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第3章 七寺英太の革命日記
第64話 新たな人生の始まり Pied pipers
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女と共にジョイントを出た俺は、十分ほど夜道を歩き、ボロそうな雑居ビルに着く。
中に入ると安ホテルのようになっていて、受付にいる若い男が声をかけてくる。
「お疲れ様です、マロンさん」
「お疲れ。ねぇ、地下って空いてる?」
「そりゃぁ空いてますけど……。あの、そちらの男性は?」
「ちょっと訳ありでね。だからこそ地下を使いたいたいんだけど」
「でも、ヤマさんの許可が……」
「もう取ってあるから」
「わかりました。じゃあすぐ手配します」
「よろしく」
いったいなんだ? 夜のお店にしちゃ、話の流れが不自然だ。しかし疑問を発する暇もなく、部屋の奥のエレベーターにカゴが到着する。
女が言う。
「それじゃあ行きましょ。先、行って」
なんとも不安な展開だが、ここまで来て女に逆らえるはずもない。俺はカゴに乗りこみ、覚悟を決める。
煮るなり焼くなり好きにすればいいさ。
地下フロアに案内され、一室に入った俺は、その異様な光景に驚く。
「なんだこりゃ?」
ボロい家具が置いてあるだけの応接間、なのに立派な日本国旗が壁に飾られている。場違い過ぎるぜ。
そして国旗の他にも不思議なものがある。壁に掛けられた、何枚かの顔写真がそれだ。いったい誰のものなんだろう、そんな疑問を察したかのように女が言う。
「君、ひょっとしてこういうの初めて?」
「まぁ……」
「この男の名前はエルネスト・ゲバラ、またの名をチェ・ゲバラ。横にある写真はフィデル・カストロで、ゲバラの盟友」
「何をした奴らなんだ?」
「ふふ……。革命」
女はニヤッと笑い、「ちょっと準備してくるから待ってて」と言い残し、部屋を出ていく。
俺はとりあえずソファに座り、この場所の正体を考えてみる。最初は暴力団とかマフィアの事務所と思っていたが、どうも違うらしい。
だったら何だ? さっぱり見当がつかない。うんうんうなって考えていると、ドアが開き、さっきの女と共に一人の男が入ってくる。彼は陽気に言う。
「おう、こんばんは! とりあえず楽にしてくれや、別にケンカしようってわけじゃねぇからよ!」
男は俺の対面にあるソファに腰を下ろし、横に女が座る。男の話が始まる。
「俺の名前はよ、ヤマってんだ。兄ちゃんは?」
「七寺英太です」
「七寺か! いい名前だな!」
「どうも」
「こっちのねーちゃんはマロンってんだ! よろしくな!」
「よろしくお願いします」
「おう、よろしく!」
なんだコイツ。強引というか、なんというか……。
「どうした、七寺くん?」
「ちょっと面食らっちゃって……」
「はは、すまねぇ! まぁそれはともかく、本題に入るけどね。君、闇崎(やみざき)とケンカしたんだって?」
「すみません、闇崎っていったい……」
「君がジョイントで殴ったあいつだよ。彼はこのへんの不良グループのリーダーでね」
「確かに殴りましたけど、手を出したのは向こうが先ですよ」
「言いたいことは分かるけど、このまま無罪放免ってわけにはいかないって。
あいつの立場からしてみれば、みんなが見てる前で派手にボコられて、プライドはズタズタ。ブチギレだよ」
俺は冷たく言い放つ。
「自業自得です」
「そりゃあそうだけどさ。でも君、これからが大変だぜ?
だって闇崎がその気になりゃ、子分たちを総動員して君を見つけて、そしたらいくらでも復讐できるよね?」
「……何が言いたいんです? 脅しですか」
「いやいや。そういうわけじゃないよ」
「じゃあなんですか」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて。俺は脅迫とかじゃなく、ちょっとした取引を提案したいんだ」
「取引?」
「そう。単刀直入に聞くけど、君、革命って興味ある?」
はぁ? 革命?
「あの、革命ってどういう……」
「簡単さ! LMに支配された、今の腐った監視社会をぶっ壊し、自由あふれる新たな社会を築き上げる!」
「すいません、それすっごくやばくないですか?」
「もちろん! だが怯える必要は無い、なぜだと思う? それはね、ここは日本革命解放軍のアジトだからだよ!」
「……はぁ!?」
驚くと同時に合点がいく。なるほど、日本国旗だのゲバラだの、革命軍のアジトにはうってつけだ。
しかし腑に落ちない点もいくつかある。
「ヤマさん、質問していいですか。日本革命解放軍って、ニュースの言葉でいうならテロリスト集団ですよね?」
「イエス。だが、あんなのは単なる悪口だ。LMからすりゃあ俺たちは敵なんだからよ、メディアを使って俺らをこき下ろすのは当たり前だろ?」
「……そういえば証拠は? ヤマさんたちが革命軍の人間だという証拠です」
「そこは信じてもらうしかねぇな。あえて言うなら、こういう過激なことを真顔で言えるって事実が証拠だな。
で、答えは? イエスか、ノーか」
こいつはまさしく重大な局面。よく考えろ、俺。そしてベストな選択をするんだ。とりあえず向こうの出方を探ってみよう。
「ひとつ聞きたいんですが、もし返事がイエスだったら……」
「俺が闇崎とかけあって、君に復讐しないよう説得する」
「じゃあノーだったら?」
「残念だが、安全を保障することはできないな。君自身の力でトラブルを片づけてくれ」
クソッ、結局は脅迫じゃねぇか。こんな状況でノーを言えるわけがない。
だったら腹をくくるとしよう。それに、どうせ行くアテも仕事も無いんだ。このまま革命家になるものも悪くねぇ。
「わかりました。ヤマさん、じゃあ俺、メンバーになります。よろしくお願いします」
「そう言ってくれると思ってた! じゃあ改めてよろしく! 七寺くん!」
ヤマさんの右手が俺に差し出される。俺も同じように自分の右手を差し出し、強く握手する。
人生もう終わりかと思っていたが、こんな形で開けてくるなんてな。よし! 今日から俺は、革命家だ!
中に入ると安ホテルのようになっていて、受付にいる若い男が声をかけてくる。
「お疲れ様です、マロンさん」
「お疲れ。ねぇ、地下って空いてる?」
「そりゃぁ空いてますけど……。あの、そちらの男性は?」
「ちょっと訳ありでね。だからこそ地下を使いたいたいんだけど」
「でも、ヤマさんの許可が……」
「もう取ってあるから」
「わかりました。じゃあすぐ手配します」
「よろしく」
いったいなんだ? 夜のお店にしちゃ、話の流れが不自然だ。しかし疑問を発する暇もなく、部屋の奥のエレベーターにカゴが到着する。
女が言う。
「それじゃあ行きましょ。先、行って」
なんとも不安な展開だが、ここまで来て女に逆らえるはずもない。俺はカゴに乗りこみ、覚悟を決める。
煮るなり焼くなり好きにすればいいさ。
地下フロアに案内され、一室に入った俺は、その異様な光景に驚く。
「なんだこりゃ?」
ボロい家具が置いてあるだけの応接間、なのに立派な日本国旗が壁に飾られている。場違い過ぎるぜ。
そして国旗の他にも不思議なものがある。壁に掛けられた、何枚かの顔写真がそれだ。いったい誰のものなんだろう、そんな疑問を察したかのように女が言う。
「君、ひょっとしてこういうの初めて?」
「まぁ……」
「この男の名前はエルネスト・ゲバラ、またの名をチェ・ゲバラ。横にある写真はフィデル・カストロで、ゲバラの盟友」
「何をした奴らなんだ?」
「ふふ……。革命」
女はニヤッと笑い、「ちょっと準備してくるから待ってて」と言い残し、部屋を出ていく。
俺はとりあえずソファに座り、この場所の正体を考えてみる。最初は暴力団とかマフィアの事務所と思っていたが、どうも違うらしい。
だったら何だ? さっぱり見当がつかない。うんうんうなって考えていると、ドアが開き、さっきの女と共に一人の男が入ってくる。彼は陽気に言う。
「おう、こんばんは! とりあえず楽にしてくれや、別にケンカしようってわけじゃねぇからよ!」
男は俺の対面にあるソファに腰を下ろし、横に女が座る。男の話が始まる。
「俺の名前はよ、ヤマってんだ。兄ちゃんは?」
「七寺英太です」
「七寺か! いい名前だな!」
「どうも」
「こっちのねーちゃんはマロンってんだ! よろしくな!」
「よろしくお願いします」
「おう、よろしく!」
なんだコイツ。強引というか、なんというか……。
「どうした、七寺くん?」
「ちょっと面食らっちゃって……」
「はは、すまねぇ! まぁそれはともかく、本題に入るけどね。君、闇崎(やみざき)とケンカしたんだって?」
「すみません、闇崎っていったい……」
「君がジョイントで殴ったあいつだよ。彼はこのへんの不良グループのリーダーでね」
「確かに殴りましたけど、手を出したのは向こうが先ですよ」
「言いたいことは分かるけど、このまま無罪放免ってわけにはいかないって。
あいつの立場からしてみれば、みんなが見てる前で派手にボコられて、プライドはズタズタ。ブチギレだよ」
俺は冷たく言い放つ。
「自業自得です」
「そりゃあそうだけどさ。でも君、これからが大変だぜ?
だって闇崎がその気になりゃ、子分たちを総動員して君を見つけて、そしたらいくらでも復讐できるよね?」
「……何が言いたいんです? 脅しですか」
「いやいや。そういうわけじゃないよ」
「じゃあなんですか」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて。俺は脅迫とかじゃなく、ちょっとした取引を提案したいんだ」
「取引?」
「そう。単刀直入に聞くけど、君、革命って興味ある?」
はぁ? 革命?
「あの、革命ってどういう……」
「簡単さ! LMに支配された、今の腐った監視社会をぶっ壊し、自由あふれる新たな社会を築き上げる!」
「すいません、それすっごくやばくないですか?」
「もちろん! だが怯える必要は無い、なぜだと思う? それはね、ここは日本革命解放軍のアジトだからだよ!」
「……はぁ!?」
驚くと同時に合点がいく。なるほど、日本国旗だのゲバラだの、革命軍のアジトにはうってつけだ。
しかし腑に落ちない点もいくつかある。
「ヤマさん、質問していいですか。日本革命解放軍って、ニュースの言葉でいうならテロリスト集団ですよね?」
「イエス。だが、あんなのは単なる悪口だ。LMからすりゃあ俺たちは敵なんだからよ、メディアを使って俺らをこき下ろすのは当たり前だろ?」
「……そういえば証拠は? ヤマさんたちが革命軍の人間だという証拠です」
「そこは信じてもらうしかねぇな。あえて言うなら、こういう過激なことを真顔で言えるって事実が証拠だな。
で、答えは? イエスか、ノーか」
こいつはまさしく重大な局面。よく考えろ、俺。そしてベストな選択をするんだ。とりあえず向こうの出方を探ってみよう。
「ひとつ聞きたいんですが、もし返事がイエスだったら……」
「俺が闇崎とかけあって、君に復讐しないよう説得する」
「じゃあノーだったら?」
「残念だが、安全を保障することはできないな。君自身の力でトラブルを片づけてくれ」
クソッ、結局は脅迫じゃねぇか。こんな状況でノーを言えるわけがない。
だったら腹をくくるとしよう。それに、どうせ行くアテも仕事も無いんだ。このまま革命家になるものも悪くねぇ。
「わかりました。ヤマさん、じゃあ俺、メンバーになります。よろしくお願いします」
「そう言ってくれると思ってた! じゃあ改めてよろしく! 七寺くん!」
ヤマさんの右手が俺に差し出される。俺も同じように自分の右手を差し出し、強く握手する。
人生もう終わりかと思っていたが、こんな形で開けてくるなんてな。よし! 今日から俺は、革命家だ!
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