迷宮の中の青春 -Soldiers of Fortune-

夏野かろ

文字の大きさ
31 / 55
第1部 すべては経験

第15話-3 いつか、きっと/Everything's Gonna Be All Right

しおりを挟む
 人型は魔法を放つ。魔法の光線がキャンディスに向かって飛び、命中する。
 その瞬間。さざ波のローブがうっすらと青く光り、守りの魔法力を展開した。人型の魔法が無効化され、光線が砕け散って消滅する。それを見た人型が笑いをやめる。

「ケタ?」

 人型はもう一度、魔法を放つ。命中、ローブが光る、魔法が無効化される。

「ケタッ……」

 人型の顔から笑いが消える。同時に、キャンディスは少し落ち着きを取り戻す。

「これは……ローブの力!?」

 さざ波のローブには、体や心の異常を予防する力が備わっている。今、その力が発動し、キャンディスを守ったのだ。

「ケタッ! ケタケタッ!」

 人型は怒ったような声を出している。自慢の魔法を無効化されて、腹が立ったのだろうか? キャンディスは人型をにらむ。そして言い捨てる。

「この、けだもの……!」

 キャンディスは怒りを感じる。彼女の視界には、壊れたようになっている仲間たちの姿が映っている。地面にへたりこみ、震えながら過呼吸になっているリッチー。吐くものなど何もないのに吐こうとし続けるギン。よだれをダラダラ流し続けながら呆けているレーヴ。
 キャンディスの感情は考える、どうすれば目の前の化け物に報復できるかを。しかし、彼女の理性は冷たく言う。「逃げろ、戦えば殺される」。脳内を駆け巡る二つの思考、キャンディスはそのうちの一つを選択する。

「いまいましいけれど……!」

 彼女は、肩から下げている冒険者用バッグに手を入れ、一つのアイテムを取り出す。それは、亀甲型をした、細長くて赤い水晶。彼女はそれに魔法力を送りんでから、素早く空宙に投げる。水晶が砕け、自身に秘められた魔法の力を解放する。
 キャンディスと彼女の仲間たちは、水晶からの魔法力に包まれる。直後、魔法が発動、彼女たちはダンジョンの外へと脱出する。



 それからのことは大騒ぎだった。まず、キャンディスたちは病院に収容され、高額な医療費と引き換えに治療を受けた。その後、キャンディスは収容されたその日のうちに回復し、宿へ帰ることを許された。続いて、レーヴは数日で回復し、退院した。残るはギンとリッチーだが、この二人は一週間以上も寝込むハメになった。
 今、キャンディスとレーヴは、お見舞いの品が入った袋を手にしながらその病院へ向かっている。道をゆっくりと歩きながらレーヴが言う。

「あたしたち、ボロ負けしちゃったね……」
「はい……」
「まだまだ未熟だった、ってことなのかなぁ……。悪い連中に騙されてさ、変なもの買っちゃってさ。そのせいで死にかけてさ」
「後で調べたのですが、あれはブレイン・シェイカー(brain shaker)といって、心や体の調子を狂わせる魔法が得意なのだそうです」
「ブレイン・シェイカー……」
「魔法で人を壊し、苦しむところを見て楽しむ。まったく、下品な話です」

 キャンディスは少し怒ったような感じのため息をつく。それから話を続ける。

「シェイカーの魔法は、きちんと注意していれば防げるそうなんですが……」
「あの時はそんなこと分からなかったもんね。油断しちゃった」
「はい」
「そういえば、カールさんが言ってたよね。相手をよく知らないまま戦えば、最悪、命を落とす」
「えぇ、そうです」

 二人は道の角を曲がる。ここから病院まではあと少し。キャンディスが口を開く。

「私たち、調子に乗り過ぎましたよ。カールさんに助けてもらってようやくレベル3になったのに、もう一人前になったみたいに思い込んでしまって」
「ホント、あたしたちってバカだよね。失敗ばっかでさ」
「でも、こういう言葉がありますよ。失敗を経験して、人は強くなる」
「じゃあ、あたしたち、今回のことで強くなれたのかな?」
「私はそう思います」
「そっかぁ……」

 二人は病院の門の前に着く。この門から中に入ると広い空間があり、そこから右へ少し歩いた先に入院病棟がある。二人は歩き出す。
 歩きながらレーヴが言う。

「あたしさ、カールさんに会えてよかったって思ってるんだ」
「それは、なぜですか?」
「だって、あの人って、親切っていうか、頼りがいあるじゃん? 人生の先輩って感じでさ。いろいろ詳しいし……」
「はい」
「あの人が教えてくれたこと、一つずつ学んでいけば、きっとあの人みたいなすごい冒険者になれる。あたし、そう思うんだ。だからさ……」

 レーヴは立ち止まり、キャンディスを見て、笑顔になりながら言う。

「だからさ。しばらくの間は、焦らずゆっくり、自分たちのペースで頑張ろうよ」
「はい」
「次にあの人に会った時、胸を張って「もう一人前です!」って言えるように。少しずつでいいから、強くなっていこうよ」
「はい!」
「やった。意見、一致したね!」

 レーヴとキャンディスは、顔を合わせて笑う。キャンディスは言う。

「私、なんとなく予感がするんです。このローブを着ていれば、いつかまた、あの人に会える……」
「女の勘って奴?」
「そうかもしれません。私、その日が来るまで、これを大事にしていくつもりです」
「いいじゃん、いいじゃん、そういうの。あ~、なんかキャンディスがうらやましくなってきた」
「それは、なぜです?」
「だって、ローブを着てるって、直接カールさんに守ってもらってるってことじゃん。なんかそれ、彼氏に守ってもらってるみたい」
「か、彼氏って!」

 キャンディスの顔が赤くなる。レーヴはそれを見て笑う。



 いつの日か、ギンたちの物語が再開されることを願って。ひとまず、終わり。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...