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第三章 あばよ課金ゲー
第3話 潮時だな
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小梅が引退してからのあたしは、ヘルヴァスへの情熱をごっそり失い、ログ・インしてもだらだらとチャットだけして終わるような日々を送り続けた。
そんなある日、あたしがギルドの建物のベッドに寝転んでいたら、ギルド員からのメールが一通届いた。さっそく空中に広げて読んでみる。
≪どうもお世話になってます、アーガンです。実は、このたび引退しようと思いメールしました。
最近は学校の勉強が忙しく、ゲームする時間が取れなくて、それならいっそ引退して生活を一新しようと思うのです。
みんなには改めて連絡するつもりです。今までありがとうございました。≫
メールを消し、ため息をつく。「はぁ……」。
アーガンとも長いこと一緒にやってきたんだよ。そりゃ小梅と比べりゃ付き合い短いけどさ、それでも一年以上はゲーム友だちって関係続けてきたもん。
しかしお別れか。泣けちまうぜぇ……。
うん、分かってるつもり。会うは別れの始めなりって言うし、どんなに親しい相手とだって、いつかはお別れする時が来る。
それに、ネット・ゲームやってりゃあ引退だって当然あるわけでさ。悲しんだってしょうがないよ。うん、分かっちゃいるんだけどさ……。
その時、誰かが部屋のドアを叩く音がした。コンコン。
「はい、アヤメですけど」
「入ってもいいですか?」
この声は……わさびワニちゃんか。
省略してワニちゃんってあたしは呼んでるけど、彼女とも長い関係だ。うん、長い関係? あっ嫌な予感が……。
「あのー、アヤメさん。ほんとに入っていいんですか?」
「ごめ、いま開けるから!」
あわててドアへ行く。彼女が部屋に入ってくる。
うむ……なんだか渋い顔つきだぞ。
「どうしたの、ワニちゃん」
「実は、引退しようかなって思いまして」
マジで?
「引退……。理由でもあるの?」
「はい。なんか、ゲームに限界を感じたっていうか、インフレに疲れちゃって……」
インフレ。課金要素のあるゲームにはよくある話である。それはヘルヴァスだって例外ではないのだ。
「インフレって、具体的には?」
「私こないだカジナ・ソード手に入れたんですよ。欲しいって思ってから一か月かかって、ほんともう大変な道のりで……」
「ふむ」
「そしたら課金装備ですごいの出たじゃないですか」
「レイディ・ラックのこと?」
「そうですよ! カジナって攻撃力120、でもあっちは150ですよ! 私の苦労なんだったんですか、今じゃカジナなんて二流装備ですよ!」
「まま、落ち着いて……」
「そんなの無理ですって! ひどいじゃないですかこういうの、二か月三か月のペースで上位互換どんどん出してって、前の一流アイテムがあっというまに二流、三流になる!」
「でもそうしないと新しいの誰も買わないでしょ。前と同じ性能のやつが出たら、買う意味ないもんね」
「それは分かってますよ。でもやっぱ腹立たしいです!」
「とにかく落ち着きなってば。そりゃ攻撃力はレイディ・ラックが上だけどさ、カジナの方がジェムはめる穴多いでしょ? 完全下位互換じゃないって」
「そりゃ今はそうですよ。でもどうせしばらくしたら完全上位が出ます、今までもそうだった」
はぁー、どうしようこれ……。
「ワニちゃんホントに引退するの?」
「えぇ。もう付き合ってられません、運営のやり方」
「そっか……」
「結局ヘルヴァスも札束で殴るゲームじゃないですか。課金して流行の最強装備にして、時代遅れの武器持ってる奴をぶっ飛ばす」
「まぁ対人戦はそうだけどさ、モンスター相手ならそこまで差はないじゃん、新作も従来品も……」
「戦争の時が大問題じゃないですか!」
戦争。ヘルヴァスにはそういうイベントがある。
毎週土曜に特別な場所へ行って、そこでギルド同士のつぶし合い、壮大な対人戦をやるのだ。勝利したギルドは城を保有し、一定期間いろいろな特典を手に入れる。
たとえば、ギルドのメンバー全員のアイテム強化成功率が少し増える。モンスターがレア・アイテムをドロップする確率が増える。他にもいろいろだ。
対人戦では武器や防具の強さが大切で、時代遅れな装備じゃ瞬殺される。
そして我がギルド『マッド・ドッグ』はいつも戦争イベントをやっていて、現在は最強の城であるペンドラゴン・キャッスルを保有している。
きっと今週の終わりにも戦争があるだろう。相手は間違いなく『大きな子猫』の連中だ。負けるわけにはいかない、そしたら課金で最新装備をそろえないとダメなわけだけど……。
ワニちゃんは言う。
「今まではインフレ速度がゆるかったし、露骨な課金煽りもなかった。最近は違う、あの手この手で私たちに課金させようとしてくる」
「それが不満?」
「はい」
「そっかぁ……」
あたしはため息をつき、話す。
「引退したいって人を引き留めたりはしないよ。みんなそれぞれ事情があるわけだしね。でもさびしいな」
「すみません。でもやっぱヘルヴァスが嫌になっちゃって」
「ワニちゃんの気持ちわかるよ。あたしもさ、最近は運営についていけなくて」
「じゃあアヤメさんも引退するんですか?」
「まだそこまで考えてるわけじゃないけど……。まぁあたしのことはともかくさ、ワニちゃんの言いたいことちゃんとわかったから。今までありがとうね」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「もう少しだけいて、後でみんなにあいさつしてってよ」
「はい。それ終わったら、じゃあお別れしますね」
「了解」
「それじゃ私、ちょっと落ちますね。歯医者の予約あるんで、また夜に来ます」
「あいよ」
彼女の姿が消える。ログ・アウトしたんだな。
引退か……。あたしもそろそろ潮時なのかもしれんなぁ……。
こうやってどんどん人がいなくなるとさ、想像以上にやる気がなくなってくよ。学校を卒業して友だちとお別れするような、そんなさびしさが胸を悲しませるんだ。
うん、決めた。
次の戦争やったらあたしも引退しよう。これ以上この切なさには耐えられないから。
そんなある日、あたしがギルドの建物のベッドに寝転んでいたら、ギルド員からのメールが一通届いた。さっそく空中に広げて読んでみる。
≪どうもお世話になってます、アーガンです。実は、このたび引退しようと思いメールしました。
最近は学校の勉強が忙しく、ゲームする時間が取れなくて、それならいっそ引退して生活を一新しようと思うのです。
みんなには改めて連絡するつもりです。今までありがとうございました。≫
メールを消し、ため息をつく。「はぁ……」。
アーガンとも長いこと一緒にやってきたんだよ。そりゃ小梅と比べりゃ付き合い短いけどさ、それでも一年以上はゲーム友だちって関係続けてきたもん。
しかしお別れか。泣けちまうぜぇ……。
うん、分かってるつもり。会うは別れの始めなりって言うし、どんなに親しい相手とだって、いつかはお別れする時が来る。
それに、ネット・ゲームやってりゃあ引退だって当然あるわけでさ。悲しんだってしょうがないよ。うん、分かっちゃいるんだけどさ……。
その時、誰かが部屋のドアを叩く音がした。コンコン。
「はい、アヤメですけど」
「入ってもいいですか?」
この声は……わさびワニちゃんか。
省略してワニちゃんってあたしは呼んでるけど、彼女とも長い関係だ。うん、長い関係? あっ嫌な予感が……。
「あのー、アヤメさん。ほんとに入っていいんですか?」
「ごめ、いま開けるから!」
あわててドアへ行く。彼女が部屋に入ってくる。
うむ……なんだか渋い顔つきだぞ。
「どうしたの、ワニちゃん」
「実は、引退しようかなって思いまして」
マジで?
「引退……。理由でもあるの?」
「はい。なんか、ゲームに限界を感じたっていうか、インフレに疲れちゃって……」
インフレ。課金要素のあるゲームにはよくある話である。それはヘルヴァスだって例外ではないのだ。
「インフレって、具体的には?」
「私こないだカジナ・ソード手に入れたんですよ。欲しいって思ってから一か月かかって、ほんともう大変な道のりで……」
「ふむ」
「そしたら課金装備ですごいの出たじゃないですか」
「レイディ・ラックのこと?」
「そうですよ! カジナって攻撃力120、でもあっちは150ですよ! 私の苦労なんだったんですか、今じゃカジナなんて二流装備ですよ!」
「まま、落ち着いて……」
「そんなの無理ですって! ひどいじゃないですかこういうの、二か月三か月のペースで上位互換どんどん出してって、前の一流アイテムがあっというまに二流、三流になる!」
「でもそうしないと新しいの誰も買わないでしょ。前と同じ性能のやつが出たら、買う意味ないもんね」
「それは分かってますよ。でもやっぱ腹立たしいです!」
「とにかく落ち着きなってば。そりゃ攻撃力はレイディ・ラックが上だけどさ、カジナの方がジェムはめる穴多いでしょ? 完全下位互換じゃないって」
「そりゃ今はそうですよ。でもどうせしばらくしたら完全上位が出ます、今までもそうだった」
はぁー、どうしようこれ……。
「ワニちゃんホントに引退するの?」
「えぇ。もう付き合ってられません、運営のやり方」
「そっか……」
「結局ヘルヴァスも札束で殴るゲームじゃないですか。課金して流行の最強装備にして、時代遅れの武器持ってる奴をぶっ飛ばす」
「まぁ対人戦はそうだけどさ、モンスター相手ならそこまで差はないじゃん、新作も従来品も……」
「戦争の時が大問題じゃないですか!」
戦争。ヘルヴァスにはそういうイベントがある。
毎週土曜に特別な場所へ行って、そこでギルド同士のつぶし合い、壮大な対人戦をやるのだ。勝利したギルドは城を保有し、一定期間いろいろな特典を手に入れる。
たとえば、ギルドのメンバー全員のアイテム強化成功率が少し増える。モンスターがレア・アイテムをドロップする確率が増える。他にもいろいろだ。
対人戦では武器や防具の強さが大切で、時代遅れな装備じゃ瞬殺される。
そして我がギルド『マッド・ドッグ』はいつも戦争イベントをやっていて、現在は最強の城であるペンドラゴン・キャッスルを保有している。
きっと今週の終わりにも戦争があるだろう。相手は間違いなく『大きな子猫』の連中だ。負けるわけにはいかない、そしたら課金で最新装備をそろえないとダメなわけだけど……。
ワニちゃんは言う。
「今まではインフレ速度がゆるかったし、露骨な課金煽りもなかった。最近は違う、あの手この手で私たちに課金させようとしてくる」
「それが不満?」
「はい」
「そっかぁ……」
あたしはため息をつき、話す。
「引退したいって人を引き留めたりはしないよ。みんなそれぞれ事情があるわけだしね。でもさびしいな」
「すみません。でもやっぱヘルヴァスが嫌になっちゃって」
「ワニちゃんの気持ちわかるよ。あたしもさ、最近は運営についていけなくて」
「じゃあアヤメさんも引退するんですか?」
「まだそこまで考えてるわけじゃないけど……。まぁあたしのことはともかくさ、ワニちゃんの言いたいことちゃんとわかったから。今までありがとうね」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「もう少しだけいて、後でみんなにあいさつしてってよ」
「はい。それ終わったら、じゃあお別れしますね」
「了解」
「それじゃ私、ちょっと落ちますね。歯医者の予約あるんで、また夜に来ます」
「あいよ」
彼女の姿が消える。ログ・アウトしたんだな。
引退か……。あたしもそろそろ潮時なのかもしれんなぁ……。
こうやってどんどん人がいなくなるとさ、想像以上にやる気がなくなってくよ。学校を卒業して友だちとお別れするような、そんなさびしさが胸を悲しませるんだ。
うん、決めた。
次の戦争やったらあたしも引退しよう。これ以上この切なさには耐えられないから。
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