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第二章「勇気ある者は……」
8、白百合の乙女
セドリックの疑問に私は瞬間的に叫んで答える。
「好意? 止してよ!
デリアンは口先だけで、内心ではずっと私の愛を重たいと疎ましく思い、愛するどころか嫌っていたのよ」
今度はセドリックが長い銀髪を揺らして大きくかぶりを振る。
「いいやそんなことは有り得ない! 君を見る彼の瞳はつねに愛情がこもっていた。
いつだか、エティーの華やかな容姿を周囲が誉めていた時にも、デリアンがこっそり君に、自分は白く清楚な花のほうが好きだと言っていたのを、この僕はたしかに耳にした……!
数年前、新しいドレスを着ていた君をエティーが水たまりに突き飛ばした時だって、彼は酷く怒っただろう?
なぜか幼い頃から君を目の仇にするエティーの攻撃から、彼はいつだって君を庇って守ろうとしていたのに…… 今では一緒になって君を傷つけているだなんて、僕にはとうてい信じられない!」
セドリックが言うように、デリアンは寡黙で禁欲的でありながら、いつも大事な場面ではきっちり私を庇い優しい言葉をかけてくれた。
『俺は赤い薔薇より白百合のほうが好きだ』
しかしそんなかつては思いだすたびに胸の中で甘く響いたデリアンの言葉も、今となっては心の憎しみの炎にさらに怒りの燃料をくべるだけ。
「私だって同じように、デリアンの口から直接本音を聞くまで信じられなかったわ!!
死んだほうがスッキリすると言われるまでに、自分が邪魔な存在だと思われていただなんて!!」
私は大声で叫ぶと、怒りに激しく身を震わせ、セドリックの肩口に顔を埋める。
「……シア、ごめん、泣かないで……」
「泣いてなどいないわ!」
あんな男のためにもう泣くものですか。
だいいち、すでに涙など枯れ果てた。
私は気を静めるように大きく深呼吸する。
「……今は私のことなんかより……あなたのことよ……セドリック……身体はどこもなんともないの?」
「大丈夫、怪我一つしていないから安心して――と、そうだ、ちょっと待ってて!」
そこでセドリックは思いついたように私から身を離し、部屋の端に行って、大量の毛布を抱えて戻って来ると、絨毯のように床の上へと何層も丁寧に敷き重ねた。
「――立ち話もなんだから、さあシア、ここに座って。
凍死防止のためだと思うけど、毛布だけはたくさんあるんだ」
促されるままに私が腰を下ろすと、合わせてセドリックも隣にぴったりとくっついて座り、二人一緒に入るように上から毛布をかぶる。
「ありがとう、温かいわ」
「うん、温かいね」
深く溜め息をつくと、私は改めて薄暗く底冷えする牢屋内を見回す。
「セドリック……情けないどころか、ずっとこの何もない空間に半年も一人でいて、正気を保ち続けていられるあなたは凄いと思うわ」
「そうでもないよ……たまにレイヴンが本を持ってきてくれるから。
今も毛布の下に5冊ぐらい隠してあるんだ」
「レイヴンが?」
「うん、それも貴重な古代語と魔法書の本をね……!
おかげでこの半年間で簡単な魔法なら使えるようになったよ」
魔法の呪文は神語とも呼ばれる古代語で詠唱する必要があるのだ。
「簡単であっても魔法を使えるようになるなんて凄いわ。あなたは昔から物覚えが良く賢かったものね!」
「好意? 止してよ!
デリアンは口先だけで、内心ではずっと私の愛を重たいと疎ましく思い、愛するどころか嫌っていたのよ」
今度はセドリックが長い銀髪を揺らして大きくかぶりを振る。
「いいやそんなことは有り得ない! 君を見る彼の瞳はつねに愛情がこもっていた。
いつだか、エティーの華やかな容姿を周囲が誉めていた時にも、デリアンがこっそり君に、自分は白く清楚な花のほうが好きだと言っていたのを、この僕はたしかに耳にした……!
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なぜか幼い頃から君を目の仇にするエティーの攻撃から、彼はいつだって君を庇って守ろうとしていたのに…… 今では一緒になって君を傷つけているだなんて、僕にはとうてい信じられない!」
セドリックが言うように、デリアンは寡黙で禁欲的でありながら、いつも大事な場面ではきっちり私を庇い優しい言葉をかけてくれた。
『俺は赤い薔薇より白百合のほうが好きだ』
しかしそんなかつては思いだすたびに胸の中で甘く響いたデリアンの言葉も、今となっては心の憎しみの炎にさらに怒りの燃料をくべるだけ。
「私だって同じように、デリアンの口から直接本音を聞くまで信じられなかったわ!!
死んだほうがスッキリすると言われるまでに、自分が邪魔な存在だと思われていただなんて!!」
私は大声で叫ぶと、怒りに激しく身を震わせ、セドリックの肩口に顔を埋める。
「……シア、ごめん、泣かないで……」
「泣いてなどいないわ!」
あんな男のためにもう泣くものですか。
だいいち、すでに涙など枯れ果てた。
私は気を静めるように大きく深呼吸する。
「……今は私のことなんかより……あなたのことよ……セドリック……身体はどこもなんともないの?」
「大丈夫、怪我一つしていないから安心して――と、そうだ、ちょっと待ってて!」
そこでセドリックは思いついたように私から身を離し、部屋の端に行って、大量の毛布を抱えて戻って来ると、絨毯のように床の上へと何層も丁寧に敷き重ねた。
「――立ち話もなんだから、さあシア、ここに座って。
凍死防止のためだと思うけど、毛布だけはたくさんあるんだ」
促されるままに私が腰を下ろすと、合わせてセドリックも隣にぴったりとくっついて座り、二人一緒に入るように上から毛布をかぶる。
「ありがとう、温かいわ」
「うん、温かいね」
深く溜め息をつくと、私は改めて薄暗く底冷えする牢屋内を見回す。
「セドリック……情けないどころか、ずっとこの何もない空間に半年も一人でいて、正気を保ち続けていられるあなたは凄いと思うわ」
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