未来に向かって突き進め!

夏野かろ

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第4章 心に炎は燃えているか

友よ、ありがとう/Heavy pressure

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賭けの話がまとまった後は、ひたすら特訓をする日々が過ぎていった。
そして、期末試験まであと少しとなった日。
シミュレーターを使っての特訓が終わった後、リンは虎太郎たちに話を始めた。

「ジム、スライ。あんたたちに言わなくちゃならないことがあるの。
 まず、今まで特訓に付き合ってくれて、ありがとう」

スライが困惑した表情をしながら返事をする。

「ありがとうって、なんだよいきなり……。どうしたんだ?」
「実はね。ここから先は、あたしとトラタローの2人だけで特訓しようと思うの」
「はぁ? なんでだよ?」
「昨日、考えたことがあるから」

ジムが発言する。

「どういうことだ?」
「トラタローは今まで頑張ってきた。
 そして、すごく上達した。前と比べて、まるで別人みたいよ。
 けど、クレイグとやり合うにはあと少し足りない。
 だから、ここからはもっと違う特訓をする」
「何かアイデアがあるのか?」
「明日から試験前日まで、あたしが直接、こいつを鍛える。
 シミュレーターであたしと戦って、実戦形式で練習していく。
 これはあたしじゃなきゃ出来ない。そうでしょ?」
「いや、それくらいなら俺たちでも……」
「率直に言うけど、無理よ。
 自慢話になって悪いけど、あたしとあんたたちじゃ、レベルの差がありすぎる。
 あたしの腕前なら、トラタローのレベルにあわせて戦い方を変えられる。
 でも、あんたたちにそれができる? 色々な戦いができるだけの力がある?」
「……不愉快だが、認める。俺たちにそんな力はない」
「なら、あたしがやるしかないでしょ。
 大丈夫、任せといて。しっかり鍛えてみせるから」
「……了解した」

スライが慌てて突っ込みを入れる。

「おい、ジム! それでいいのかよ!」
「俺は別に構わないさ。
 リンならちゃんとやってくれる。俺は彼女を信じる。
 それに、スライ。思い出してくれ。
 俺たちだって、自分自身の試験があるんだ。
 そろそろそれに集中しなくちゃいけない。
 ここはリンの言う通り、彼女に任せるのがいいと思わないか?
 友だちを助けるといっても、限度ってものがある」
「そりゃ、そうかもしれないけどよ……」

スライは黙りこむ。その直後、虎太郎が喋る。

「みんな、今まで本当にありがとう。俺、感謝してる。
 だからこそ、ジムが言う通り、ここからはリンに任せてくれよ。
 これ以上、みんなを巻き込むわけにはいかない。
 もともと、俺とリンの2人で始めた話だ。だから最後も、俺とリンで片付ける。
 みんなは自分の生活に戻ってくれ、
 頼む、これ以上助けてもらうと気が重くなりそうなんだ。
 スライ、わかるだろ?」
「タイガー……」

スライはため息をつく。「ふぅ……」。そして言う。

「わかったよ、じゃあ、そうするか。
 でも、忘れんなよ。俺だってジムだって、お前のこと応援してるんだからな。
 最後の最後までへこたれるんじゃねぇぞ!」
「あぁ!」

虎太郎は右手で拳を作り、そこの親指を上げてみせる。
話がまとまったのを見て、リンが喋る。

「よし、じゃあ今日はこれで解散。お互い、頑張りましょ」

こうして、その日は終わった。……ように思えた。

違う、まだ終わっていない。虎太郎とリン、2人にとってはまだ終わっていない。
全員が解散した後、虎太郎とリンは校舎の屋上に行った。
今、2人はベンチに座り、遠くの景色を見ている。
リンが喋り出す。

「あんたも意外と、自分勝手よね。昨日の夜、いきなりメールをよこしてさ。
 ”特訓からジムとスライを外してくれ”って、そんなこと言い出して……。
 とりあえず、打ち合わせした通りに話を進めたけど。
 ほんとにこれでよかったの?」
「あぁ、OKだ。これでいい」
「なんだってこんなこと言い出したわけ?」
「……正直、精神的にもう限界だから」
「もっと詳しく話してよ」
「ジムたちの顔を見るのが辛いんだ。みんな、俺に期待してる。
 俺が勝って、すべてがうまくいく。それに期待してる」
「うん」
「あいつらの顔を見るたび、
 ”みんなの期待に応えなきゃ”、そう思っちまう。そうすると気が重くなる。
 だから、とりあえずここで別れることにした。少しでも楽になりたくって、さ」
「でも、まだあたしが残ってる」
「だからこうして、話をしようと思った」
「なるほどね……」
「リン。俺は……どうしたらいいと思う?」

虎太郎は憂うつな顔をしながらリンの顔を見る。
リンは口を開き、何か返事をしようとする。
だが、何を言うべきか? 彼女にはわからない、彼女の口は途中で止まる。



夕暮れの光が2人を照らしている。2人の影は長く長く伸びている。
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