駒として無能なお前は追放する?ええ、どうぞ?けど、聖女の私が一番権力を持っているんですが?

水垣するめ

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1話

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 この国には『聖女』という役職がある。
 この国における聖女にはとても権力があった。
 ほぼ全ての聖女が伯爵家以上の権力と名誉を持ち、中には公爵家に匹敵するほどの力を持つ聖女もいる。
 しかも教会に寄せられる大量のお布施により、聖女の報酬は莫大だった。

 これに目をつけたのが私の父親、トーマスだ。
 私の家のヘミングス男爵家は小さく、お金もほとんどなかった。
 だからトーマスは莫大な報酬と権力、そして名誉のために娘の私を聖女にしようとした。

 私は聖女という職業が大変であると聞いていたので、やりたくなかった。
 しかし運の悪いことに、聖女になる条件である、千人に一人しか使えない『回復魔法』が使えてしまったのだ。

 こうして私エミリー・ヘミングスは聖女にさせられた。



 日が変わる頃に私は帰ってきた。
 この数年で立派に改築された屋敷を死んだ目で見上げながら、私は屋敷には入らず、屋敷の横にポツンとある汚い小屋の扉を開けた。
 小屋の中は暗く静まり返っていた。

 この小屋には私の帰りを待つ者はいない。

 私は聖女の衣装を脱ぐと、机の上に置いてある冷めた食事を無言で食べた。
 そして食事を終えるとベットに倒れ込む。

 これが私の日常だった。
 トーマスからは聖女の報酬を全て取られ、この小屋に隔離され、トーマスの政治の道具として朝から晩まで働かされている。
 私の心と身体はもう限界だった。
 しかしやめることは出来なかった。



 あれは私が聖女を初めて一年が経った頃。
 毎日の激務と少ない睡眠時間に限界を感じた私は、聖女の仕事が終わった後、父の元へと行ってこう言った。
 父は私が稼いだお金で買った高級なワインを飲んで幸せそうな表情になっている。

 私はいけるかもしれない、と思った。
 上機嫌な父なら、聖女はやめれなくても、話ぐらいは聞いてくれるのではないか、と思った。

「お父様、私もう聖女をやめたいです……」
「なに?」

 父が眉を釣り上げ私をやめたいです睨みつける。
 そして次の瞬間には私は殴り飛ばされた。

「子供の分際で親に楯突くなっ!!」

 父は服を掴み、何度も何度も私を殴りつける。

「お前は駒なんだ! 駒が意思を持つんじゃない!」
「ごめん、なさい……。ごめん、なさい……」

 私は泣きながら謝る。
 そうして父はやっと気が収まったのか、私を殴るのをやめた。

「二度と私に楯突くな。次そんなこと言い出したら家から追放するぞ!」
「……はい」

 こうして私はただの駒として生きてきた。



 ベットの中で一筋の涙が目から零れ落ちる。

(大丈夫、もう少しで、全部変えられるから……)

 誰も助けてはくれない。
 自分で変えるしかない。

 私は目を閉じて眠りについた。
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