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8話
しおりを挟む「き、貴様……!」
私はアリスへ飛びかかりそうになるが、踏みとどまった。
ここでアリスに何かしようものなら、心変わりして当主の座を返さなくなるかもしれない。
「護衛はつけてあげましたが、まさか無事だとは思いませんでした。よく生きてここまで来れましたね」
不思議そうな表情で感心するアリス。
私の命をなんだと思っているのかと問いただしたかったが、堪える。
「あ、アリス。お前の言うとおりここまでやってきたんだ。だから……」
「だから、なんです? まさか当主の座を返して欲しいとでも?」
私は見透かされていたことに驚いて言葉をつまらせる。
アリスは私の表情を見てくつくつと笑う。
「これは笑えますね。まだ当主に戻れると思っていたんですか」
「何だと……?」
「ここまで歩いてきて分かりませんでしたか? この領地と私達の領地の違いが」
私はハッとした。
歩いている時には分からなかったが、思い返してみるとこの領地と私の領地では、平民の生活にはかなりの差があった。
「そうです。あなたが全てサボったせいでこうなったんです。私が経営に乗り出すまで平民の皆さんは地獄のような暮らしをしていたんですよ? それなのに今さら当主だなんて主張できると思っているんですか?」
「ぐっ……!」
「と、言うわけであなたには返しません。ここまで無駄な努力、お疲れ様でした」
「ふざけるなっ!」
私はとうとう我慢できずにアリスへと飛びかかる。
しかし疲労困憊の体は思うように動かずに、アリスのもとまでたどり着けなかった。
アリスはそれを笑う。
「それではごきげんよう」
アリスは身を翻し、宿の中へと戻っていく。
しかし何かを思い出したかのように振り返った。
「ああ、そういえばあなた達を家から追放します。平民としてこれから生きてくださいね」
そう言うとアリスは今度こそ宿の中へと帰っていく。
私はそれを何もできずに見送るしかなかった。
「なぜだ。何故こんなことになったんだ……!」
今さらもう遅い後悔をしながら。
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