冷徹王太子の愛妾

月密

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六十三話

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 甲板に出て潮風に当たる。普段海など訪れる機会は余りなくとても新鮮だ。

 港を出航してからもうすぐ十日程になる。情報によればもう間も無くリヴィエへと到着する筈だ。
 レアンドルは前方に見えているリヴィエの船を凝視し眉根を寄せる。彼女は無事だろうか……。出航してから何度後悔したか分からない。やはり入れ替わりなどするべきではなかった。

「心配ですか?」
「ルネか……」
「大丈夫ですよ。彼女はリヴィエの王妹なんですよ? 無下に扱う筈がありません」
「そんな事は分かっている。だがリヴィエが一枚岩とは限らない」

 懸念しているのはその部分だ。
 暫し黙り込み考え込んでいた時、ルネが声を上げた。

「レアンドル、あれを見て下さい!」

 ルネが興奮した様子で指差す先には、まだハッキリとは見えないが島の一部が姿を現した。

「あれが、リヴィエ……」

 徐々に近付いて行き、島の輪郭が露わになり鮮明になっていく。
 
(ベルティーユの故郷か……)


「うわっ⁉︎」
「何だ⁉︎」

 その時だった。船が大きく揺れレアンドルとルネは手摺を掴む。

「団長! 甲板は危険です、中へお戻り下さい‼︎」

 二人は団員の声を受け急いで中へと戻った。

「一体どうしたんだ」

 操舵室へと向かうと騒然としていた。
 レアンドルが船長に声を掛けると難しい顔で口を開く。

「急に潮の流れが変わった様です。それに……」
「船長っ‼︎ このまま前進するのは危険です‼︎ 渦に引き摺り込まれます‼︎」

 必死に操舵手が舵を取るが、船は大きく揺れ動き思う様に進まない。足を踏ん張るものの、立っているのが困難な程だ。
 レアンドルは壁に手を付き身体を支えるが、ルネは床に這いつくばっている。他の船員等も手摺にしがみ付いていた。

「リヴィエの船はどうなっている⁉︎」

 その言葉に船員の一人が慌てて双眼鏡を取り出し、前方にいるリヴィエの船を確認した。

「問題ありません! もう間も無く入港する様です!」

 此方の操縦ミスかそれとも意図的に嵌められたか……。
 何方にせよ、これ以上は進めないだろう。

「陛下、このままでは船が転覆してしまいます」

 冷静な船長の言葉にレアンドルは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ「退避する」と告げた。
 
 
 

◆◆◆

「っ……」
「ベル、大丈夫?」
「少し気分が悪いだけですので、少し休めば治ります」

 ベルティーユはロランに支えられ端に寄り腰を下ろした。するとロランが護衛に頼んでくれた様で水を持って来てくれた。
 暫くそのまま休んでいると気分は良くなった。

「ベル、見て」

 ロランの声に顔を上げると、遂に島が見えて来た。


 ベルティーユは足で確りと地面を踏み締める。

(私、帰って来たのね……)

 あの日から八年近く経とうとしている。
 和平を信じる一方で、もう二度と帰れないと思う事もあったが……帰って来れた。

「ベル?」
「あ……申し訳ありません」

 ベルティーユは、ロランの声に我に返った。
 思わず感傷に浸ってしまったが今回の目的は里帰りではない。気を引き締めなおす。

 港には複数の兵士等が待ち構えていた。その中に明らかに風貌の違う男が一人紛れている。ベルティーユ達が男の前で立ち止まると、彼は正式な礼を取った。

「お帰りなさいませ、ベルティーユ様」

 モーリス・ラロ、リヴィエの高官だ。
 ベルティーユが人質になっている間、面会に来ていた人物でベルティーユは彼に信頼を寄せている。
 
「えぇ、ただいま戻りました」

 モーリスは一度顔を上げると今度はロランへと向き直り頭を下げた。

「ブルマリアス国王陛下殿、遠路遥々お越し頂き感謝致します。私はモーリス・ラロ、リヴィエ国王の側近を務める者でございます」

 挨拶を終えその場から移動する様に促されるが、ベルティーユは海を振り返り動けないでいた。
 
(ブルマリアスの船が、動いていない……)

「モーリス、ブルマリアスの船は……」
「どうやら入港を断念した様ですね」

 ベルティーユが問いかけると、モーリスではなく船が降りて来た船長が嘲笑し答えた。それを見て即座に理解した。

「初めから、入港させるつもりはなかったという事ですか」

 睨みつけると鼻で笑われた。

「ベルティーユ様、お気持ちは分かりますが今は堪えて下さい。話し合いはブルマリアス国王陛下殿がいらっしゃれば行えます」
「モーリス、ですが……分かりました」
 
 納得は出来ないが、今は引き下がる他ない。こんな場所で揉めた所で不毛なだけだ。
 ベルティーユ達はモーリスの後に続き、迎えの馬車に乗り込んだ。
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