迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

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第1部 すべては経験

第8話-4 虫の知らせ/Instincts Tell the Truth

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 地下2階の空気は少し暖かく、湿気が高いように感じられる。ところどころには謎の草や木が生い茂り、地下空間とは思えない光景が広がっている。何らかの魔法力の仕業である。そんな中をギンたちは進んでいく。
 カールがギンに尋ねる。

「虫が多いと聞いているが、具体的には?」
「まぁ、いろいろですよ。デカいカマキリだの、気持ち悪い蛾だの」
「嫌なところだな……」
「同感ですよ。でも、俺たちが安全に稼げるところってここなんで、いつも狩場にしてるんです」
「3階では稼がないのかい?」
「あそこはたまに強いモンスターが出るから嫌なんですよ。カニが出るとすっごくヤクいですね」
「カニ?」
「スパイダー・クラブ(spider crab,  タカアシガニ)とか。やたら狂暴だし甲羅は固いし、魔法が効かないと倒せないですね」
「なるほど。じゃあ今日は、ここで大きいのを仕留めて終わりにしよう」
「獲物が見つかればそうしたいですけどね……」

 喋りながら彼らは道を行く。地図を頼りに、モンスターがよく出る場所を回り、いくつかの扉を通る。なぜダンジョン内に扉があるのか、考えてみれば不思議な話だ。しかし、今では誰も、その理由について考えなくなってしまった。物好きな学者たちが研究しているだけである。
 やがて彼らは草だらけの大きな通路を見つける。その奥からは、人間族や耳長族(キャンディスやレーヴのこと)にもはっきり分かるほどの強い甘い匂いが漂ってくる。リッチーは提案する。

「はちみつの匂いだな。モンスターが壊した蜂の巣があるんじゃねーの」

 彼は通路の奥へ行くことを主張する。だがキャンディスが反論する。

「リッチーさん、危険な予感がします。ここには入らないほうがいいのでは?」
「けどよ、リスクを覚悟しなくちゃ、リターンは手に入らないんだぜ」
「言いたいことは分かりますが、君子危うきに近寄らず、という言葉もありますよ」
「じゃあどうすんだよ、おい……」

 キャンディスの主張をカールが支持する。「私もキャンディスくんと同じ意見だ、他を当たるべきだよ」。だがギンとレーヴが反対する。反対2の賛成3、結局この多数決によって、彼らは通路を進むことに決めた。
 万が一の場合に備え、キャンディスはクィッケニング(quickening,  行動高速化)の魔法を使う。これで逃げ足を早くし、敵に会った場合すぐに逃げられるようにしておくのだ。それが終わった後、探索が始まった。
 慎重に通路を歩いていくギンたち。レーヴがキャンディスに声をかける。

「キャンディス、大丈夫?」
「魔法力が減ってきてしまって……」
「ミント飴なめたら?」
「もうやってますよ」

 ミント飴には魔法力を回復する効果がある。その効き目はわずかだが、何もしないよりはマシである。もちろんもっと良い回復アイテムが存在するのだが、貧乏なギンたちが用意できるのはミント飴がせいぜいである。ちなみに、この飴はキャンディスの手作りだ。
 トン、トン、ギンたちは足音を響かせながら通路を行く。やがて彼らは通路の奥にたどり着く、そこは行き止まりで、壊れた蜂の巣が一つ転がっている。リッチーがそれを調べる。

「……ダメだな、こりゃ。よくわからん液体で汚れちまってる」

 ギンは失望する。「なんだよ、期待したのに……」。はちみつには中々の価値があり、売ればいい収入になる。しかし汚れていては商品価値などない。ギンたちは蜂の巣の回収を諦め、いま来た道を戻る。そしてモンスターに遭遇する。威嚇の声。

「ギチギチ……」

 それは大きなカマキリである。ジャイアント・マンティス(Giant mantis,  巨大カマキリ)と呼ばれることもある。高さは2メートルほどだろうか、全部で二匹がいて、通路を占領している。キャンディスが不満をもらす。

「だから言ったじゃないですか! あのはちみつは罠だったんです、この通路に私たちを誘い込むための!」

 ここは袋小路、もはや逃げ場などない。生き残るためには、リターンの魔法で街に戻るか、それともカマキリを倒すか、いずれかしかない。ギンは剣を構えて言う。

「反省は後だ、まずはあいつらを倒す。みんな、これはむしろチャンスと考えよう。あのカマを手に入れりゃ、大儲けだ!」

 このモンスターのカマは鉄も切り裂く鋭さだが、それゆえに利用価値が高く、武器屋などが高く買い取るのだ。カールも武器を構えて喋る。

「いい獲物だ。よし、本日最後の戦いといこうじゃないか!」

 ギンたちの様子を見たカマキリたちは、「ギチギチ!」と威嚇しながら戦闘態勢に入る。冒険者を殺す刃、しかしカマキリたちが殺されれば、それは命と共に奪い去られるだろう。



 生き残った者がすべてを手に入れる、それがダンジョンの日常。
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