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第四話「こんなゾンビだらけの世界なんてもう沢山だ!」と彼はわたしに銃口を向けた
Chapter 3、怜との休憩タイム
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二階のリビングに入ってすぐ、キッチンから声をかけられた。
「あっ、晶」
見ると怜がカセットコンロで湯を沸かしながら、インスタントのドリップコーヒーをカップにセットしていた。
水もカセットガスもコーヒーも、すべてこの家から数百メートルの距離の、カメハドラッグストアで入手したものだろう。
「晶も同じコーヒーでいい?」
「うん」
頷いてソファーに座り、スマホを両手で持ってアプリゲームを起動する。
オフラインでもやれる脱出ゲームをしていると、目の前のローテーブルに湯気をあげたコーヒーカップが置かれた。
「ありがとう」
ソファーに並んで腰かけてから、おもむろに怜が訊いてきた。
「ここ数日、俺の部屋に来てくれないね」
わたしは少し考えて答えを選ぶ。
「……うん、怜のコレクションはもう全部見たし、ダーツにも飽きたから」
「だったらいいけど……もしかしたら俺がキスしたせいかと思って……」
数日前、怜の部屋にいる時、なんとなくそういう雰囲気になってわたし達はキスしちゃったのだ。
「関係ないわ、あれは合意だし……。だいたい怜の銃の手入れを邪魔しちゃ悪いもの」
怜はゾンビが外を徘徊している状態では、いっさい他の趣味や娯楽をする気分にはなれないらしく、基本的にわたしが部屋にいても、いつも銃の整備や弾の準備をしていた。
「そんなの気にしないで、気軽に会話しにきてほしいな」
「……わたし、おしゃべりするのはそんなに好きじゃないから」
はっきりいって、ゾンビを撃つか、ゲームをしているほうが好きだった。
そうじゃなくても、他の二人ほどではないにしても、怜と話していてもつまらない。
たいていは世界がこうなる前の充実した日々を懐かしんでの趣味や特技のうんちく話か、その情報を発信していたフォロワー1万人以上のSNSや、月間PV100万超えのブログ『怜スタイル』の自慢話。
そのあとに必ずセットで、現在のゾンビだらけの世界への嘆きを辛気くさく語られるお決まりのパターン。
ふうっと息を吐いた怜は、飲みかけのカップをテーブルに置き、自然な動きでわたしの肩を抱いてきた。
「何も話さないで、こうして一緒にいてくれるだけでもいいんだけどな」
それなら話を聞いているフリをしなくてもいいので助かる。
わたしがさっそく黙っていると、横から疲れたような深い溜め息の音が聞こえてきた。
「……晶だけだ。俺の気持ちをわかって、ゾンビの排除に協力してくれるのは……」
単にゾンビを撃ち殺すのが趣味なだけなんだけど。
「……本音を言うと、たまに通りを歩くゾンビを見ていて、無性に羨ましくなるときがある。俺達はこんな風に屋内に閉じこもっているのに、あいつらは自由にこの町を歩き回っている。なんの苦しみもない呑気なようすで……そんな姿を連日眺めていると、もしかしたら俺が辛いのも苦しいのも、いまだに人間のままでいるせいなのかもしれないと思えてくるんだ……我ながら情けないけどな……」
自嘲げに喉をならすと、怜はわたしの肩にそっと頭を乗せてきた。
だいぶ精神がまいってきているようだ。
正直、怜とは話が合わないし、自分の名前をブログのタイトルに入れるようなナルシストな性格も好きじゃないけど、口元が引き締まった端正な顔や、長身でスラッとした身体付は凄く好みなんだよね。
なにより世話になっているし、ちょうど人肌も恋しくなってきたので、身体で怜を慰めてあげようかな、なんて、わたしが思いかけていたときーー
突然、窓の外から、ドウッ、ドウッ、という銃声が響いてきた――
「あっ、晶」
見ると怜がカセットコンロで湯を沸かしながら、インスタントのドリップコーヒーをカップにセットしていた。
水もカセットガスもコーヒーも、すべてこの家から数百メートルの距離の、カメハドラッグストアで入手したものだろう。
「晶も同じコーヒーでいい?」
「うん」
頷いてソファーに座り、スマホを両手で持ってアプリゲームを起動する。
オフラインでもやれる脱出ゲームをしていると、目の前のローテーブルに湯気をあげたコーヒーカップが置かれた。
「ありがとう」
ソファーに並んで腰かけてから、おもむろに怜が訊いてきた。
「ここ数日、俺の部屋に来てくれないね」
わたしは少し考えて答えを選ぶ。
「……うん、怜のコレクションはもう全部見たし、ダーツにも飽きたから」
「だったらいいけど……もしかしたら俺がキスしたせいかと思って……」
数日前、怜の部屋にいる時、なんとなくそういう雰囲気になってわたし達はキスしちゃったのだ。
「関係ないわ、あれは合意だし……。だいたい怜の銃の手入れを邪魔しちゃ悪いもの」
怜はゾンビが外を徘徊している状態では、いっさい他の趣味や娯楽をする気分にはなれないらしく、基本的にわたしが部屋にいても、いつも銃の整備や弾の準備をしていた。
「そんなの気にしないで、気軽に会話しにきてほしいな」
「……わたし、おしゃべりするのはそんなに好きじゃないから」
はっきりいって、ゾンビを撃つか、ゲームをしているほうが好きだった。
そうじゃなくても、他の二人ほどではないにしても、怜と話していてもつまらない。
たいていは世界がこうなる前の充実した日々を懐かしんでの趣味や特技のうんちく話か、その情報を発信していたフォロワー1万人以上のSNSや、月間PV100万超えのブログ『怜スタイル』の自慢話。
そのあとに必ずセットで、現在のゾンビだらけの世界への嘆きを辛気くさく語られるお決まりのパターン。
ふうっと息を吐いた怜は、飲みかけのカップをテーブルに置き、自然な動きでわたしの肩を抱いてきた。
「何も話さないで、こうして一緒にいてくれるだけでもいいんだけどな」
それなら話を聞いているフリをしなくてもいいので助かる。
わたしがさっそく黙っていると、横から疲れたような深い溜め息の音が聞こえてきた。
「……晶だけだ。俺の気持ちをわかって、ゾンビの排除に協力してくれるのは……」
単にゾンビを撃ち殺すのが趣味なだけなんだけど。
「……本音を言うと、たまに通りを歩くゾンビを見ていて、無性に羨ましくなるときがある。俺達はこんな風に屋内に閉じこもっているのに、あいつらは自由にこの町を歩き回っている。なんの苦しみもない呑気なようすで……そんな姿を連日眺めていると、もしかしたら俺が辛いのも苦しいのも、いまだに人間のままでいるせいなのかもしれないと思えてくるんだ……我ながら情けないけどな……」
自嘲げに喉をならすと、怜はわたしの肩にそっと頭を乗せてきた。
だいぶ精神がまいってきているようだ。
正直、怜とは話が合わないし、自分の名前をブログのタイトルに入れるようなナルシストな性格も好きじゃないけど、口元が引き締まった端正な顔や、長身でスラッとした身体付は凄く好みなんだよね。
なにより世話になっているし、ちょうど人肌も恋しくなってきたので、身体で怜を慰めてあげようかな、なんて、わたしが思いかけていたときーー
突然、窓の外から、ドウッ、ドウッ、という銃声が響いてきた――
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