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第3章 七寺英太の革命日記
第63話 正真正銘のワンダラー Strange woman
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現実世界。俺はベッドでボンヤリしている。窓から差しこむ陽がまぶしい……。
今はいったい何時だ? 知りたいならスマホの時計を見ればいいが、とてもそんな気になれない。
見れば昨日の敗北を思い出すだろう。あの最低最悪の敗北を。せっかくピンク髪たちにやり返したのに、意味不明な援軍が来て、逆に全滅させられた。
うんざりした俺はログアウトしてふて寝して、そして今に至るわけだが、まだ頭が混乱してる。情報を整理しよう。
俺を殺したあの男は誰だ? まったく見当がつかないが、おそらく、俺が昔いびったザコどもの一人だろう。
そして想像するに、あいつは絶滅作戦のチャンスに乗じて復讐に来たわけだ。そして見事に完遂した。ちくしょう。
疲れた声で俺はつぶやく。
「報いってやつか……」
もし今後もプラネットを遊び続けるなら、ああしてまた復讐されるに決まってる。そんなのは嫌だ。
じゃあもう引退しよう。何もかも投げ出しておさらばだ。勝ち取った王者の地位も捨ててしまえ。
そう思ったら、なぜか悲しみがこみあげてきて、涙が静かに流れだす。
負けるのがこんなに痛いなんて。
プラネットをやめた今、家でやることなんて無い。せめて少しでも気晴らしを、そう思って昼間の街に出かけてうろつく。
今ごろ俺の同僚だった奴らは、せっせと仕事に励んでるだろう、かつての俺がそうだったように。
仕事。仕事か。預金口座も残り少ないし、そろそろ何かに就かなくちゃ。だが社会は俺を受け入れてくれるのか? 暴力事件を起こしたこの俺を。
ま、どう考えても絶望的だな。俺に残された未来は、LMの手先に捕まって強制労働、ただそれだけ。
こうして現実世界でもワンダラー(wanderer)、さ迷い人になった俺は、これからどうすればいいんだ?
くそっ……。
深夜、下民地区のどこか、いわゆるジャンク・ジョイント。俺は今、そこのカウンター席で酒を飲んでいる。
グビッと煽ってコップを置き、スマホを取り出す。脳波操作でブラウザを立ち上げ、いろんな掲示板やニュース・サイトを見て回る。
面白いネタなんてない。仕事のアテも。本当にどうすればいいんだ? すると、誰かが背中から声をかけてくる。
「よう、見ねえ顔だな?」
振り向く。金髪ロン毛の若い男、おそらく日本人だ。下品なタトゥーを両腕に彫りやがって、いかにも不良だな。
横には背の低い日本人の男ひとりがいる。ロン毛の舎弟だろう。今度はそいつが俺に言う。
「そこは兄貴のお気に入りの席なんだ。どいてくれよ」
「知るかよそんなの。先に座ったのは俺だ」
「てめぇ何様のつもりだ? 兄貴のこと知らねぇな? もし知ってたら、そんな口たたけねぇもんな」
「うるっせぇな……」
「早くどけって。兄貴の席だ」
「俺が座ってんだ、俺の席だ」
「兄貴ぃ、どうします?」
「しょうがねぇな……」
ロン毛が右手を握り拳にしながら近づいてくる。ケンカしようってか。面白れぇ。
席から立って迎撃態勢をとる。こっちから仕掛けるな、わざと相手に先に打たせてガードし、正当防衛の理由を作ってから反撃するんだ。
空手キングのこの俺が、こんな素人に負けるわけがない。俺は静かに時を待ち続ける。
ロン毛が近づいてくる……。3、2、1、きた!
「どけって言ってんだろうが!」
奴のパンチを受け流し、カウンター・パンチを放つ。敵の鼻を強打して骨をへし折る。
うめき声があがる。「ぐあっ……!」。ロン毛の鼻から血が流れだす。
これで容赦するものか。人をナメたツケを払わさせてやる。
俺は間合いをつめてロン毛の胸倉をつかみ、頭突きを入れ、さらに殴る。場内がざわめき始める。
「なんだ!」「ケンカだ!」「誰か止めろ!」「やっちまえ!」「マスター、ちょっと!」「おい、やめろ!」「いいぞ、やれやれ!」「警察を呼べ!」「ヒャッホー!」
いいねぇ、盛り上がってきた! 俺は興奮し、夢中で殴り続ける。
二発、三発、四発。そして五発目を入れようとした時、誰かが俺の横に来て、女の声で話しかけてくる。
「ねぇ、あんた。もう勘弁してやったら?」
戦いをいったん止め、女を見る。袖なしの赤いブラウスに黒のレザー・パンツ。スパイ映画のヒロインみたいだ。女はさらに話しかけてくる。
「この場はあたしが取り持つから、とりあえずそいつを離してやってよ。で、ちょっと付き合ってくんない?
だってこんなに騒がれちゃ、あたしのメンツが丸つぶれなんだよね……」
直感がささやく。おそらくこの女は武器を隠し持っている、従わなければひどい目に合う。
しこたま殴ってスッキリしたことだしな。おとなしくするのが吉だろう。
「いいぜ。それじゃ、すまねぇがよろしく頼む」
壊れた人形みたいになったロン毛の体を床に放り投げ、騒ぎを終わらせる。
さて……どうなっていくのやら。
今はいったい何時だ? 知りたいならスマホの時計を見ればいいが、とてもそんな気になれない。
見れば昨日の敗北を思い出すだろう。あの最低最悪の敗北を。せっかくピンク髪たちにやり返したのに、意味不明な援軍が来て、逆に全滅させられた。
うんざりした俺はログアウトしてふて寝して、そして今に至るわけだが、まだ頭が混乱してる。情報を整理しよう。
俺を殺したあの男は誰だ? まったく見当がつかないが、おそらく、俺が昔いびったザコどもの一人だろう。
そして想像するに、あいつは絶滅作戦のチャンスに乗じて復讐に来たわけだ。そして見事に完遂した。ちくしょう。
疲れた声で俺はつぶやく。
「報いってやつか……」
もし今後もプラネットを遊び続けるなら、ああしてまた復讐されるに決まってる。そんなのは嫌だ。
じゃあもう引退しよう。何もかも投げ出しておさらばだ。勝ち取った王者の地位も捨ててしまえ。
そう思ったら、なぜか悲しみがこみあげてきて、涙が静かに流れだす。
負けるのがこんなに痛いなんて。
プラネットをやめた今、家でやることなんて無い。せめて少しでも気晴らしを、そう思って昼間の街に出かけてうろつく。
今ごろ俺の同僚だった奴らは、せっせと仕事に励んでるだろう、かつての俺がそうだったように。
仕事。仕事か。預金口座も残り少ないし、そろそろ何かに就かなくちゃ。だが社会は俺を受け入れてくれるのか? 暴力事件を起こしたこの俺を。
ま、どう考えても絶望的だな。俺に残された未来は、LMの手先に捕まって強制労働、ただそれだけ。
こうして現実世界でもワンダラー(wanderer)、さ迷い人になった俺は、これからどうすればいいんだ?
くそっ……。
深夜、下民地区のどこか、いわゆるジャンク・ジョイント。俺は今、そこのカウンター席で酒を飲んでいる。
グビッと煽ってコップを置き、スマホを取り出す。脳波操作でブラウザを立ち上げ、いろんな掲示板やニュース・サイトを見て回る。
面白いネタなんてない。仕事のアテも。本当にどうすればいいんだ? すると、誰かが背中から声をかけてくる。
「よう、見ねえ顔だな?」
振り向く。金髪ロン毛の若い男、おそらく日本人だ。下品なタトゥーを両腕に彫りやがって、いかにも不良だな。
横には背の低い日本人の男ひとりがいる。ロン毛の舎弟だろう。今度はそいつが俺に言う。
「そこは兄貴のお気に入りの席なんだ。どいてくれよ」
「知るかよそんなの。先に座ったのは俺だ」
「てめぇ何様のつもりだ? 兄貴のこと知らねぇな? もし知ってたら、そんな口たたけねぇもんな」
「うるっせぇな……」
「早くどけって。兄貴の席だ」
「俺が座ってんだ、俺の席だ」
「兄貴ぃ、どうします?」
「しょうがねぇな……」
ロン毛が右手を握り拳にしながら近づいてくる。ケンカしようってか。面白れぇ。
席から立って迎撃態勢をとる。こっちから仕掛けるな、わざと相手に先に打たせてガードし、正当防衛の理由を作ってから反撃するんだ。
空手キングのこの俺が、こんな素人に負けるわけがない。俺は静かに時を待ち続ける。
ロン毛が近づいてくる……。3、2、1、きた!
「どけって言ってんだろうが!」
奴のパンチを受け流し、カウンター・パンチを放つ。敵の鼻を強打して骨をへし折る。
うめき声があがる。「ぐあっ……!」。ロン毛の鼻から血が流れだす。
これで容赦するものか。人をナメたツケを払わさせてやる。
俺は間合いをつめてロン毛の胸倉をつかみ、頭突きを入れ、さらに殴る。場内がざわめき始める。
「なんだ!」「ケンカだ!」「誰か止めろ!」「やっちまえ!」「マスター、ちょっと!」「おい、やめろ!」「いいぞ、やれやれ!」「警察を呼べ!」「ヒャッホー!」
いいねぇ、盛り上がってきた! 俺は興奮し、夢中で殴り続ける。
二発、三発、四発。そして五発目を入れようとした時、誰かが俺の横に来て、女の声で話しかけてくる。
「ねぇ、あんた。もう勘弁してやったら?」
戦いをいったん止め、女を見る。袖なしの赤いブラウスに黒のレザー・パンツ。スパイ映画のヒロインみたいだ。女はさらに話しかけてくる。
「この場はあたしが取り持つから、とりあえずそいつを離してやってよ。で、ちょっと付き合ってくんない?
だってこんなに騒がれちゃ、あたしのメンツが丸つぶれなんだよね……」
直感がささやく。おそらくこの女は武器を隠し持っている、従わなければひどい目に合う。
しこたま殴ってスッキリしたことだしな。おとなしくするのが吉だろう。
「いいぜ。それじゃ、すまねぇがよろしく頼む」
壊れた人形みたいになったロン毛の体を床に放り投げ、騒ぎを終わらせる。
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