ロボット乗りは夢を見ない 犬が犬を食う世界の物語

夏野かろ

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第三章 冷酷非情の世界に生きる

第24話-2 秋が終わって冬が来る

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 一通りの話が終わった後、司令は、地下にあるという秘密のフロアへ俺を連れて行った。



 フロアの一室。そこは意外と明るく、清潔で、まるで病院の手術室のように思える。だが、部屋の中央にある頑丈そうな椅子がそれを否定している。
 その椅子にはいろいろな金具がついていて、腕や足を金具で固定できるようになっている。他にも謎の突起やへこみ、いろいろなものがある。たぶん、拷問のための場所なんだろうな。機械でも取り付けるんだろう。

 ゆっくりと司令が喋り出す。

「本部の地下にこんなところがあったなんて、驚いたかい?」
「はい」
「ここは完全に防音されていて、どんなに大きな音でも外には漏れない。拷問の時に出る血や尿といった汚物は、機械に指示すればすぐに掃除してくれる」
「すごい……」
「旧時代に使われていたものを修理・改造して作られた部屋だ。ここは、できれば使いたくなかったんだがね。事態が混乱している今、そんなことは言っていられない……」
「司令……」
「この部屋はこれくらいでいいだろう。次に行こう」

 彼は部屋を出る。俺はそれに続く。背後で自動ドアが閉まっていく。内部の照明は、きっと自動で消えるようになっているんだろう。ずいぶん便利だな。まぁ旧時代の科学力・技術力なら、この程度は朝飯前か。
 俺たちは通路を歩く。その奥にあるドアの前に到着、それのそばにある機械を司令がいじり、ドアを開ける。俺たちは入室する。

 部屋の中にはさっきと同じような椅子があり、そこには一人の若い男性が、多数の穴が開いたゴルフ・ボールのようなものを口にはめ込まれた状態で、手足を拘束され、座っている。髪は金色、そして見覚えのある顔……例の犯人!
 俺は思わず大声を出す。

「てめぇ、クソ野郎!」
「クロベーくん、落ち着け。腹立たしいのは私も同じだ、とにかく落ち着いてくれ」
「でも……!」
「落ち着け!」

 司令の怒鳴り声は俺を大人しくさせる。

「……はい」
「うむ」
「こいつ、これからどうするんですか?」
「拷問してうたわせるに決まっているだろう」
「うたわせる?」
「業界用語だ。自白させる、という意味だよ」
「なるほど……」
「ついてきなさい」

 彼は金髪野郎へ向かって歩き出す。俺も遅れずについていく。すぐにそこへ到着、俺たちは、金髪野郎を目の前で見る状態になる。
 金髪は、ボールの穴からよだれをだらだら流していて、実に汚い。だが、この穴のおかげで呼吸できているのだ。窒息で殺されないだけマシだと思っとけよ、腐れ外道が!

 抑揚のない声で、淡々と、司令が話し出す。

「こいつは下っ端に過ぎないが、しかし、それなりに情報を持っているはずだ。知っていることのすべてを言うまで、徹底的に痛めつける」

 金髪は声を出そうとする。

「うぅうぅぅぅううっ、うぅぅっ!」
「そのボールがある限り、まともに喋ることはできない」
「うぅぅうぅぅ!」
「クロベーくん、ここが君の人生の分かれ道だ。覚悟を決め、私と共に拷問し、強い悪人となって生きるか。それともここで引き返し、弱い善人として死ぬか」

 俺は金髪野郎を見る。その体を、顔を、あらゆるところを見る。

「こいつ、ちゃんとうたいますかね?」
「最悪の場合、サイキックの力で心を壊し、無理やり情報を引き出せばいい」
「なぜそれをしないんですか?」
「失敗すればあっさり死ぬ危険があるからだが、それだけではない。君、こいつに復讐したいと思っているか?」
「当たり前でしょう!」
「私だって同じだ。だから、今まで生かしておいた。我々の心の苦しみ、それを癒すためには、こいつを傷つけて復讐することが必要。私はそう思っているが、君はそう思わないのか?」
「うぅうぅうぅぅぅぅ!」

 金髪は必死に何かを喋ろうとしている。だが、よだれが出るだけで意味がない。汚い、実に汚い顔だ。不愉快、吐き気、怒り。ネガティブな気持ちが俺を支配していく。
 抑揚のない声で俺は喋る。

「どんな拷問道具があるんですか?」
「だいたい何でもあるさ。爪をはがす道具、骨を折る道具、皮膚をえぐる鞭、電流を流す機械。薬だってある、ヘロインでもメスカリンでも、LSDだってね」
「すごいですね」
「大戦中はこの部屋が毎日使われていたらしいからね。何でもあるのは当たり前のことさ」
「道理で……」
「まったく、人間という生き物は、他人を傷つける天才だよ。破壊的、暴力的なものを発明するのが大好きなんだ。そして人間は、それを使うことをためらわない。相手だって自分と同じ生き物、人間なのだが、そんなことは気にせずに何でもする。それを極限まで突き詰めると戦争になり、あの馬鹿馬鹿しい第三次世界大戦になる。核兵器、毒ガス、生物兵器、ヘリエン、サイキック、召喚生物。怒りと恐怖と憎しみを燃料にして、暴走する車のように暴れまわり、ほとんど全てを燃やし尽くした」
「はい」
「ニーチェという昔の哲学者が、こんなことを言ったらしいね。他人を苦しめること、それは最高レベルの喜びである。他人が苦しむところを見るのは面白い。苦しめることはさらに面白い」
「なかなか鋭い考察ですね」
「人間は、そういう生き物なんだ。生まれつき、サディストのようなところがあるんだ。私はそう思っている。強い連中はなぜ弱い連中をいじめ、金や物を奪うのか? 何かが欲しい、そういう理由の他に、弱い者を苦しめてのたうち回る姿を見て楽しみたい、そういう気持ちがあるからではないか」
「実際そうなんでしょう。俺もそう思います」
「そして私はこう思う、復讐が大事である理由の一つは、相手を苦しめてその姿を見ることが面白いからだ、と。相手が強く激しく苦しむ、それを見る時、心の苦しみが癒され、失ったものは最大限に償われる……」
「俺も同感です」
「クロベーくん、体を横に向けて私を見ろ」

 俺は言われた通りにする。司令も体を横に向け、俺を見る。司令は言う。

「改めて聞こう。覚悟はあるか?」
「……」
「強い悪人になりたいか?」
「……」
「君は弱い善人になりたいのか?」
「……」
「私は強い悪人となって、弱い善人を苦しめ、それを楽しみながら生きる。そしてこの世界に生き残る。逆の立場になるのは真っ平ごめんだ。たとえ人々から軽蔑されようと、この道を歩き続け、勝ち組となって一生を終えていく。そういう覚悟を決めたんだ。私と同じような覚悟が君にもあるのなら、これを手に取れ」

 司令は、ポケットからナイフを取り出し、俺に向かって差し出す。

「これを取ってあの男に突き刺した時、強い悪人としての人生が始まる。だが、私は、無理強いはしない。どうするかは君が決めろ」
「……」

 彼の声は冬のように冷たい。
 俺は、時間が凍りついていくの感じる。背筋が冷えていくのを感じる。ノドが渇いている、唾がほとんど出ていない。視界が極端に狭くなって、左も右もよく見えない。

 ドライ・アイスのような司令の声が俺の両耳に入ってくる。

「これで最後だ。覚悟があるのなら、このナイフを手に取れ」

 俺は決断する。



 凍っていた時間は砕け散った。俺が奴にナイフを突き刺した瞬間に。俺は理解した、ニーチェが言ったことは正しいのだと。
 確かに、他人を苦しめるのは面白く、そこから流れ出る喜びの蜜は、心の痛みを癒してくれる。



 子どもの頃、虫をいじめたことがある。大人になった現在、そんなことはもうやらないが、今なんとなくそれを思い出している。
 あれは楽しかったな。足をもぎ取られたカマキリがじたばたとあがいたり、殺虫剤の毒ガスを吹きつけられた毛虫がのたうち回ったり。見ているだけで笑いがこみ上げたもんさ。

 お前にだって、似たような経験があるはずだろ? 違うのかい……?



 一通りの拷問を終えて建物の外に出た時、俺は、空から雪が降ってきているのを見た。寒いのは好きじゃない。室外での仕事の時、手足が冷えるからな。でも、室内で仕事するなら話は別だ。そして、まだ拷問は完全に終わっていない。俺は明日も金髪野郎のところへ行くだろう。
 あいつから引き出せる情報はもっとあるはずだから、明日も気合い入れて頑張らなきゃな。仮に情報がなかったとしてもいいさ。俺の心の苦しみを完全に癒すためには、あいつの苦しみがもっともっともっと必要なのだから。



 秋は終わった。かわりに冬が来た。ケイトさんと過ごした秋は終わって、これからは冬なんだ。
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