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第1部 すべては経験
第15話-3 いつか、きっと/Everything's Gonna Be All Right
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人型は魔法を放つ。魔法の光線がキャンディスに向かって飛び、命中する。
その瞬間。さざ波のローブがうっすらと青く光り、守りの魔法力を展開した。人型の魔法が無効化され、光線が砕け散って消滅する。それを見た人型が笑いをやめる。
「ケタ?」
人型はもう一度、魔法を放つ。命中、ローブが光る、魔法が無効化される。
「ケタッ……」
人型の顔から笑いが消える。同時に、キャンディスは少し落ち着きを取り戻す。
「これは……ローブの力!?」
さざ波のローブには、体や心の異常を予防する力が備わっている。今、その力が発動し、キャンディスを守ったのだ。
「ケタッ! ケタケタッ!」
人型は怒ったような声を出している。自慢の魔法を無効化されて、腹が立ったのだろうか? キャンディスは人型をにらむ。そして言い捨てる。
「この、けだもの……!」
キャンディスは怒りを感じる。彼女の視界には、壊れたようになっている仲間たちの姿が映っている。地面にへたりこみ、震えながら過呼吸になっているリッチー。吐くものなど何もないのに吐こうとし続けるギン。よだれをダラダラ流し続けながら呆けているレーヴ。
キャンディスの感情は考える、どうすれば目の前の化け物に報復できるかを。しかし、彼女の理性は冷たく言う。「逃げろ、戦えば殺される」。脳内を駆け巡る二つの思考、キャンディスはそのうちの一つを選択する。
「いまいましいけれど……!」
彼女は、肩から下げている冒険者用バッグに手を入れ、一つのアイテムを取り出す。それは、亀甲型をした、細長くて赤い水晶。彼女はそれに魔法力を送りんでから、素早く空宙に投げる。水晶が砕け、自身に秘められた魔法の力を解放する。
キャンディスと彼女の仲間たちは、水晶からの魔法力に包まれる。直後、魔法が発動、彼女たちはダンジョンの外へと脱出する。
それからのことは大騒ぎだった。まず、キャンディスたちは病院に収容され、高額な医療費と引き換えに治療を受けた。その後、キャンディスは収容されたその日のうちに回復し、宿へ帰ることを許された。続いて、レーヴは数日で回復し、退院した。残るはギンとリッチーだが、この二人は一週間以上も寝込むハメになった。
今、キャンディスとレーヴは、お見舞いの品が入った袋を手にしながらその病院へ向かっている。道をゆっくりと歩きながらレーヴが言う。
「あたしたち、ボロ負けしちゃったね……」
「はい……」
「まだまだ未熟だった、ってことなのかなぁ……。悪い連中に騙されてさ、変なもの買っちゃってさ。そのせいで死にかけてさ」
「後で調べたのですが、あれはブレイン・シェイカー(brain shaker)といって、心や体の調子を狂わせる魔法が得意なのだそうです」
「ブレイン・シェイカー……」
「魔法で人を壊し、苦しむところを見て楽しむ。まったく、下品な話です」
キャンディスは少し怒ったような感じのため息をつく。それから話を続ける。
「シェイカーの魔法は、きちんと注意していれば防げるそうなんですが……」
「あの時はそんなこと分からなかったもんね。油断しちゃった」
「はい」
「そういえば、カールさんが言ってたよね。相手をよく知らないまま戦えば、最悪、命を落とす」
「えぇ、そうです」
二人は道の角を曲がる。ここから病院まではあと少し。キャンディスが口を開く。
「私たち、調子に乗り過ぎましたよ。カールさんに助けてもらってようやくレベル3になったのに、もう一人前になったみたいに思い込んでしまって」
「ホント、あたしたちってバカだよね。失敗ばっかでさ」
「でも、こういう言葉がありますよ。失敗を経験して、人は強くなる」
「じゃあ、あたしたち、今回のことで強くなれたのかな?」
「私はそう思います」
「そっかぁ……」
二人は病院の門の前に着く。この門から中に入ると広い空間があり、そこから右へ少し歩いた先に入院病棟がある。二人は歩き出す。
歩きながらレーヴが言う。
「あたしさ、カールさんに会えてよかったって思ってるんだ」
「それは、なぜですか?」
「だって、あの人って、親切っていうか、頼りがいあるじゃん? 人生の先輩って感じでさ。いろいろ詳しいし……」
「はい」
「あの人が教えてくれたこと、一つずつ学んでいけば、きっとあの人みたいなすごい冒険者になれる。あたし、そう思うんだ。だからさ……」
レーヴは立ち止まり、キャンディスを見て、笑顔になりながら言う。
「だからさ。しばらくの間は、焦らずゆっくり、自分たちのペースで頑張ろうよ」
「はい」
「次にあの人に会った時、胸を張って「もう一人前です!」って言えるように。少しずつでいいから、強くなっていこうよ」
「はい!」
「やった。意見、一致したね!」
レーヴとキャンディスは、顔を合わせて笑う。キャンディスは言う。
「私、なんとなく予感がするんです。このローブを着ていれば、いつかまた、あの人に会える……」
「女の勘って奴?」
「そうかもしれません。私、その日が来るまで、これを大事にしていくつもりです」
「いいじゃん、いいじゃん、そういうの。あ~、なんかキャンディスがうらやましくなってきた」
「それは、なぜです?」
「だって、ローブを着てるって、直接カールさんに守ってもらってるってことじゃん。なんかそれ、彼氏に守ってもらってるみたい」
「か、彼氏って!」
キャンディスの顔が赤くなる。レーヴはそれを見て笑う。
いつの日か、ギンたちの物語が再開されることを願って。ひとまず、終わり。
その瞬間。さざ波のローブがうっすらと青く光り、守りの魔法力を展開した。人型の魔法が無効化され、光線が砕け散って消滅する。それを見た人型が笑いをやめる。
「ケタ?」
人型はもう一度、魔法を放つ。命中、ローブが光る、魔法が無効化される。
「ケタッ……」
人型の顔から笑いが消える。同時に、キャンディスは少し落ち着きを取り戻す。
「これは……ローブの力!?」
さざ波のローブには、体や心の異常を予防する力が備わっている。今、その力が発動し、キャンディスを守ったのだ。
「ケタッ! ケタケタッ!」
人型は怒ったような声を出している。自慢の魔法を無効化されて、腹が立ったのだろうか? キャンディスは人型をにらむ。そして言い捨てる。
「この、けだもの……!」
キャンディスは怒りを感じる。彼女の視界には、壊れたようになっている仲間たちの姿が映っている。地面にへたりこみ、震えながら過呼吸になっているリッチー。吐くものなど何もないのに吐こうとし続けるギン。よだれをダラダラ流し続けながら呆けているレーヴ。
キャンディスの感情は考える、どうすれば目の前の化け物に報復できるかを。しかし、彼女の理性は冷たく言う。「逃げろ、戦えば殺される」。脳内を駆け巡る二つの思考、キャンディスはそのうちの一つを選択する。
「いまいましいけれど……!」
彼女は、肩から下げている冒険者用バッグに手を入れ、一つのアイテムを取り出す。それは、亀甲型をした、細長くて赤い水晶。彼女はそれに魔法力を送りんでから、素早く空宙に投げる。水晶が砕け、自身に秘められた魔法の力を解放する。
キャンディスと彼女の仲間たちは、水晶からの魔法力に包まれる。直後、魔法が発動、彼女たちはダンジョンの外へと脱出する。
それからのことは大騒ぎだった。まず、キャンディスたちは病院に収容され、高額な医療費と引き換えに治療を受けた。その後、キャンディスは収容されたその日のうちに回復し、宿へ帰ることを許された。続いて、レーヴは数日で回復し、退院した。残るはギンとリッチーだが、この二人は一週間以上も寝込むハメになった。
今、キャンディスとレーヴは、お見舞いの品が入った袋を手にしながらその病院へ向かっている。道をゆっくりと歩きながらレーヴが言う。
「あたしたち、ボロ負けしちゃったね……」
「はい……」
「まだまだ未熟だった、ってことなのかなぁ……。悪い連中に騙されてさ、変なもの買っちゃってさ。そのせいで死にかけてさ」
「後で調べたのですが、あれはブレイン・シェイカー(brain shaker)といって、心や体の調子を狂わせる魔法が得意なのだそうです」
「ブレイン・シェイカー……」
「魔法で人を壊し、苦しむところを見て楽しむ。まったく、下品な話です」
キャンディスは少し怒ったような感じのため息をつく。それから話を続ける。
「シェイカーの魔法は、きちんと注意していれば防げるそうなんですが……」
「あの時はそんなこと分からなかったもんね。油断しちゃった」
「はい」
「そういえば、カールさんが言ってたよね。相手をよく知らないまま戦えば、最悪、命を落とす」
「えぇ、そうです」
二人は道の角を曲がる。ここから病院まではあと少し。キャンディスが口を開く。
「私たち、調子に乗り過ぎましたよ。カールさんに助けてもらってようやくレベル3になったのに、もう一人前になったみたいに思い込んでしまって」
「ホント、あたしたちってバカだよね。失敗ばっかでさ」
「でも、こういう言葉がありますよ。失敗を経験して、人は強くなる」
「じゃあ、あたしたち、今回のことで強くなれたのかな?」
「私はそう思います」
「そっかぁ……」
二人は病院の門の前に着く。この門から中に入ると広い空間があり、そこから右へ少し歩いた先に入院病棟がある。二人は歩き出す。
歩きながらレーヴが言う。
「あたしさ、カールさんに会えてよかったって思ってるんだ」
「それは、なぜですか?」
「だって、あの人って、親切っていうか、頼りがいあるじゃん? 人生の先輩って感じでさ。いろいろ詳しいし……」
「はい」
「あの人が教えてくれたこと、一つずつ学んでいけば、きっとあの人みたいなすごい冒険者になれる。あたし、そう思うんだ。だからさ……」
レーヴは立ち止まり、キャンディスを見て、笑顔になりながら言う。
「だからさ。しばらくの間は、焦らずゆっくり、自分たちのペースで頑張ろうよ」
「はい」
「次にあの人に会った時、胸を張って「もう一人前です!」って言えるように。少しずつでいいから、強くなっていこうよ」
「はい!」
「やった。意見、一致したね!」
レーヴとキャンディスは、顔を合わせて笑う。キャンディスは言う。
「私、なんとなく予感がするんです。このローブを着ていれば、いつかまた、あの人に会える……」
「女の勘って奴?」
「そうかもしれません。私、その日が来るまで、これを大事にしていくつもりです」
「いいじゃん、いいじゃん、そういうの。あ~、なんかキャンディスがうらやましくなってきた」
「それは、なぜです?」
「だって、ローブを着てるって、直接カールさんに守ってもらってるってことじゃん。なんかそれ、彼氏に守ってもらってるみたい」
「か、彼氏って!」
キャンディスの顔が赤くなる。レーヴはそれを見て笑う。
いつの日か、ギンたちの物語が再開されることを願って。ひとまず、終わり。
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