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第3章 七寺英太の革命日記

第66話 国民安全保障特別委員会 Little Mother

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 まったくその通り! 革命が必要だ! 俺は深くうなずいて感心する。
 周囲に視線をやると、みんな俺と同じような顔だ。そりゃ、こんな腐敗を目の当りにしたら、誰だって義憤に駆られるよな。

 そんな俺たちの様子を見て、マロンさんは満足したらしい。口調を少し和らげて話し出す。

「さて、今度は別の話をしよう。そもそもLMとはなんだ? リトル・マザーとはなんだ?
 もちろんお前たちは知っているはずだ。LMとは愛称であり、ちゃんとした名前は”国民安全保障特別委員会”。
 そう、安全保障の名の通り、LMの任務は国民の安全を守ることだ。ところで、安全の反対とはなんだ? そこのお前、答えろ」

 マロンさんに当てられた男が言う。

「そりゃあ危険じゃないですか?」
「正解。危険と安全、これらはコインの裏と表のように背中合わせで存在する。
 そしてLMは主張するだろう? 今の世の中は危険がいっぱいで、それに立ち向かうには強力な治安維持組織、すなわちLMが必要なのだと……」

 ホワイトボードに新たな映像が投影される。いろんな新聞や雑誌の切り抜きだ。

「確かに、世の中にはいろんな危険が存在するな。犯罪、テロ、仮想敵国のスパイ、数えだしたらキリがない。
 この日本においても、秋葉原通り魔殺人、よど号ハイジャック、オウム真理教の地下鉄サリン、過去にこれだけの事件が起きている。
 それだけじゃない。学校で習ったことを思い出せ、第三次世界大戦の間、日本でどれだけのテロが起きた? どれほどの血が流された?
 なるほど、そう考えると、LMの言い分は肯定できる。しかし……」

 また映像が切り替わる。今度はLMのシンボル・マークを描いたイラストだ。

「しかし、戦争が終わって世の中が落ち着いてくると、LMの存在意義が問われるようになってきた。特に知識人が厳しく批判したな。

”今は平和な時代であり、通常の警察力で治安を守れる。だったら、人権を侵害してでも治安維持をやるような、そんな組織はもう要らない”

 だからLMは考えた。裏工作で常に事件を起こし、世の中を危険でいっぱいにして、そうすれば自分たちの存在意義が無くなることはないだろうと……」

 一転、険しい顔になってマロンさんは叫ぶ。

「こんな身勝手な連中のどこに正義がある!? 聞くに値する主張がある!?
 だから我々は革命しなければならない! この間違った社会を壊し、LMを倒し、自由で健全な新時代を築かねばならない!
 これまで説明したことを忘れるな! LMは国民を守ってなどいない、それどころか、自分たちの行うテロで危険にさらしている!
 彼女が守っているのは一部の特権階級、大企業、それと自分自身の存続だ!
 腐ったLMを倒せ! 革命し、狂った日本を治療するんだ!」

 その日の話はこうして終わった。
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