迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

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第1部 すべては経験

第8話-7 無法地帯/No Justice, No Evil

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 ブレイズ・アローを放った直後、レーヴは気絶して地面に倒れた。リッチーはかがんで大声を出し、安否を確かめようとする。

「おい、レーヴ、おい!」

 魔法力を使い果たしたレーヴの顔は、死人のように青白い。呼吸はしているようだが、当分は目覚めないだろう。リッチーは立ち上がり、前方のギンたちの様子を見ようとする。
 ギンは傷だらけだった。それでもギンは剣を振るい、目の前の男に襲いかかる。男の迎撃、盾がギンの剣を受け止める。男は言う。

「弱ぇなぁ、坊主! おら、どうしたどうしたァ!」

 男の剣がギンの横腹に叩きこまれる。「ぐぅっ!」、ギンはうめき声を上げる。すでにボロボロになっている革の鎧、その下から新たな血が流れ出し、彼の体力を奪う。ギンの反撃、だがそれは男の盾に防がれる。男の攻撃、それはギンに直撃して新たな傷を作る。ギンの勝ち目は薄い。
 ギンから少し離れた場所で戦っているカールもまた、ギンと同じように苦戦している。ギンほど重傷ではないものの、彼も傷ついており、息が上がりそうになっている。彼から少し前の場所にいる男が、ニタニタ笑いながら喋る。

「お前みたいな魔法戦士の弱点は、盾を持たないってとこだ。だが俺には盾がある。お前と違って、守りがしっかりしてるのさ。盾のないお前とある俺、戦ったらどっちが有利か……分かるよなぁ?」

 カールは剣を握りしめ、その言葉に返す。

「攻撃は最大の防御、守りを捨てて攻めのみを考える。それが私の戦闘哲学でね」

 彼はローブの男がいた地点を目で確認する。もはやそこには誰もいない。彼は話を続ける。

「ところで、お仲間が倒されたようだが?」
「なに……?」
「先ほどの魔法が直撃したらしい。どうやら、形勢逆転だな?」
「ぐっ……(彼は大声を出す)、おい、ロビン!」

 誰も彼に応えない。男は毒づく、「くそっ、まさかロビンが!」。カールはその様子を見ながら態勢を整え、男の隙をうかがう。直後、カールの後方から飛来する矢が男の脇腹に刺さる。

「うっ……!」
「リッチーの矢か!!」

 男の動きが止まる。絶好のチャンス、カールは剣を構えて突進、一気に踏み込んで間合いを掌握、刺突を放ち男の心臓をぶち抜く。男の口から最期の言葉がもれる。

「こ、こんな……とっ……」

 カールは剣を引き抜く。傷口から大量の血が流れ出し、それとほぼ同時に男は倒れる。敵を片づけたカールはギンの方へ注意を向ける、そこには、いつ倒されてもおかしくない様子のギンがいる。
 ギンの目の前にいる男が剣を振るう。剣撃がギンの肩に落とされ、傷を作り出す。ギンの動きは明らかに鈍い、今の彼は気力だけで立っているように見える。男はギンから飛びのいて距離を開ける、それからギンに話しかける。

「まぁまぁ粘ったな、ほめてやる。だが、もう終わりだ!」

 突進するため、男は身構える。それを妨害すべく、カールが魔法を放つ。残り少ない魔法力で作られた小さな光球は男に直撃し、その効果を発揮する。いくつもの魔法のロープが発生し、男の体を縛り上げる。カールは叫ぶ。

「バインディング(binding,  拘束)の魔法をかけた、今のそいつは動けない!」

 ギンは剣を振り上げて突進する。男が悲鳴をあげる、「ひっ……!」。彼は体を動かそうとする、だが、魔法のロープは物理的な力では解けない。彼の目前にギンが迫る、剣が振り下ろされる、脳天にめりこむ。砕ける頭蓋骨、つぶれる脳、あふれ出す脳しょう、流れ出る血。致命傷を受け、男は死ぬ。
 男が死んだのを見て、ギンはつぶやく。

「やったか……?」

 彼の後ろから走ってきたリッチーが声をかける。

「おい、大丈夫か!?」
「はは、ちょっとヤクいかもね……」
「おい、ギン! おい!」

 ギンは剣を地面に突き刺し、それを杖代わりにして、地面へ腰を下ろす。体から落ちる血のしずくが床を汚し、傷口からの痛みが彼の精神をさいなむ。そこへカールがやって来る。

「ギンくん、生きているか!?」
「えぇ、何とか……。そっちは?」
「片づけた、問題ない」
「へへ、じゃあ、俺たちの勝利だ……」

 カールはリッチーにたずねる。

「キャンディスくんたちは?」
「魔法を使いすぎて気絶しちまった」
「わかった、では早く帰ろう。いま襲われたら今度こそ助からないぞ」
「けど、お宝を回収しねぇと」
「よし、じゃあ早く!」

 カールとリッチーはカマキリのカマを回収する。それをキャンディスたちのそばに置き、次にギンをその場所へ移動させる。彼に肩を貸して歩くのを手伝い、ゆっくりと地面に降ろす。すべての作業が終わり、リッチーが喋る。

「これでOK、後はリターンの魔法を使うだけだ」

 リッチーは手に魔法力をためようとする。だがカールはそれを制する。

「待ってくれ、まだあいつらから何も取っていない」
「えっ、取ってないって、それは?」
「金でもアイテムでも、慰謝料代わりに回収していかないと」

 リッチーはカールをまじまじと見る。そして言う。

「そんなのおかしいだろ! 相手を殺して、それで物を取るって、それじゃあまるで、俺たちの方が追いはぎだ!」
「何を言っているんだリッチーくん、別におかしくないさ。ここはダンジョン、あいつらが言っていた通り、無法地帯だ。何をやっても罪にはならない」
「けどよ!」
「リッチーくん、よく聞いてくれ。私たちはすでに人殺しなんだ。身を守るために仕方なくとはいえ、相手を殺した。そうだろう?」
「人殺し……!?」
「そうだ、人殺しだ。でもダンジョンでは、それは罪ではない。もう一度言おう、ダンジョンは無法地帯。たとえ人殺しだろうと、何をやろうと罪にはならない。死体から物を取るのだって無罪だ」
「カールさん!」
「だいたい考えてみたまえ、ここにあいつらの死体を放置しておけば、いずれ他の冒険者たちが物を取っていく。私たちだって、オーガにやられた連中から物を取った。そうだろう?」

 リッチーの脳裏に、あの時の光景が蘇る。あの時、彼自身が言った言葉が蘇る。

《でもよ、放っておけば別の誰かが持ってくだけだぜ? なら、いま俺たちが取ったっていいだろよ。俺たちがやるか、俺たち以外がやるか、その程度の違いしかねぇんだから》

「……あぁ、その通りだ……」
「何も気にするな。いずれこういったことには慣れっこになるのだから。きれい事だけでは生きていけないんだよ」」
「おかしい、そんなのおかしいぜ、カールさん」
「今は戦いの直後だ、頭が混乱して、いろいろ理解できないのは仕方ない。わかった、私が行って回収してこよう。それが終わったらリターンだ」

 カールはダンジョン・マンたちが死んでいるところへ向かって歩いてく。その背中を、リッチーは無言で見つめている。



 こうして、その日の冒険は終了した。
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