迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

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第1部 すべては経験

第7話 何もかも不十分/Enough to Count on

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 やがてカールは回復し、以前のように動けるようになった。彼は治療のために使われた金を支払った後、今後の冒険について話をするため、ギンたちの宿屋を訪れた。彼らは近くの大衆向け料理屋に行き、今はそこで話をしている。
 朝と昼の間の時間帯、そんな時はどこの料理屋も暇であり、それはこの店も例外ではない。店内にはギンたち以外の客はなく、どこか静かで落ち着いた雰囲気が感じられる。彼らのテーブルの上には、小さなサンドイッチだのチップス(chips,  揚げたジャガイモ)だのが置かれていて、それらの半分くらいはもう食べられている。
 最初に口を開いたのはカールだった。

「さて、何から話をしようか?」

 答えたのはギン。

「とりあえず、改めて自己紹介します。俺はギン、このパーティーで戦士をやってます。犬耳のこいつは……」
「俺はリッチー、まぁ、何でも屋だな。状況次第で剣を使ったり、魔法を使ったり、鍵を開けたり、いろいろだ」

 カールは質問する。

「鍵開け? 盗賊なのかい?」
「そりゃ、世間の分類的にはそうだけどよ。カールさん、俺はあくまで冒険者なんだ。盗賊の技は冒険のために勉強したんだ、犯罪のためじゃねぇ」
「すまない、傷つけるつもりはなかったんだ。許してくれ」

 レーヴが口を挟む。

「リッチーはもうちょっと優しさを学んだほうがいいと思うよ。あっ、カールさん、あたしはレーヴ、魔法使いです。回復より攻撃の方が得意だよ」
「レーヴ、よろしく」
「こちらこそよろしく! で、こっちの金髪がキャンディス。ほら、喋って喋って」
「はじめまして、キャンディスと申します。回復の魔法を使ったり、薬を作ったりしています。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」

 話をまとめるべく、ギンが喋り出す。

「カールさんは、魔法戦士?」
「そう呼ばれることもあるが、基本的には戦士だ。私の魔法なんて大したことはない、基本的なものしかできないんだ」
「それでも、使えないよりはずっといいですよ。俺なんて、リターン(return,  帰還)やランプ(lamp,  灯り)みたいな初歩がやっとです」
「私だって駆け出しのころはそうだった。大丈夫、経験を積めばもっといろいろな魔法が使えるようになる」
「だといいんですけど……」
「そんなにしょぼくれた顔をしちゃあダメだよ。笑う門にはなんとやら、だからね。それで、冒険の話をしたいんだが……」
「えぇ、それなんですけど……」

 ギンの視線がテーブルの上のサンドイッチに注がれる。それは、3人前ほどの分量しかなかった。この場にはギンたちとカールの計5人がいるのに、だ。ギンの視線に気づいたカールが喋る。

「お金がないのかい?」
「……率直に言えば、そうです」
「おかしいな、私は治療費を返したはずだろう?」

 お金の話が始まったのをみて、リッチーが会話に参加する。

「確かに、あんたの金で俺たちの出費は穴埋めされた。けど、それでも俺たちには金がねぇのさ。なにせ貧乏だからな……」
「貧乏?」
「そうさ、貧乏さ。カールさん、貧乏ってなんだと思う? それは、不足してるってことだ。十分な量がないってことだ。十分な金がない、メシがない、武器がない、防具がない。いつも赤字すれすれの生活だよ」
「ふむ」
「前にも言ったかもしれねぇが、俺たちは冒険者レベル2だ。レベル2じゃあ、大した仕事なんて回ってこねぇ。あんたも知っての通り、おいしい仕事は高レベルの奴らが持ってっちまうんだからな」
「まぁ、それが冒険者の業界事情だからね……」
「この街の冒険者組合は、ポイズン・リザードを倒せばレベル3に格上げするって言ってる」
「だから、私の力を借りてリザードを倒したい。そういうことか?」
「ご名答。レベル3になりゃあ、少しはマシな仕事が入ってくる。そうすりゃ、貧乏生活も少しは楽になる」
「なるほどね……」

 カールはサンドイッチに手を伸ばそうとする。するが、レーヴの視線がサンドイッチに注がれているのに気づき、手を引っ込める。彼は言う、「レーヴ、私はいいから、食べてくれ」。レーヴは顔を明るくしながら「いいの!?」と返答し、サンドイッチをつかんで食べる。その様子を見ながらカールは言う。

「リザード退治の前に、当座の生活費を作るほうが先じゃないか?」

 その話にはキャンディスが答える。

「でも、当てがなくって……」
「この街には大きなダンジョンがあると聞いている。そこへ行って、何かお宝を見つけるというのはどうだろう?」
「私たちだってそうしたいんですけど、ダンジョンで戦うと赤字になってしまって」
「薬やら武器の修理代やらで出費するからだろう?」
「えぇ」
「大丈夫、今回は私がいる。私とみんなが力を合わせれば、大して出費せずに冒険できるさ。だから、一儲けしようじゃないか」
「……本当に大丈夫でしょうか?」
「私が頼りなさそうに見えるのかい??」

 カールは笑ってみせる。キャンディスはそれを見る、彼女はそれを、なかなかさわやかな感じだと思った。とてもキレイだと思ったし、美しいとも思った。
 その時、レーヴがサンドイッチを食べ終わった。彼女は話を始める。

「あたしはカールさんの意見に賛成だな。たまには美味しいものたくさん食べたいもん。それに、ポイズン・リザードって毒の息を吐くじゃん。あれをどうにかするアイテムを買うためにも、お金が必要だよ」

 それからも相談は続いたが、結局、資金稼ぎが必要ということで全員の意見が一致した。そういうわけで、翌日、ギンたちはダンジョンへ行くことになった。



 貧乏暇なし。
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