家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ

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1話

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 薄暗い部屋の中に光が差し込む。
 狭い部屋の中には簡素な木の机と椅子、そしてボロボロのシーツがかけられたベットしか無かった。
 ここは小屋だった。
 私を閉じ込めるために作られた牢獄だ。
 カリカリ、とペンを紙に走らせる音だけが響く。
 私は死んだ目で書類に数字を書き込んでいた。

 小屋の扉が開く音がした。
 私の父のリチャード・スコットだ。

「アン、できたか」
「……はい」
「ふん」

 私は紙の束を差し出す。
 リチャードは引っ張るようにそれを私の手から奪っていった。
 そして扉から出ていこうとしたとき、くるりと振り返ると思い出したかのように言った。

「ああそうだ。お前の婚約は破棄しておいたぞ」
「え……?」

 私には婚約者がいた。
 名前はノエル・フォックス。公爵家だ。
 彼とは幼馴染で、小さい頃から婚約していた。
 三年前、この小屋に閉じ込められるまではしばしば会っていた。

「な、なんで……」
「当たり前だろう。優秀な兄や妹とは違ってお前は無能なんだから。嫁に出すだなんて公爵家の恥だ」
「そんな……」
「それと、そろそろお前を家から追い出すことにした」
「え?」

 私はリチャードから告げられた衝撃の事実にしばしの間反応出来なかった。

「で、でも今は私が家の仕事を管理して……」
「そんなもの人を雇えば何とかなる。無能なお前とは違いプロを雇えば何倍も効率的に仕事をしてくれるだろう。分かったか? つまりお前はもうこの家にはいらないんだよ」

 私はずっとこの家のためのこの狭く寒い小屋で仕事を続けてきた。
 それなのにあまりにも酷い言い草だ。

「ほら、さっさと用意をしろ」

 父が私を足で小突く。
 いくら反抗したくても相手は公爵家の当主。
 私は逆らえないので黙って荷造りをするしかなかった。
 私が持っていくことのできたのは唯一持っていた最低限の服だけだった。

 小屋から出ると久しぶりに目に入った太陽の光に目が眩んだ。
 外では父と母、兄と妹が待っていた。
 今すぐにでも出ていって欲しそうにしている。

「やっと出ていくのね」
「無能がいなくなってせいせいするな」
「これで家の汚れが無くなるわね!」

 みな私を嘲笑している。

「……」

 黙って俯き歩くが、後ろから散々暴言を浴びせかけられた。
 彼らには家族に対する愛情などは存在しなかった。

 そして私は家から追い出された。
 何も無く、手には服だけ。
 路銀などは一切貰えなかった。
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