53 / 66
第四章 勝てば官軍、負ければ賊軍
第27話-2 止むことのない寒い風
しおりを挟む
戒厳令によって商業活動が制限された街は、昼間でも静かで、まるで十二月三十一日の深夜のように思える。俺とダーカー、エイミーの三人は、そんな雰囲気の中を徒歩でパトロールしている。
さまざまな商店の扉は金属製のシャッターで閉ざされ、医院のような、緊急時でも必要な施設のみが営業している。そういうわけだから、人通りはほとんどない。
ぽつり、つぶやくようにエイミーは言う。
「ホームレス、難民、どこにもいない」
俺が答える。
「みんな労働施設に送られたのさ。いつかの時みたいに、あいつらにまぎれて工作員が来るとヤバいからな。住民登録のない奴はすべてさようならだ」
「なんだか暴力的」
「それでも一定レベルの人権が尊重されてる分、ましさ。エイミー、これからもうすぐ戦争になるんだぜ? 寝ぼけたこと言ってる場合じゃない」
「うん……」
ダーカーが喋る。
「おい、そろそろだぞ」
俺たちの少し前方、そこには小さな山が見える。それにはらせん状の道がついていて、その先には墓地らしきものがある。俺たちへそこへ向かって進み始める。
それから約十分後。俺たちは墓地に到着し、今はケイトさんのお墓の前だ。エイミーが俺に話しかけてくる。
「パトロール中に道草。バレない?」
「少しくらいなら大丈夫だろ。だから、手短にすませるぞ」
全員、思い思いの形に手を組み、目を閉じて祈りをささげる。それが終わった後は少しの沈黙が訪れる。何の音も聞こえない静かな時間が流れていく……唐突にダーカーが喋り出す。
「どうしてこんなことになったんだろうな」
誰も答えない。
「食料や資源が不足し、残っている分を奪い合い、同じ生き物同士、人間同士なのに傷つけ合い、殺し合う。争いの中で多くの犠牲が生まれ、死ぬ奴もいれば大ケガする奴もいる。最後はみんなが不幸になる」
俺は答える。
「みんなが不幸になるってのは違うぜ」
「なぜだ?」
「争いに勝った奴、弱い奴から奪う奴。そいつらは幸福だからだ」
「なるほどな」
「時々、俺は思うよ。もし宇宙人がいるとして、そいつらが俺たち地球人を見たら、きっと理解できないだろうって」
「それはそうだろう。種族が違う、言葉が違う」
「俺が言いたいのはそういうことじゃない。言いたいのは、地球人が野蛮すぎるってことだ。あまりに野蛮だから宇宙人には理解できない」
「人間はお前が言うほど野蛮ではないだろう。確かにそういう部分はあるが、それだけではない」
「嘘くせぇ話だ……」
「人間は、例えばポーツをすることで、攻撃的な気持ちをうまく発散することができる。それは野蛮ではない、むしろ知的だろう」
「ある程度の部分はお前が言う通りだよ。その上で言うけどな、いくらスポーツしたって攻撃性が消えるわけじゃないだろ。俺たちのDNAの中にある暴力的なもの、それは何をしたところで消えない」
「クロベー、お前は何を主張したいんだ?」
「生きている限り、争いからは逃げられないってことさ。いくら争いを否定したって、また争ってしまうってことさ。人類の歴史の中で、いろいろなものが発明されてきた。攻撃性をコントロールできるよう、スポーツだってなんだって人類はやってきた。しかし、この世界を見てみろよ」
俺は振り返り、山の下に広がる市街地を見る。ダーカー、エイミーも同じようにする。市街地は、ところどころは整っているが、全体としては大地震の後のようにあちこちが崩壊している。
崩れたビル群、ひび割れた道路、壊れている家屋。ずっと遠くに見える大地は赤茶けていて、緑地など、親指の爪ほどの面積もない。俺は話を続ける。
「何百年、何千年の歴史の末に登場した結果がこれだ。人類の歴史だ。いつまで経っても攻撃性に振り回され、ついに世界を滅ぼした。それでもまだ戦争している……」
「物事を悪い方に考え過ぎだよ、お前は」
「だから何だっていうんだよ。人間はいろいろ発明する、発明品は生活の役に立つ。だが、発明のきっかけはたいてい戦争絡みだ。まず殺し合いの道具や技術、学問を作る。その後で平和利用を始める。最初に暴力や攻撃があって、その次にやっと話し合いや平和が存在する、それが人間なんだ」
エイミーが話に入ってくる。
「難しいこと、分からない。私に分かること、敵を倒す。お姉ちゃんの仇を討つ」
「そうさ、仇討ちさ。仇を討ち、怒りの炎を消す。消防士みたいに消火活動するんだ、でも、消火すればするほど戦いの炎が燃え広がって、最後はあぁやって大地を焼き払う」
「クロベーの言う通りかも。でも、私は戦う。仇を討つ。そのために生きてる」
「俺だってそうさ……。ケイトさんの仇を討つよ。そして思うぜ、戦いを否定したい自分なのに、それでも戦おうとしている矛盾が存在するって」
「生きるために戦うのは間違いじゃない」
「正しいとも思えねぇよ」
「よく分からない時、自分の気持ちに従えばいい。それでうまくいく」
「……そうなったらいいって願うよ」
どこからか寒い風が吹いてくる。俺たちを冷たくしていく。ダーカーが話す。
「そろそろ行くべきだ。これ以上の道草はまずい」
俺とエイミーは「了解」と答え、墓地から出ていくダーカーの後を追う。
風は吹き続けている。それは激しい風じゃないが、しかし、止むことのなさそうな風だ。きっとケニスとの決戦の時も吹いているだろう。
いい方向に吹いてくれればいいがな……。
さまざまな商店の扉は金属製のシャッターで閉ざされ、医院のような、緊急時でも必要な施設のみが営業している。そういうわけだから、人通りはほとんどない。
ぽつり、つぶやくようにエイミーは言う。
「ホームレス、難民、どこにもいない」
俺が答える。
「みんな労働施設に送られたのさ。いつかの時みたいに、あいつらにまぎれて工作員が来るとヤバいからな。住民登録のない奴はすべてさようならだ」
「なんだか暴力的」
「それでも一定レベルの人権が尊重されてる分、ましさ。エイミー、これからもうすぐ戦争になるんだぜ? 寝ぼけたこと言ってる場合じゃない」
「うん……」
ダーカーが喋る。
「おい、そろそろだぞ」
俺たちの少し前方、そこには小さな山が見える。それにはらせん状の道がついていて、その先には墓地らしきものがある。俺たちへそこへ向かって進み始める。
それから約十分後。俺たちは墓地に到着し、今はケイトさんのお墓の前だ。エイミーが俺に話しかけてくる。
「パトロール中に道草。バレない?」
「少しくらいなら大丈夫だろ。だから、手短にすませるぞ」
全員、思い思いの形に手を組み、目を閉じて祈りをささげる。それが終わった後は少しの沈黙が訪れる。何の音も聞こえない静かな時間が流れていく……唐突にダーカーが喋り出す。
「どうしてこんなことになったんだろうな」
誰も答えない。
「食料や資源が不足し、残っている分を奪い合い、同じ生き物同士、人間同士なのに傷つけ合い、殺し合う。争いの中で多くの犠牲が生まれ、死ぬ奴もいれば大ケガする奴もいる。最後はみんなが不幸になる」
俺は答える。
「みんなが不幸になるってのは違うぜ」
「なぜだ?」
「争いに勝った奴、弱い奴から奪う奴。そいつらは幸福だからだ」
「なるほどな」
「時々、俺は思うよ。もし宇宙人がいるとして、そいつらが俺たち地球人を見たら、きっと理解できないだろうって」
「それはそうだろう。種族が違う、言葉が違う」
「俺が言いたいのはそういうことじゃない。言いたいのは、地球人が野蛮すぎるってことだ。あまりに野蛮だから宇宙人には理解できない」
「人間はお前が言うほど野蛮ではないだろう。確かにそういう部分はあるが、それだけではない」
「嘘くせぇ話だ……」
「人間は、例えばポーツをすることで、攻撃的な気持ちをうまく発散することができる。それは野蛮ではない、むしろ知的だろう」
「ある程度の部分はお前が言う通りだよ。その上で言うけどな、いくらスポーツしたって攻撃性が消えるわけじゃないだろ。俺たちのDNAの中にある暴力的なもの、それは何をしたところで消えない」
「クロベー、お前は何を主張したいんだ?」
「生きている限り、争いからは逃げられないってことさ。いくら争いを否定したって、また争ってしまうってことさ。人類の歴史の中で、いろいろなものが発明されてきた。攻撃性をコントロールできるよう、スポーツだってなんだって人類はやってきた。しかし、この世界を見てみろよ」
俺は振り返り、山の下に広がる市街地を見る。ダーカー、エイミーも同じようにする。市街地は、ところどころは整っているが、全体としては大地震の後のようにあちこちが崩壊している。
崩れたビル群、ひび割れた道路、壊れている家屋。ずっと遠くに見える大地は赤茶けていて、緑地など、親指の爪ほどの面積もない。俺は話を続ける。
「何百年、何千年の歴史の末に登場した結果がこれだ。人類の歴史だ。いつまで経っても攻撃性に振り回され、ついに世界を滅ぼした。それでもまだ戦争している……」
「物事を悪い方に考え過ぎだよ、お前は」
「だから何だっていうんだよ。人間はいろいろ発明する、発明品は生活の役に立つ。だが、発明のきっかけはたいてい戦争絡みだ。まず殺し合いの道具や技術、学問を作る。その後で平和利用を始める。最初に暴力や攻撃があって、その次にやっと話し合いや平和が存在する、それが人間なんだ」
エイミーが話に入ってくる。
「難しいこと、分からない。私に分かること、敵を倒す。お姉ちゃんの仇を討つ」
「そうさ、仇討ちさ。仇を討ち、怒りの炎を消す。消防士みたいに消火活動するんだ、でも、消火すればするほど戦いの炎が燃え広がって、最後はあぁやって大地を焼き払う」
「クロベーの言う通りかも。でも、私は戦う。仇を討つ。そのために生きてる」
「俺だってそうさ……。ケイトさんの仇を討つよ。そして思うぜ、戦いを否定したい自分なのに、それでも戦おうとしている矛盾が存在するって」
「生きるために戦うのは間違いじゃない」
「正しいとも思えねぇよ」
「よく分からない時、自分の気持ちに従えばいい。それでうまくいく」
「……そうなったらいいって願うよ」
どこからか寒い風が吹いてくる。俺たちを冷たくしていく。ダーカーが話す。
「そろそろ行くべきだ。これ以上の道草はまずい」
俺とエイミーは「了解」と答え、墓地から出ていくダーカーの後を追う。
風は吹き続けている。それは激しい風じゃないが、しかし、止むことのなさそうな風だ。きっとケニスとの決戦の時も吹いているだろう。
いい方向に吹いてくれればいいがな……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる