ロボット乗りは夢を見ない 犬が犬を食う世界の物語

夏野かろ

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第三章 冷酷非情の世界に生きる

第25話-1 嘘をつくのは悪い奴だ

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 本部の地下、秘密のフロア。そこにある一室の中で、コーヒーなんぞ飲みながら、俺と司令は話をしている。司令の声。

「聞き出した情報をまとめてみよう。まず、工作員のアジトはイエロー・ビルの地下にある」
「その二。奴らは暗殺予定の人間たちのデータを大量に持っている」
「敵ながらたいしたものだよ。顔写真や住所はもちろん、収入、身長、体重、趣味、好きな食べ物。その他の細かいことまで、実によく調べ上げてある」
「これだけあったらお見合いの時に使えるんじゃないですかね」
「はは、まったくだ」
「その三。工作員といってもプロは少数、大半は金で雇った素人」
「素人なんて、使い捨ての道具みたいなものさ。事件の真実がばれそうになったら殺して口封じ、いっさいの罪や責任をなすりつけて、ノーリアは何もしていないとしらを切る。後は知らぬ存ぜぬを通せばいい」
「トカゲのしっぽ切りってやつですね」
「そういうことだ。だからこそ、ザコを捕まえて終わりというわけにはいかない」
「リーダーを逮捕できるといいんですが……」

 司令はコーヒーを一口飲み、また喋る。

「なに、心配はいらんさ。リーダーの情報は金髪くんがすべて言ってくれたのだから。ボトム・ロックは広いようで狭い。裏社会の連中に金でも渡して協力させれば、あっという間に捕まえられる。ところで、クロベーくん……」

 どうやらヤバい話が始まるらしい。俺は緊張しながら司令の言葉を聞き続ける。

「君も知っている通り、死んだムノグチ市長にかわって市長をやる人間を、我々は選ばなければならない」
「選挙ですか……」
「あぁ。そして、この期に及んで戦争反対を叫んでいる連中がいる。だが、お互いにあれだけ激しく戦い、死んだ者も出たんだ。今さら話し合いで事態が収まるなんて、そんなことはあり得ない」
「司令は戦争に賛成なんですか?」
「まさか! 戦争などしたくないに決まっている、勝っても負けても犠牲が大きいのだから。しかし、我々が戦いたくないと思ってもケニスは攻めてくる。だから戦う」
「でも反対派の人間が市長になったらどうするんですか。もしそうなったら、ケニスに金でも食料でも渡して戦争をやめてもらう、そんな感じの話が出てきますよ」
「すでに手を打ってある。私の古い友人の一人を市長に推薦しておいた」
「えっ、どういうことです?」
「彼は私と同じく、いざとなったら戦うしかない、そういう考えで生きている男だ。もし彼が市長になれば、政治は戦争する方向へ進んでいくだろう」
「なるほど」
「今のところ、彼の人気は悪くない。だが、これなら間違いなく勝てるというほどの大人気ではない」
「反対派のせいですか?」
「そうだ。だから、彼を確実に勝たせるためには、もう少しの努力が必要といえる」
「努力……?」

 司令の目つきが鋭くなる。彼は語る。

「対立候補が全員死ねば、こちらの勝ちは自動的に決まる。そして最近のボトム・ロックでは、毎日のように爆弾テロが起き、誰かが死んでいる」
「まさか……」

 これは、もしかして冗談を言ったんじゃないか? 俺はそう思い、司令の顔をよく観察する。だが、ふざけているような表情は髪の毛一本ほども存在していない。彼の話は続いていく。

「ここから先は言うまでもないだろう。近い未来にまた爆弾テロが起き、不幸な偶然で対立候補が死ぬ。だが、それはノーリアの工作員の仕業だ。私の知ったことではない」
「本気でそれをやるつもりなんですか……?」
「前へ進むためには犠牲が要求される。私は君に伝えたはずだ、覚悟を決めたのだと。君も私に伝えた、覚悟を決めたことを」
「はい」
「何であろうとやるしかない、そういうことだ。ふぅ、長話で少し疲れたよ……。休憩しようか?」

 司令は笑ってみせる。そんなことしたって、事の重大さ、極悪さが薄まるわけじゃない。だが、これでいいのかもしれん。どちらにしろやるしかない、だったら、肩の力を抜いてしっかりやりとげるほうがいい。
 悪人なら悪人らしく、ふてぶてしい態度で生きていこうじゃねぇか。



 数日後の昼過ぎ。俺は、第二部隊のメンバー全員と一緒に街へ出かけた。カバンの中に麻薬の入った袋を忍ばせてな。おっと、これは誰にも言うなよ。このことは、第二部隊のメンバーでは俺しか知らないんだから。絶対厳守の秘密だぜ。
 みんな制服を着て、一台のパトロール・カーに乗り、道路を走っていく。ちなみに、運転手はダーカーだ。あいつは車が好きなんだよ。暇さえありゃ、車の雑誌を見てやがるんだ。そして助手席に座っているのはメイユー隊長、後部座席は俺とエイミーだ。

 誰も喋らない。みんな無言だ。だが、出発してからしばらくして、それに耐えきれなくなったエイミーが口を開く。

「私、怖い」

 俺が返事する。

「どうした、いきなり」
「最近、嫌な夢を見る。血なまぐさい夢。いろんな人たちが死んでいく」
「お前、疲れてるんだよ」
「そうかもしれない。でも、それだけじゃない」
「うん?」
「クロベー、最近なにか変わった。それが気になる。安心して眠れない」
「なんも変わってねぇよ……」
「違う。私にはわかる。クロベー、前より笑わなくなった。堅い雰囲気がする」
「俺だって疲れてんだ、多少はそういう感じになる」
「それは嘘だ」
「証拠もなしに嘘だなんて言うなよ。失礼だぞ」

 唐突に、エイミーが自分の顔を俺に向ける。思わず俺も同じように動く。お互いに見つめ合う状態になり、エイミーが喋り出す。

「クロベー、悪いことしてない? 隠し事してない?」
「隠し事ってなんだよ。人間、誰にだって隠し事があるんだぜ。お前だっていろいろ隠してるだろ」
「そういうことじゃない。クロベー、すごく大事なことを隠してる、強くそう思う」
「おいおい……」
「もしクロベーが悪いことをしてない、なら、私の目を見て喋って欲しい。言って欲しい、隠し事はないって。変なことはしてないって」

 彼女の真剣な視線を強く感じる。やれやれ、どうするかな。俺は彼女を見つめながらゆっくり話す。

「隠し事なんて、していない。変なことも、していない。俺を信じてくれ、以前と変わらない。ただちょっと、疲れているだけだ。撃たれた傷もまだ痛むしな」
「本当……?」
「本当だ。嘘なんてついてない。嘘をつくのは悪い奴だからな。エイミー、俺は悪い奴に見えるのか?」
「ううん。ぜんぜん見えない」
「なら信じてくれよ。だいたい、俺は警備隊の隊員、みんなの平和と秩序を守るのが仕事だ。そんなの、悪い奴にできることじゃない。そうだろ?」
「……うん!」

 明るい声で彼女は返事する。そうだよ、お前は笑顔でいればいい。それでいいんだから。
 はは、嘘をつくのは悪い奴、か。まさにその通りだ。嘘をつくのは……悪い奴だよ。

 それから約五分後、俺たちは目的地に到着する。全員が車から降り、目の前にある建物を見上げる。それは小さなビルで、いかにもビジネス用って感じだ。
 隊長は言う。

「行くぞ。いつでも武器を出せるよう、準備しとけよ」



 彼女はビルの中に入っていく。全員、「了解」と答えてそれ後に続く。
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