迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

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第1部 すべては経験

第14話-1 買い物日和/Money Monger

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 買い物に出かけるその日は、快晴で、気温もちょうど良く、ただ外を歩くだけで心がきれいになりそうだった。予定通りギンたちは街へ繰り出し、ギン&リッチーの男子組と、レーヴ&キャンディスの女子組に別れて行動を開始した。
 ギンたちについて語ろう。まず彼らは武器屋へ向かった。いつも利用する馴染みの店に、前から欲しいと思っていた品があったからである。
 だが、あいにくその日は臨時休業。店の前のギンたちは、ドアにぶら下がっている「閉店中」の看板をながめながらボーッと突っ立っている。リッチーが愚痴る。

「なんだよ、いきなりコレか? Tough luck,  ツイてねぇ」
「どうしよっか?」
「……明日、出直すか?」
「まぁ悪くないけど……。ねぇ、せっかくだから、別の店に入ってみようよ。もしかしたら、何かすごい掘り出し物があるかもよ」
「そりゃぁいい。でも、行くアテなんかあるのか?」
「いや、ないけど」
「おいおい……」

 このままここで喋っていても意味がない。二人はとりあえずその場を去って、街の中をぶらついてみることにする。
 街の大通りを行けば、彼らのような冒険者風の恰好をした連中が何人も歩いている。ギンたちは、そういった人々をちらちら見ながら歩き、会話する。リッチー。

「なぁ、俺たちの前を歩いてるあいつ、見てみろよ」
「前って、銀色の鎧の人?」
「そうそう。すげぇよな、あれたぶん魔法銀の鎧だぜ」

 魔法銀とは、別名をミスリルといって、高級なことで有名である。軽くて丈夫、その上、魔法力を吸収しやすい性質を持っている。具体的にいえば、魔法をかけて強化したアイテムにしやすい、ということである。
 プロテクションの魔法をかけて、通常よりも防御力のある防具にしたり、アイス・オーラ(ice aura,  炎への抵抗力を高める)の魔法をかけて炎に強くしたり。

 こうして魔法力によって強化されたアイテムは、通常ではまず手に入らない高級品である。物によっては、家や土地を売ったお金でも買えないほどの価格がつけられる。それゆえ、これを所持している冒険者は、かなりの財産家だといえるだろう。
 今、ギンたちの目の前にいる冒険者は、そういった品を身につけているのだ。リッチーがぼやく。

「いつになったら俺たち、あぁいうすげーもん手に入れられるんだろうな……」
「元気出せよ、お前らしくない。そりゃ、今は無理だけどさ。いずれは俺たちだって、大金持ちになって、魔法銀でもなんでも買えるようになるんだから」
「そのためにはどれだけ頑張ったらいいんだか……」
「リッチー、後ろ向きに考えるのはやめとこうぜ。いつだって前を向くんだよ。クヨクヨしてたら夢なんて叶えられない」
「お前のそういうポジティブなとこ、たまにうらやましくなるぜ」

 二人はこうして歩き続け、街の北にある市場にやってきた。そこは多くの露天商が店を出しているところで、粗悪なペーパー・ナイフから高級な剣まで、いろいろな物があるのだ。二人はあちこちの店をのぞいて回る。そして、ある店にたどり着く。
 それは武器の店だった。木組みのその店には、剣や槍といった品々が並べられており、褐色肌の人間族の女性が店番をしている。女性はいわゆるナイス・バディであり、胸元が大きく開いた服を着ている。リッチーは彼女に話しかける。

「すんません、どーも……」
「あら、いらっしゃい……」

 女は愛想笑いを浮かべる。リッチーの視線が女の胸元にいく、彼は少し赤面し、そこから視線をそらそうと努力しながら喋る。

「あの、すんません、俺たち武器を探してんだけど」
「武器? あなたたち、冒険者?」
「あっ、あぁ、そうです……」

 女はケラケラと笑い始める。

「へぇ、その年で冒険者? いいねぇ、そういうの」

 何やらドギマギしている様子のリッチーにかわり、ギンが話をする。

「それで、商品ですけど。何かありませんか?」
「何が欲しいの?」
「とりあえず剣を見せてください。両手で使うタイプを」
「両手ねぇ……」

 女はしばし考え込む。大きな胸、やはりギンの視線もそこに行ってしまう。彼は体が少し興奮するのを感じる、思考がぼぅっとなる。やがて女が口を開く。

「予算はいくら?」
「2万5千、もうちょっと頑張って3万です」
「3万! お兄さん、なかなかお金持ちじゃない。どうしたの、そんなに?」
「はい、この前の冒険でかなり儲かって……」
「若いのに強いんだねぇ。あたし、そういうの好きかも。で、両手剣だっけ? じゃあちょっと、そこに立っててね。魔法で取り出すから」

 女は店の外に出て、ギンたちの前に立ち、アポートの魔法を使う。地面の上に光の球が出現し、上下に伸び、そして消え去る。光球が消えた後に残されたのは一本の両手剣、皮の鞘に納められているいるそれは、なかなかの品に見える。ギンは言う。

「これ、ちょっと抜いてみてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」

 彼は剣を手に取り、抜こうとする。重そうな見た目に似合わず軽いそれは、やすやすと鞘から出てくる。

「へぇ、すごいな」
「刃とかはどう?」
「はい……」

 ギンは剣の各部を調べる。多少の傷や汚れがあるものの、全体としては大きな問題がなく、まずまずの品に思える。

「これ……いくらですか?」
「本当は3万2000なんだけどね。お兄さんカッコいいし、特別に3万にしようかな」
「3万……」

 女はギンに近づき、胸を強調するようなポーズを取りながら話しかける。

「いい剣だよ? ねぇ、買ってよ?」

 女の目とギンの目があう。女の美しい茶色の瞳、それはまるで、美術品のよう。ギンの視線が女の瞳に吸い込まれる、もはや逃げられない。ギンの視界に女の胸が映る。谷間。すべすべした滑らかそうな肌。乳房の先端は服に隠されているが、そこに何があるのか、ギンの想像力はそれについて考え始める。女の声。

「ねぇ、買っちゃいなよ?」

 数分後、ギンは3万マーと引き換えにその剣を手に入れた。今、ギンとリッチーは宿への帰り道を歩いている。ギン。

「いやぁーこれ、いいよね。いいよね」
「あぁ、いいと思うぜ」
「あの人、すごく良かったよね」
「すげぇよな。うん、すげぇ」
「すごいよ」
「あの、バイーンとしてさ……」
「うん。分かる分かる」
「分かるよな?」
「分かるよ」

 少年たちはその後も、その女の話で盛り上がりながら歩き続けた。宿に帰ってからも盛り上がり続け、ついでに、恥ずかしいところも盛り上がらせてしまった。



 男を殺そうと思ったら、剣も魔法も必要ない。
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