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第二章
セイさんの謎
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見た目は凄く冷たい感じなのに、セイさんって実は優しい人なんだ……。
部屋へと戻る道すがら、セイさんの整った横顔を盗見しながら私が考えていると、
「私の顔に何かついていますか?」
すぐに見てるのがバレてしまった。
「い、いえ……ただセイさんって思ったよりいい人なんだなって思って……」
焦って馬鹿みたいに思っていたことをそのまま口に出してしまう。
「あ、失礼な言い方をしてごめんなさい!」
「……いいんです。よく、冷たい顔立ちだと言われますし。
――小さい頃から、人形のように人間味の欠けた表情と容姿で、何を考えているのかわからないと言われて育ってきました……」
「そんなっ、酷い……!」
口ではそう言いつつも、正直言うと先刻まで私もそう思っていた。
「私も、顔ではいつも誤解されてきました……」
前世の私は肉の割れ目のように細くて釣り上がった目のせいで、よく睨んでいると勘違いされた。
「見た目で誤解されるのって辛いですよね……」
かつての自分を思い浮かべ私が共感の気持ちを伝えると、
「ええ、まったくその通りです……」
セイさんもしみじみ同意する。
なんだか思ったより彼とは気が合うし、仲良くやっていけそうな予感がした。
そう思ってから二週間ほど経過した、新生活に慣れてきたある日。
並んで書庫に向かう途中、エルノア様がセイさんを呼び止めた。
セイさんが近づていき、私から少し離れたところで二人は会話し始める。
その様子をぼーっと立って眺めていた私は、突然誰かに背後から腕を掴まれた。
「フィーネ様、ちょっとこちらへ」
はっとして見るとロザリー様だった。
そのまま腕を引かれるままに角を曲がり、セイさん達から見て死角の位置へ移動してからロザリー様が口を開く。
「なかなかあなたに話しかける機会がなくて、心配で気をもんでいました」
「心配ですか?」
「ええ、当初あなたの指導は私が担当する予定でしたから……。それが聖女見習いの指導は聖女があたるという慣例を破り、今回のみこのようになってしまって……」
「……特例だそうですね……」
「いいえ、これは特例どころの話ではありません。本来、聖女見習いの生活はもっと自由なものなのです……。
滅多な事は言えませんが……あのセイという神官の方も、大神官様の直属であるという以外は謎が多いのです。
エルノア様は何か事情をご存じかもしれませんが……とにかく、用心して下さい。嫌な予感がします」
そのしっかりと握られた手の温もりと真摯な眼差しから、ロザリー様が本気で心配してくれているのが伝わった。
セイさんを信頼しかけていた私は考え過ぎだとは思ったけれど、純粋に気にかけてくれていたことが嬉しくて、
「わかりました。用心します」
と素直に頷いた。
「ごめんなさいね。不安を煽るような事を言ってしまって……あなたにミルズ神のご加護がありますように」
最後にお祈りの言葉を口にすると、ロザリー様は素早くその場を去って行った。
「フィーネ様、ここにいたんですね」
そこに入れ違うようにセイさんが姿を現す。
「セイさん」
「ロザリー様と話していたのですか?」
回廊の先を見据えてセイさんが尋ねる。
「はい、少しご挨拶を」
「そうですか……」
セイさんは繊細な指を顎に絡めて、少し考え込むような仕草をしたのち、
「午後の勉強がありますから、行きましょうか」
柔らかく微笑み、私の手を取って歩き始めた。
それからの神殿生活はひたすら平穏に過ぎ、ロザリーの様の心配は杞憂だったと思えた。
元々引きこもり体質で他人が苦手な私は、最初は抵抗があった行動制限にも、毎日セイさんと世話係の女官にしか会えない状況にもじきに慣れた。
とはいえ家族と面会どころか一切連絡も取れないことだけは辛く、エルファンス兄様恋しさに枕を濡らす夜も多かった。
でもそのたびに「聖女になればお兄様と面会できる」と自分を励まし耐えしのんだ。
しかし、情けなくも悲しいことに、劣等生の私はいつまで経っても聖女見習いのまま……。
唯一の救いといえば、見放さず根気よく指導し続けてくれるセイさんの存在だけ。
穏やかで気がきくセイさんは、授業の合間に私を息抜きに外に連れ出したり、寂しくないように頻繁に話しかけてくれた。
そんなつねに誰かと一緒に過ごす毎日は、ずっと一人ぼっちだった私には新鮮なものだった。
やがて新しい日々を積み重ねていくうちに、自然にセイさんは私にとって師匠以上の保護者。家族のような大切な存在になっていった。
おかげですっかり繰り返される日常にも慣れ切ってしまい、エルファンス兄様と会えない以外は、それなりに幸せな毎日を送っている間に――あっという間に二年の歳月が経過していた。
――そうして14歳になった私は、思わぬ人物との再会とともに、大切な人を失うことになる――
部屋へと戻る道すがら、セイさんの整った横顔を盗見しながら私が考えていると、
「私の顔に何かついていますか?」
すぐに見てるのがバレてしまった。
「い、いえ……ただセイさんって思ったよりいい人なんだなって思って……」
焦って馬鹿みたいに思っていたことをそのまま口に出してしまう。
「あ、失礼な言い方をしてごめんなさい!」
「……いいんです。よく、冷たい顔立ちだと言われますし。
――小さい頃から、人形のように人間味の欠けた表情と容姿で、何を考えているのかわからないと言われて育ってきました……」
「そんなっ、酷い……!」
口ではそう言いつつも、正直言うと先刻まで私もそう思っていた。
「私も、顔ではいつも誤解されてきました……」
前世の私は肉の割れ目のように細くて釣り上がった目のせいで、よく睨んでいると勘違いされた。
「見た目で誤解されるのって辛いですよね……」
かつての自分を思い浮かべ私が共感の気持ちを伝えると、
「ええ、まったくその通りです……」
セイさんもしみじみ同意する。
なんだか思ったより彼とは気が合うし、仲良くやっていけそうな予感がした。
そう思ってから二週間ほど経過した、新生活に慣れてきたある日。
並んで書庫に向かう途中、エルノア様がセイさんを呼び止めた。
セイさんが近づていき、私から少し離れたところで二人は会話し始める。
その様子をぼーっと立って眺めていた私は、突然誰かに背後から腕を掴まれた。
「フィーネ様、ちょっとこちらへ」
はっとして見るとロザリー様だった。
そのまま腕を引かれるままに角を曲がり、セイさん達から見て死角の位置へ移動してからロザリー様が口を開く。
「なかなかあなたに話しかける機会がなくて、心配で気をもんでいました」
「心配ですか?」
「ええ、当初あなたの指導は私が担当する予定でしたから……。それが聖女見習いの指導は聖女があたるという慣例を破り、今回のみこのようになってしまって……」
「……特例だそうですね……」
「いいえ、これは特例どころの話ではありません。本来、聖女見習いの生活はもっと自由なものなのです……。
滅多な事は言えませんが……あのセイという神官の方も、大神官様の直属であるという以外は謎が多いのです。
エルノア様は何か事情をご存じかもしれませんが……とにかく、用心して下さい。嫌な予感がします」
そのしっかりと握られた手の温もりと真摯な眼差しから、ロザリー様が本気で心配してくれているのが伝わった。
セイさんを信頼しかけていた私は考え過ぎだとは思ったけれど、純粋に気にかけてくれていたことが嬉しくて、
「わかりました。用心します」
と素直に頷いた。
「ごめんなさいね。不安を煽るような事を言ってしまって……あなたにミルズ神のご加護がありますように」
最後にお祈りの言葉を口にすると、ロザリー様は素早くその場を去って行った。
「フィーネ様、ここにいたんですね」
そこに入れ違うようにセイさんが姿を現す。
「セイさん」
「ロザリー様と話していたのですか?」
回廊の先を見据えてセイさんが尋ねる。
「はい、少しご挨拶を」
「そうですか……」
セイさんは繊細な指を顎に絡めて、少し考え込むような仕草をしたのち、
「午後の勉強がありますから、行きましょうか」
柔らかく微笑み、私の手を取って歩き始めた。
それからの神殿生活はひたすら平穏に過ぎ、ロザリーの様の心配は杞憂だったと思えた。
元々引きこもり体質で他人が苦手な私は、最初は抵抗があった行動制限にも、毎日セイさんと世話係の女官にしか会えない状況にもじきに慣れた。
とはいえ家族と面会どころか一切連絡も取れないことだけは辛く、エルファンス兄様恋しさに枕を濡らす夜も多かった。
でもそのたびに「聖女になればお兄様と面会できる」と自分を励まし耐えしのんだ。
しかし、情けなくも悲しいことに、劣等生の私はいつまで経っても聖女見習いのまま……。
唯一の救いといえば、見放さず根気よく指導し続けてくれるセイさんの存在だけ。
穏やかで気がきくセイさんは、授業の合間に私を息抜きに外に連れ出したり、寂しくないように頻繁に話しかけてくれた。
そんなつねに誰かと一緒に過ごす毎日は、ずっと一人ぼっちだった私には新鮮なものだった。
やがて新しい日々を積み重ねていくうちに、自然にセイさんは私にとって師匠以上の保護者。家族のような大切な存在になっていった。
おかげですっかり繰り返される日常にも慣れ切ってしまい、エルファンス兄様と会えない以外は、それなりに幸せな毎日を送っている間に――あっという間に二年の歳月が経過していた。
――そうして14歳になった私は、思わぬ人物との再会とともに、大切な人を失うことになる――
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