉︎」
「兄さんっ‼︎」

 ベルティーユを庇ったクロヴィスは床に転がり苦痛に顔を歪ませながらも、彼女を見て笑った。

「ベル……ベル……」

 必死に彼女を呼ぶ声に、ベルティーユはクロヴィスの前に膝をつく。震える伸ばされた手を両手で握り締めた。

「ごめん、ごめんね…………謝っても赦されないって、分かってる……でも、君を、傷付けたかった訳じゃない、んだ……っ、でも、ブランシュが死んだって、聞いて……頭が、真っ白になって……訳がわかなく、なって……本当、はっ、和平が……結ばれたら、きみに結婚を申し込もうって、おもっ……てた、んだ…………ず、っと、ベルが、好き、だっ、た…………」

 息をするのが苦しいのか、話す声は徐々に掠れていく。血が止めどなく流れ落ち床を赤く染め、クロヴィスの瞳からは涙が一雫溢れた。

「べる……これ、を」

 ポケットから取り出したのは小さな布袋だった。クロヴィスは震える手でそれをベルティーユに差し出した。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或
恋愛
◆第18回恋愛小説大賞で【優秀賞】を戴きました。 ありがとうございました! 「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」 ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。 まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。 彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。 そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。 仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。 そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。 神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。 そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった―― ※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。 ※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

処理中です...