ロボット乗りは夢を見ない 犬が犬を食う世界の物語

夏野かろ

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第四章 勝てば官軍、負ければ賊軍

第27話-2 止むことのない寒い風

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 戒厳令によって商業活動が制限された街は、昼間でも静かで、まるで十二月三十一日の深夜のように思える。俺とダーカー、エイミーの三人は、そんな雰囲気の中を徒歩でパトロールしている。
 さまざまな商店の扉は金属製のシャッターで閉ざされ、医院のような、緊急時でも必要な施設のみが営業している。そういうわけだから、人通りはほとんどない。

 ぽつり、つぶやくようにエイミーは言う。

「ホームレス、難民、どこにもいない」

 俺が答える。

「みんな労働施設に送られたのさ。いつかの時みたいに、あいつらにまぎれて工作員が来るとヤバいからな。住民登録のない奴はすべてさようならだ」
「なんだか暴力的」
「それでも一定レベルの人権が尊重されてる分、ましさ。エイミー、これからもうすぐ戦争になるんだぜ? 寝ぼけたこと言ってる場合じゃない」
「うん……」

 ダーカーが喋る。

「おい、そろそろだぞ」

 俺たちの少し前方、そこには小さな山が見える。それにはらせん状の道がついていて、その先には墓地らしきものがある。俺たちへそこへ向かって進み始める。



 それから約十分後。俺たちは墓地に到着し、今はケイトさんのお墓の前だ。エイミーが俺に話しかけてくる。

「パトロール中に道草。バレない?」
「少しくらいなら大丈夫だろ。だから、手短にすませるぞ」

 全員、思い思いの形に手を組み、目を閉じて祈りをささげる。それが終わった後は少しの沈黙が訪れる。何の音も聞こえない静かな時間が流れていく……唐突にダーカーが喋り出す。

「どうしてこんなことになったんだろうな」

 誰も答えない。

「食料や資源が不足し、残っている分を奪い合い、同じ生き物同士、人間同士なのに傷つけ合い、殺し合う。争いの中で多くの犠牲が生まれ、死ぬ奴もいれば大ケガする奴もいる。最後はみんなが不幸になる」

 俺は答える。

「みんなが不幸になるってのは違うぜ」
「なぜだ?」
「争いに勝った奴、弱い奴から奪う奴。そいつらは幸福だからだ」
「なるほどな」
「時々、俺は思うよ。もし宇宙人がいるとして、そいつらが俺たち地球人を見たら、きっと理解できないだろうって」
「それはそうだろう。種族が違う、言葉が違う」
「俺が言いたいのはそういうことじゃない。言いたいのは、地球人が野蛮すぎるってことだ。あまりに野蛮だから宇宙人には理解できない」
「人間はお前が言うほど野蛮ではないだろう。確かにそういう部分はあるが、それだけではない」
「嘘くせぇ話だ……」
「人間は、例えばポーツをすることで、攻撃的な気持ちをうまく発散することができる。それは野蛮ではない、むしろ知的だろう」
「ある程度の部分はお前が言う通りだよ。その上で言うけどな、いくらスポーツしたって攻撃性が消えるわけじゃないだろ。俺たちのDNAの中にある暴力的なもの、それは何をしたところで消えない」
「クロベー、お前は何を主張したいんだ?」
「生きている限り、争いからは逃げられないってことさ。いくら争いを否定したって、また争ってしまうってことさ。人類の歴史の中で、いろいろなものが発明されてきた。攻撃性をコントロールできるよう、スポーツだってなんだって人類はやってきた。しかし、この世界を見てみろよ」

 俺は振り返り、山の下に広がる市街地を見る。ダーカー、エイミーも同じようにする。市街地は、ところどころは整っているが、全体としては大地震の後のようにあちこちが崩壊している。
 崩れたビル群、ひび割れた道路、壊れている家屋。ずっと遠くに見える大地は赤茶けていて、緑地など、親指の爪ほどの面積もない。俺は話を続ける。

「何百年、何千年の歴史の末に登場した結果がこれだ。人類の歴史だ。いつまで経っても攻撃性に振り回され、ついに世界を滅ぼした。それでもまだ戦争している……」
「物事を悪い方に考え過ぎだよ、お前は」
「だから何だっていうんだよ。人間はいろいろ発明する、発明品は生活の役に立つ。だが、発明のきっかけはたいてい戦争絡みだ。まず殺し合いの道具や技術、学問を作る。その後で平和利用を始める。最初に暴力や攻撃があって、その次にやっと話し合いや平和が存在する、それが人間なんだ」

 エイミーが話に入ってくる。

「難しいこと、分からない。私に分かること、敵を倒す。お姉ちゃんの仇を討つ」
「そうさ、仇討ちさ。仇を討ち、怒りの炎を消す。消防士みたいに消火活動するんだ、でも、消火すればするほど戦いの炎が燃え広がって、最後はあぁやって大地を焼き払う」
「クロベーの言う通りかも。でも、私は戦う。仇を討つ。そのために生きてる」
「俺だってそうさ……。ケイトさんの仇を討つよ。そして思うぜ、戦いを否定したい自分なのに、それでも戦おうとしている矛盾が存在するって」
「生きるために戦うのは間違いじゃない」
「正しいとも思えねぇよ」
「よく分からない時、自分の気持ちに従えばいい。それでうまくいく」
「……そうなったらいいって願うよ」

 どこからか寒い風が吹いてくる。俺たちを冷たくしていく。ダーカーが話す。

「そろそろ行くべきだ。これ以上の道草はまずい」

 俺とエイミーは「了解」と答え、墓地から出ていくダーカーの後を追う。
 風は吹き続けている。それは激しい風じゃないが、しかし、止むことのなさそうな風だ。きっとケニスとの決戦の時も吹いているだろう。



 いい方向に吹いてくれればいいがな……。
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