家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ

文字の大きさ
1 / 12

1話

しおりを挟む

 薄暗い部屋の中に光が差し込む。
 狭い部屋の中には簡素な木の机と椅子、そしてボロボロのシーツがかけられたベットしか無かった。
 ここは小屋だった。
 私を閉じ込めるために作られた牢獄だ。
 カリカリ、とペンを紙に走らせる音だけが響く。
 私は死んだ目で書類に数字を書き込んでいた。

 小屋の扉が開く音がした。
 私の父のリチャード・スコットだ。

「アン、できたか」
「……はい」
「ふん」

 私は紙の束を差し出す。
 リチャードは引っ張るようにそれを私の手から奪っていった。
 そして扉から出ていこうとしたとき、くるりと振り返ると思い出したかのように言った。

「ああそうだ。お前の婚約は破棄しておいたぞ」
「え……?」

 私には婚約者がいた。
 名前はノエル・フォックス。公爵家だ。
 彼とは幼馴染で、小さい頃から婚約していた。
 三年前、この小屋に閉じ込められるまではしばしば会っていた。

「な、なんで……」
「当たり前だろう。優秀な兄や妹とは違ってお前は無能なんだから。嫁に出すだなんて公爵家の恥だ」
「そんな……」
「それと、そろそろお前を家から追い出すことにした」
「え?」

 私はリチャードから告げられた衝撃の事実にしばしの間反応出来なかった。

「で、でも今は私が家の仕事を管理して……」
「そんなもの人を雇えば何とかなる。無能なお前とは違いプロを雇えば何倍も効率的に仕事をしてくれるだろう。分かったか? つまりお前はもうこの家にはいらないんだよ」

 私はずっとこの家のためのこの狭く寒い小屋で仕事を続けてきた。
 それなのにあまりにも酷い言い草だ。

「ほら、さっさと用意をしろ」

 父が私を足で小突く。
 いくら反抗したくても相手は公爵家の当主。
 私は逆らえないので黙って荷造りをするしかなかった。
 私が持っていくことのできたのは唯一持っていた最低限の服だけだった。

 小屋から出ると久しぶりに目に入った太陽の光に目が眩んだ。
 外では父と母、兄と妹が待っていた。
 今すぐにでも出ていって欲しそうにしている。

「やっと出ていくのね」
「無能がいなくなってせいせいするな」
「これで家の汚れが無くなるわね!」

 みな私を嘲笑している。

「……」

 黙って俯き歩くが、後ろから散々暴言を浴びせかけられた。
 彼らには家族に対する愛情などは存在しなかった。

 そして私は家から追い出された。
 何も無く、手には服だけ。
 路銀などは一切貰えなかった。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

追放した私が求婚されたことを知り、急に焦り始めた元旦那様のお話

睡蓮
恋愛
クアン侯爵とレイナは婚約関係にあったが、公爵は自身の妹であるソフィアの事ばかりを気にかけ、レイナの事を放置していた。ある日の事、しきりにソフィアとレイナの事を比べる侯爵はレイナに対し「婚約破棄」を告げてしまう。これから先、誰もお前の事など愛する者はいないと断言する侯爵だったものの、その後レイナがある人物と再婚を果たしたという知らせを耳にする。その相手の名を聞いて、侯爵はその心の中を大いに焦られるのであった…。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」  大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。  けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。  王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。  婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。  だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。

婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?

ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」  華やかな夜会の真っ最中。  王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。 「……あ、そうなんですね」  私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。 「で? 次のご予定は?」 「……は?」

婚約破棄?はい、どうぞお好きに!悪役令嬢は忙しいんです

ほーみ
恋愛
 王国アスティリア最大の劇場──もとい、王立学園の大講堂にて。  本日上演されるのは、わたくしリリアーナ・ヴァレンティアを断罪する、王太子殿下主催の茶番劇である。  壇上には、舞台の主役を気取った王太子アレクシス。その隣には、純白のドレスをひらつかせた侯爵令嬢エリーナ。  そして観客席には、好奇心で目を輝かせる学生たち。ざわめき、ひそひそ声、侮蔑の視線。  ふふ……完璧な舞台準備ね。 「リリアーナ・ヴァレンティア! そなたの悪行はすでに暴かれた!」  王太子の声が響く。

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。

処理中です...