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第1部 すべては経験
第8話-1 幸運を求めて/In Search of a Fortune
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セラの街のダンジョンは、巨大なことで有名だった。それは地下へ地下へと進むような構造になっていて、とにかく深く、それゆえに最下層へ到達した冒険者はまだ誰もいない。
いったい誰がこのダンジョンを造ったのか、いつから存在しているのか、なぜモンスターや宝箱があるのか? 何もかもが謎に満ちていて、詳しいことは誰にも分からない。しかし、一つだけ分かっていることがある。それは、ダンジョンの中には多くの財宝と死の危険が存在する、ということだ。
冒険者たちは今日もダンジョンへ行く、何かを手に入れるために。誰かがこのようなことを言った、「冒険とはギャンブルの異名なり」。人は、命を賭け金にして勝負に参加し、大金を得て帰るか、さもなくば死ぬ。分の悪い賭け、それでも、賭博の魔力に魅入られた人々は勝負してしまう。そのような者たちは、おそらく死ぬまで勝負を止めないだろう。
その日、ギンたちは支度を整え、朝早くからダンジョンへ向かった。彼らは道を歩きながら話をする。ギン。
「カールさんは両手剣を使わないんですか?」
「私は片手剣のほうが好きでね。ほら、両手剣は狭いところで使いづらいだろう? それが嫌なんだ」
「でも片手は威力が低いですよ」
「そのかわり小回りが利く。それに、私は魔法を使うからね。剣を使わない手を自由にしておかないと困るんだ」
「あっ、だから片手剣なのに盾を持ってないんですね」
「ご名答」
カールはにっこりと笑う。それから話を続ける。
「ギンくんも片手剣にしてみたらどうだい? なかなかいいものだよ」
「お金に余裕ができたら、考えてみますよ。そりゃ俺だって、興味はあります。でも、まずは強い鎧や膝当てが欲しくって……」
「防具か。確かに、防具は必要だな」
カールはギンの全身を見る。最低限の防具はそろっているものの、痛みの激しいものが多く、その性能はかなり低下している。カールは励ますように言う。
「今回の冒険が成功したら、きっといい物が買えるようになるさ。とにかく、一緒に頑張ろう」
「えぇ、よろしくお願いします」
ギンはそう言って、軽く頭を下げた。
彼らはダンジョンの入り口に到着した。そこは壁に大穴が空いていて、その穴から地下へ向かって進んでいくようになっている。レーヴがカールに言う。
「まるで、ドラゴンが大口開けてるみたいでしょ。実際、ドラゴンの死体がダンジョンになったなんて話もあるんだ」
カールは軽く返答する。「面白いな、それは」。リッチーがレーヴをせっつく。「無駄話はいいから、早く灯りをつけてくれ」。レーヴは不満そうに「せっかちは女の子に嫌われるよ」などど言いながら、右手に光の球を作り出して空中に浮かべる。
「はい、ランプの魔法だよ。それじゃ、準備もできたことだし、行こうか?」
ギンたちはダンジョンの中へ入っていく。その姿はダンジョンの闇の中に消えていき、やがて見えなくなる。
ダンジョンの中は薄暗く、カビくさい。壁や天井、床に生えたコケが魔法の光をぼんやりと放ち、汚れた空気が渦を巻く。そんな空間の中を、ギンたちはいつでも戦えるような態勢を取り、警戒しつつ歩いていく。カールが思い出したように言う。
「リッチーくんはクロス・ボウで戦うという話だけど、剣や槍での接近戦はしないのかい?」
「状況次第じゃ、そうすることもあるけどよ」
「じゃあなぜクロス・ボウを使う? 理由を知りたいのだが」
「俺は目や耳が鋭くて、遠くの敵をすぐ見つけられる。そこから先制攻撃してくなら、クロス・ボウで狙撃するのが一番。そう思ってんですよ」
「なるほど」
「いつもなら、アポートの魔法でボウをしまっておいて、必要な時だけ出すんだけどよ。今回は前衛二人で数が足りてる、俺が前線で戦わなくても大丈夫だから、それならボウで援護射撃していこうと思ってよ」
「なぜ今はアポートでしまわず、持ち歩いているんだい?」
「あれで出すのは時間がかかるんでね。でも、持ち歩いてればすぐに構えられる」
「いろいろと大変だな」
「まぁ仕方ねぇ、状況次第でいろいろやるのが俺だから」
言い遅れたことをいま説明しよう。この世界では、努力すれば誰でも魔法が使える。ただし、どの程度の魔法を習得できるか、どれほど上手に使いこなせるか、そういったことは個人の才能に強く依存する。
魔法使いという呼称は、高難度の魔法を使いこなす者たちに対して使われる言葉である。そして、どんな種類の魔法使いであろうと、理論的には、あらゆる魔法を習得できる。攻撃や破壊であろうと、回復や修理であろうと、記憶の消去や発狂といった魔法であろうとだ。伝説によれば、死者を蘇生する魔法を使った者もいる。
魔法の灯りを作り出したり、小さな火を起こしたり、軽微な傷を治したり。その程度は誰にでもできることである。よって、ギンやリッチーのような魔法を専門としない者であっても、少しは魔法が使えるのだ。
その時、リッチーは何かの物音を聞きつけた。彼は「シッ、静かに……」と言い、耳を澄ませる。それはどうやら、人間型の生き物の足音らしい。彼は小声で言う。
「たぶん、ゴブリン(小鬼)か何かが前の方にいる。あの角の……後ろを歩いてる……二人か三人……」
全員の間に緊張が走る。ギンたちはその場に立ち止まり、武器を構え、先制攻撃をかける準備に入る。リッチーはクロス・ボウを構え、目をこらして角のあたりを見続ける。
「俺が発射したら、ギンとカールさんで突っ込んで……」
名前を呼ばれた二人は無言でうなずき、剣を握りしめる。
本日最初の戦いがもうすぐ始まる。
いったい誰がこのダンジョンを造ったのか、いつから存在しているのか、なぜモンスターや宝箱があるのか? 何もかもが謎に満ちていて、詳しいことは誰にも分からない。しかし、一つだけ分かっていることがある。それは、ダンジョンの中には多くの財宝と死の危険が存在する、ということだ。
冒険者たちは今日もダンジョンへ行く、何かを手に入れるために。誰かがこのようなことを言った、「冒険とはギャンブルの異名なり」。人は、命を賭け金にして勝負に参加し、大金を得て帰るか、さもなくば死ぬ。分の悪い賭け、それでも、賭博の魔力に魅入られた人々は勝負してしまう。そのような者たちは、おそらく死ぬまで勝負を止めないだろう。
その日、ギンたちは支度を整え、朝早くからダンジョンへ向かった。彼らは道を歩きながら話をする。ギン。
「カールさんは両手剣を使わないんですか?」
「私は片手剣のほうが好きでね。ほら、両手剣は狭いところで使いづらいだろう? それが嫌なんだ」
「でも片手は威力が低いですよ」
「そのかわり小回りが利く。それに、私は魔法を使うからね。剣を使わない手を自由にしておかないと困るんだ」
「あっ、だから片手剣なのに盾を持ってないんですね」
「ご名答」
カールはにっこりと笑う。それから話を続ける。
「ギンくんも片手剣にしてみたらどうだい? なかなかいいものだよ」
「お金に余裕ができたら、考えてみますよ。そりゃ俺だって、興味はあります。でも、まずは強い鎧や膝当てが欲しくって……」
「防具か。確かに、防具は必要だな」
カールはギンの全身を見る。最低限の防具はそろっているものの、痛みの激しいものが多く、その性能はかなり低下している。カールは励ますように言う。
「今回の冒険が成功したら、きっといい物が買えるようになるさ。とにかく、一緒に頑張ろう」
「えぇ、よろしくお願いします」
ギンはそう言って、軽く頭を下げた。
彼らはダンジョンの入り口に到着した。そこは壁に大穴が空いていて、その穴から地下へ向かって進んでいくようになっている。レーヴがカールに言う。
「まるで、ドラゴンが大口開けてるみたいでしょ。実際、ドラゴンの死体がダンジョンになったなんて話もあるんだ」
カールは軽く返答する。「面白いな、それは」。リッチーがレーヴをせっつく。「無駄話はいいから、早く灯りをつけてくれ」。レーヴは不満そうに「せっかちは女の子に嫌われるよ」などど言いながら、右手に光の球を作り出して空中に浮かべる。
「はい、ランプの魔法だよ。それじゃ、準備もできたことだし、行こうか?」
ギンたちはダンジョンの中へ入っていく。その姿はダンジョンの闇の中に消えていき、やがて見えなくなる。
ダンジョンの中は薄暗く、カビくさい。壁や天井、床に生えたコケが魔法の光をぼんやりと放ち、汚れた空気が渦を巻く。そんな空間の中を、ギンたちはいつでも戦えるような態勢を取り、警戒しつつ歩いていく。カールが思い出したように言う。
「リッチーくんはクロス・ボウで戦うという話だけど、剣や槍での接近戦はしないのかい?」
「状況次第じゃ、そうすることもあるけどよ」
「じゃあなぜクロス・ボウを使う? 理由を知りたいのだが」
「俺は目や耳が鋭くて、遠くの敵をすぐ見つけられる。そこから先制攻撃してくなら、クロス・ボウで狙撃するのが一番。そう思ってんですよ」
「なるほど」
「いつもなら、アポートの魔法でボウをしまっておいて、必要な時だけ出すんだけどよ。今回は前衛二人で数が足りてる、俺が前線で戦わなくても大丈夫だから、それならボウで援護射撃していこうと思ってよ」
「なぜ今はアポートでしまわず、持ち歩いているんだい?」
「あれで出すのは時間がかかるんでね。でも、持ち歩いてればすぐに構えられる」
「いろいろと大変だな」
「まぁ仕方ねぇ、状況次第でいろいろやるのが俺だから」
言い遅れたことをいま説明しよう。この世界では、努力すれば誰でも魔法が使える。ただし、どの程度の魔法を習得できるか、どれほど上手に使いこなせるか、そういったことは個人の才能に強く依存する。
魔法使いという呼称は、高難度の魔法を使いこなす者たちに対して使われる言葉である。そして、どんな種類の魔法使いであろうと、理論的には、あらゆる魔法を習得できる。攻撃や破壊であろうと、回復や修理であろうと、記憶の消去や発狂といった魔法であろうとだ。伝説によれば、死者を蘇生する魔法を使った者もいる。
魔法の灯りを作り出したり、小さな火を起こしたり、軽微な傷を治したり。その程度は誰にでもできることである。よって、ギンやリッチーのような魔法を専門としない者であっても、少しは魔法が使えるのだ。
その時、リッチーは何かの物音を聞きつけた。彼は「シッ、静かに……」と言い、耳を澄ませる。それはどうやら、人間型の生き物の足音らしい。彼は小声で言う。
「たぶん、ゴブリン(小鬼)か何かが前の方にいる。あの角の……後ろを歩いてる……二人か三人……」
全員の間に緊張が走る。ギンたちはその場に立ち止まり、武器を構え、先制攻撃をかける準備に入る。リッチーはクロス・ボウを構え、目をこらして角のあたりを見続ける。
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