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第1章 あの日の君を取り戻せ
ひび割れた心の持ち主
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日が沈みきった暗い時間、街中、虎太郎は目的地なしで歩き続ける。
寒い外気が彼を突き刺す。もう街の木々に葉はない。そういう季節だ。
交差点、赤信号、彼は立ち止まる。
服のポケットに手を入れて、スマートフォンを取り出す。
付属のイヤホン・コードを引っ張り出し、イヤホンを耳に入れる。
音楽再生の項目を選び、再生。お気に入りのハードロック・チューンが流れ出す。
♪悲しみに”OK”と返事している君
でもそれって嘘だろう?
涙の川に沈んで 死んでしまいそうな顔
そのまま本当に死ぬつもりかい?
彼を見ろ あの男を
それはかつての君 過去の君
彼は何かを叫んでる
Don't go off before the sun rises
Don't go off before the sun rises
Don't go off before ...
歌の途中、突然、片方のイヤホンから音が聞こえなくなる。
彼は道の途中で立ち止まり、イヤホンをいじってみる。
しばらくいじった後、彼はため息をついて音楽の再生を止める。
イヤホンをコードごと外し、乱雑に巻いて、ポケットに突っこむ。
彼は周辺の景色を見渡す、それから、少し早足で歩きだす。
やがて彼は、街の大きな電器屋に着いた。
電器屋に入り、5階へ行く。
新しいイヤホンを買い、代金を支払う。
その後、彼は店内をぶらぶらと歩きまわる。
新型のスマートフォンを見て回り、ゲーム売り場をうろつき、
やがて下の階のテレビ売り場に着いた。
その時テレビでは、ボクシングの試合が中継されていた。
試合場の誰かがボクサーの紹介をしている。
「こちら、挑戦者、ロバート!」
まだ若い黒人のボクサーが、片手を大きく上げてその存在感を示す。
「続いてこちら、チャンピオン、アドラー!」
ボクサーとしてはベテランの年齢だろうか、
白人の男が立ち上がり、左手を上げて大きくグルグルと回してみせる。
ボクサーたちはリング中央に向かい、レフェリーの指示を聞いた後、
それぞれのコーナーに戻る。そこで試合前の最後の準備を行う。
何が彼をそうさせるのだろうか、虎太郎はじっと画面を見つめている。
その時、彼の横にやってきた中年の男性が声をかけた。
「どうした、兄ちゃん。ボクシング、好きなのか?」
「……どなたです?」
「はは、誰だっていいじゃねぇか。なぁに、怪しい奴じゃねぇよ。
昔、ボクシングをやってた男なのさ。今じゃ、安い酒場の親父だがな。
どれ、もうすぐ試合だぜ。いっちょう観戦といこうじゃねぇか?」
カーン! 試合開始を告げるゴングの音が鳴る。
ロバート、アドラー、油断なく構えながら戦い始める。
中年男性が言う。
「どっちが勝つと思うね?」
「うーん、どうでしょう、俺には何とも……」
「まぁ実際、どっちが勝つか分からねぇな。
でも、これだけは言える。このロバートって若造、一発かますタイプだぜ」
2人が喋っている間にも試合は進んでいく。
ジャブ、フック、種々のパンチが宙を飛び、ボクサーたちの体を傷つけていく。
ロバート、アドラーの動きを見切ったのか、一気に踏み込んで拳を繰り出す。
アドラー素早くこれをかわし、鋭い一発、
弾丸のように速いストレートをロバートの顔面に叩きこむ。
ロバート思わずダウン、レフェリーが近寄ってカウント・ダウンを始める。
虎太郎は中年男性に話しかける。
「ぜんぜん何もしないで終わりじゃないですか!」
「いや、まだ終わりじゃねぇよ。まぁ見てろって。ほら……」
カウント・ダウンの途中、ロバートが立ち上がる。
彼は拳を構える、試合再開、だが、直後にラウンド終了のゴング。
中年男性、コメントを述べる。
「こいつぁラッキーだ。休憩できる」
「休憩して、それでどうなるんです」
「決まってらぁね、さっきの一発のお返しをぶち込みにいくのさ」
「でも、そんなの出来るんですか?
俺が見た感じ、アドラーは強い。あのストレート、無茶苦茶な威力ですよ」
「奴はあのストレートで何度もKO勝ちしてきたんだ。得意技なのさ」
「あんな奴に、どうやってお返しの一発なんか……」
「できる、ロバートならできる。俺にはわかるのさ。
兄ちゃん、ちょっと落ち着いて考えてみろよ。
ロバートは、並の奴ならKOされちまうストレートをくらった。
ダウンした、けど、立ち上がったんだぜ。そう、奴は打たれ強い。
そんなタフな男なら、絶対に何かやってみせるさ」
カーン、第2ラウンド開始を告げるゴング。戦いがまた始まる。
ロバート、アドラー、お互いに激しく打ち合う。
アドラーの顔面にちょっとした一発が入る、ロバートさらに追撃の一発。
アドラー反撃、ロバートのレバー(肝臓)にアドラーの連打が突き刺さる。
ゴングが鳴る、第3ラウンド終了。
カーン、第4ラウンド。ロバート少し疲れたか、アドラーの猛攻に防戦一方。
しかし何とか切り抜けて第4ラウンド終了、どうにかコーナーへ戻る。
虎太郎の目は画面から離れようとしない。
寒い外気が彼を突き刺す。もう街の木々に葉はない。そういう季節だ。
交差点、赤信号、彼は立ち止まる。
服のポケットに手を入れて、スマートフォンを取り出す。
付属のイヤホン・コードを引っ張り出し、イヤホンを耳に入れる。
音楽再生の項目を選び、再生。お気に入りのハードロック・チューンが流れ出す。
♪悲しみに”OK”と返事している君
でもそれって嘘だろう?
涙の川に沈んで 死んでしまいそうな顔
そのまま本当に死ぬつもりかい?
彼を見ろ あの男を
それはかつての君 過去の君
彼は何かを叫んでる
Don't go off before the sun rises
Don't go off before the sun rises
Don't go off before ...
歌の途中、突然、片方のイヤホンから音が聞こえなくなる。
彼は道の途中で立ち止まり、イヤホンをいじってみる。
しばらくいじった後、彼はため息をついて音楽の再生を止める。
イヤホンをコードごと外し、乱雑に巻いて、ポケットに突っこむ。
彼は周辺の景色を見渡す、それから、少し早足で歩きだす。
やがて彼は、街の大きな電器屋に着いた。
電器屋に入り、5階へ行く。
新しいイヤホンを買い、代金を支払う。
その後、彼は店内をぶらぶらと歩きまわる。
新型のスマートフォンを見て回り、ゲーム売り場をうろつき、
やがて下の階のテレビ売り場に着いた。
その時テレビでは、ボクシングの試合が中継されていた。
試合場の誰かがボクサーの紹介をしている。
「こちら、挑戦者、ロバート!」
まだ若い黒人のボクサーが、片手を大きく上げてその存在感を示す。
「続いてこちら、チャンピオン、アドラー!」
ボクサーとしてはベテランの年齢だろうか、
白人の男が立ち上がり、左手を上げて大きくグルグルと回してみせる。
ボクサーたちはリング中央に向かい、レフェリーの指示を聞いた後、
それぞれのコーナーに戻る。そこで試合前の最後の準備を行う。
何が彼をそうさせるのだろうか、虎太郎はじっと画面を見つめている。
その時、彼の横にやってきた中年の男性が声をかけた。
「どうした、兄ちゃん。ボクシング、好きなのか?」
「……どなたです?」
「はは、誰だっていいじゃねぇか。なぁに、怪しい奴じゃねぇよ。
昔、ボクシングをやってた男なのさ。今じゃ、安い酒場の親父だがな。
どれ、もうすぐ試合だぜ。いっちょう観戦といこうじゃねぇか?」
カーン! 試合開始を告げるゴングの音が鳴る。
ロバート、アドラー、油断なく構えながら戦い始める。
中年男性が言う。
「どっちが勝つと思うね?」
「うーん、どうでしょう、俺には何とも……」
「まぁ実際、どっちが勝つか分からねぇな。
でも、これだけは言える。このロバートって若造、一発かますタイプだぜ」
2人が喋っている間にも試合は進んでいく。
ジャブ、フック、種々のパンチが宙を飛び、ボクサーたちの体を傷つけていく。
ロバート、アドラーの動きを見切ったのか、一気に踏み込んで拳を繰り出す。
アドラー素早くこれをかわし、鋭い一発、
弾丸のように速いストレートをロバートの顔面に叩きこむ。
ロバート思わずダウン、レフェリーが近寄ってカウント・ダウンを始める。
虎太郎は中年男性に話しかける。
「ぜんぜん何もしないで終わりじゃないですか!」
「いや、まだ終わりじゃねぇよ。まぁ見てろって。ほら……」
カウント・ダウンの途中、ロバートが立ち上がる。
彼は拳を構える、試合再開、だが、直後にラウンド終了のゴング。
中年男性、コメントを述べる。
「こいつぁラッキーだ。休憩できる」
「休憩して、それでどうなるんです」
「決まってらぁね、さっきの一発のお返しをぶち込みにいくのさ」
「でも、そんなの出来るんですか?
俺が見た感じ、アドラーは強い。あのストレート、無茶苦茶な威力ですよ」
「奴はあのストレートで何度もKO勝ちしてきたんだ。得意技なのさ」
「あんな奴に、どうやってお返しの一発なんか……」
「できる、ロバートならできる。俺にはわかるのさ。
兄ちゃん、ちょっと落ち着いて考えてみろよ。
ロバートは、並の奴ならKOされちまうストレートをくらった。
ダウンした、けど、立ち上がったんだぜ。そう、奴は打たれ強い。
そんなタフな男なら、絶対に何かやってみせるさ」
カーン、第2ラウンド開始を告げるゴング。戦いがまた始まる。
ロバート、アドラー、お互いに激しく打ち合う。
アドラーの顔面にちょっとした一発が入る、ロバートさらに追撃の一発。
アドラー反撃、ロバートのレバー(肝臓)にアドラーの連打が突き刺さる。
ゴングが鳴る、第3ラウンド終了。
カーン、第4ラウンド。ロバート少し疲れたか、アドラーの猛攻に防戦一方。
しかし何とか切り抜けて第4ラウンド終了、どうにかコーナーへ戻る。
虎太郎の目は画面から離れようとしない。
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