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第3章 七寺英太の革命日記

第67話 腐った奴らに鉄槌を All bastards must die

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 これだけすごい話を聞いたんだ。俺は家に帰っても興奮し続け、ろくに眠れなかった。
 講義を聞くまでは「武力闘争までやらんでも……」と思っていたが、いやいや、俺が甘かった。こんなビッチは力ずくでぶちのめさなくちゃ!

 しかしそのためにはどうしたらいい? 敵はあまりに強大だ、正面からケンカして勝てるとは思えねぇ。
 後日、マロンさんにたずねると、「いずれ詳しい戦略を教える、だからしばらくは目の前のことだけ考えろ」と諭された。チッ、つまらん。

 ま、時には下積み生活も必要だわな。焦らず待とう、出番はそのうち回ってくる。




 月日は流れ、数週間後。ヤマさん、マロンさんの呼び出しを受け、俺を含む15人の革命軍メンバーがアジトに集結した。
 この部屋には円卓が置かれていて、既に全員が着席済み。今はヤマさんがせっせと喋っている。

「お前たち! そろそろ現場に出たくてウズウズしてるだろ? 喜べ、作戦に参加させてやる! 今日はその説明ってわけだ!」

 マジか! よっしゃ!

「さて、本題に入る前におさらいをしよう。革命を成功させるためには何が必要か? 七寺!」

 よしッ!

「はい! 大事なのは民衆の心をつかむことです。彼ら、彼女らに支持されることです」
「イエス! その通り!
 どんな革命も、応援してくれる民衆がいてこそ成り立つ。民衆を無視して好き勝手に振る舞えば、革命活動は単なるテロに成り下がってしまう。
 革命家のモットーは、民衆第一! 民衆ファースト! それを忘れるな!
 さて、じゃあ次の質問だ。民衆に支持されるためには何が必要か? 安蔵(あんぞう)!」

 ヤマさんの近くに座っている男が答える。

「それは、民衆の不満を解決することです。力なき人々のかわりに我々が動き、社会の不正をただすことです」
「うむ!
 今の日本には、腐った奴らがわんさかいる。汚職政治家、犯罪をもみ消す金持ち、そして、LMに取り入ってあくどい商売を見逃してもらう企業!
 国民の誰もが思っているさ。こいつらに正義の鉄槌を下し、制裁して欲しいと。
 だから我々は行動する! 民衆にかわって悪人どもをつぶし、無念を晴らす!
 制裁をやるたび、我々を支持する世論が高まり、やがては民衆の全面的な支援が得られるようになる。
 そうなった時、我々は最終目標であるリトル・マザーを叩き、革命を完遂するのだ!」

 よしよし、盛り上がってきたじゃん。いいねぇ! しかし水を差すようにマロンさんが言う。

「ヤマさん、時間が押してます。そろそろ……」
「あぁ、すまん、すまん。それじゃあ本題に入ろう、手元の資料を見てくれ。1ページ目だ」

 俺は目の前に置かれている紙束を手に取り、めくる。

「今回の作戦のターゲットは、そこに書かれたインフラ関連の企業だ。
 特に水道会社を徹底的につぶすぞ。だって奴らは悪質だからな。お前ら、よく聞け……」

 ヤマさんは厳しい顔つきになり、続ける。

「インフラ、つまり水とか電気だが、これらは生きていくために絶対、利用しなくちゃいけないよな。たとえ粗悪なサービスであってもだ。
 つまりインフラ企業は、そういう人々の弱みにつけこみ、ぼったくり価格で儲けてるってわけさ。
 興味があるなら後でネットで調べてみろ。国税庁のデータによれば、平成29年……つまり2017年、その年のインフラ企業の年間平均給与はいくつだ?
 なんと747万円! 一方、宿泊業・飲食サービス業は253万。今よりずっと平和だった時代ですら、インフラ企業はボロ儲けしてやがったのさ」

 まったく呆れかえるぜ。弱者から容赦なく巻き上げる極悪人集団、それがインフラ企業なんだ。俺は内心で強くうなずき、次の言葉を待つ。

「いいか、お前ら。インフラというのは、誰もが適切な価格で利用できなくちゃいかんのだ。もっと安くなけりゃいかん。
 実際ここ10年くらい、誰もがインフラ料金の値下げを望んでいるだろう。そういう署名活動も何回か行われたしな。
 だが、インフラ企業はLMに媚びを売り、金や顧客の個人情報を渡すのと引き換えに、値下げを要求する人たちの暗殺を……」

 先ほどの安蔵とかいう男が手を挙げる。

「すみません、ちょっと質問していいですか?」
「うん?」
「価格はもちろん大事ですけど、クオリティはどうなんですか?」
「クオリティ?」
「そうです。もし安い料金でインフラを、たとえば水道を利用できるとしても、それが低クオリティだったら困ります」
「よくわからんな」
「いくら安くても、たとえば毒に汚染されてる水なんて飲めません。
 つまり、適切な価格はもちろん大事ですが、それと同時に適切なクオリティを確保することも大事なはずです。
 今の日本では、金持ちだけがきれいで安全な水を確保できる。一方、貧乏人は汚い水で我慢しなくちゃいけない。
 それだって考えるべき問題だと、俺は思うんです」
「あー、うん。そうだな……」

 マロンさんが割って入る。

「安蔵、いくらインフラ企業があくどいといっても、奴らにも道徳心がある。最低限の安全性は保障されているさ」
「本当にそう思うんですか?」
「もちろん。安蔵、なぜそんなことを気にする? 我々が考えるべきはクオリティではないだろう。価格だ」
「まぁ、それは分かりますが……」
「いったい何が不服なんだ?」
「不服っていうか、俺としてはですね……」
「お前!」

 ヤマさんが「まぁまぁ……」となだめにかかる。

「落ち着け、二人とも。安蔵、お前の意見はなかなか面白い。しかし今は時間がないんだ。
 まずはみんなへの話をさせてくれ。その後で改めて意見交換をしようじゃないか」
「後で、ですか」
「おう」
「……わかりました」
「すまねぇな。んじゃ、再開するぞ。
 えー、つまり、とにかくインフラ企業を叩くのが今回の作戦だ。そのための具体的な行動だが、2ページ目を……」

 ったく、なんだあのアホ。こんなとこにもこういう間抜けがいんのかよ!
 どうか安蔵と同じ班に振り分けされませんように……。
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