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第3章 七寺英太の革命日記
第68話 クズは死ね! Thank you for your cooperation
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説明された作戦内容はこうだ。
ターゲットとなる企業の社員を誘拐して人質にとった後、使い捨てのアジトにたてこもり、ネットの生放送で料金値下げを要求する。
相手が要求を無視すれば、一定時間ごとに人質を殺す。そして作戦終了後は秘密の地下通路で脱出する。
ヤマさんの話によると、以前から活動していた別部隊が、先日すべての人質を確保したらしい。
これで作戦の第一段階が終了。次は俺たちの部隊が頑張る番だ。締まってこう!
第三次世界大戦では、東京や大阪といった大都市にミサイルの雨が降り注ぎ、多くの建物や道路が破壊された。
それらは戦後に再建されたが、貧乏人が住む地区は「重要性が低い」と政府に判断され、瓦礫だらけのままで放置されている。
革命軍や犯罪者は、そういう場所を隠れ家にして活動しているわけだ。貧乏人を見捨てると、いずれその代償が社会全体にのしかかるのさ。
さて……。月の無い夜、俺たちは作戦を始め、事前に選定しておいたアジトに人質を連れて立てこもった。
ここは地形が複雑だから、敵にすぐ攻略される恐れはない。それに、銃で武装した仲間たちが守っているんだ。数時間程度なら充分にもちこたえられる。
そして俺は、同じ班のメンバーと共に地下室にいて、椅子に縛りつけられた一人の人質を監視中だ。
人質の名前は若海ソラノ。まだ若い女で、水道会社の調査員の服を着ている。
彼女は猿ぐつわをかまされていて、まったく喋れない。また、彼女の前には一台のカメラが設置されており、彼女の様子をネット経由で世界中に報せている。
今ごろ別の部屋のヤマさんが、若海の属する水道会社を相手に、値下げ要求の放送をしているはずだ。
もし会社が要求を飲まなければ、前述した通り若海を殺す。処刑を執行するのは俺の役目だ、だから俺は拳銃を持ち、カメラの範囲外に立って若海を観察している。
俺は右耳の下にあるソケットに脳波を送り、無線機を起動してヤマさんの生放送の電波を受け取る。
選挙の政見放送によく似たそれは、画面中央に中古の旧型アンドロイドが置かれており、ヤマさんがそいつを遠隔操作して合成音声で喋っている。
「人質の処刑予定時刻まで残り5分を切った! 会社は何も回答しないつもりか!」
まぁしないだろうな。大企業にとって、平社員なんぞは取り換えのきくコマに過ぎん。死んだら新しいのを雇えばいい。
だったらわざわざ若海を助けるもんか。可哀想だが、この子の人生はもうすぐ終わる……俺の拳銃によってな。
悪いとは思わねぇ。だって、こいつは貧乏人から搾取して遊び暮らすクズだ。殺して何の問題がある?
こいつにせよ、こいつ以外にせよ、金持ちはいつだって自分の都合しか考えない。自分より弱い立場の人々を思いやるなんて、そんな人情、あるものか。
かつて日産のお偉いさんをやってた、カルロス・ゴーンのことを考えてみろ。奴は司法や行政を騙し、裁判を受ける前にレバノンへ脱出した。
なおかつ、レバノンで開いた記者会見では、「俺は悪くない、行政の不当な拘禁が悪い」と、あくまで自分の正しさを主張した。
奴は決して謝らなかったし、迷惑をかけた人たちに償うこともしなかった。そう、これが金持ち、特権階級、上流国民すなわち上民だ。
血も涙もないエゴの塊! どうせこの若海だって、同じような人間さ。弱者への優しさを持たないゴミクズ! だったら殺して構わねぇ。
時間がさっさと過ぎればいいのに。だってすぐにでも殺してぇんだ。俺は、イライラしながら若海をにらみつける。
視線に気づいた若海が俺を見る。猿ぐつわに妨害され、それでも何かを言おうとする。
「モゴッ、モゴ……」
なんだ、命乞いか? 言いたいか? 言えねーよなぁ? ざまーみろ、てめぇみたいなクズにはその程度のチャンスすらないんだ。そのまま怯えてろ!
やがて生放送の映像が変化する。アンドロイドの口が動く。
「予定時刻となった! 人質を処刑する!」
部屋の隅で様子を見守っているマロンさんが、無線機を通じて俺に指示する。
(やれ)
(了解!)
俺は若海へと歩き出す。
お前の家族や友人恋人、そして会社の上司や同僚は、きっとこの放送を見てるだろう。
そのままチャンネルを変えなければ、これからお前が殺されるところを目撃するわけだ。
よかったじゃねぇか。ちょっと変則的な形とはいえ、人生の最期をみんなに見守られながら迎えられるんだから。
最近は孤独なまま死んでいくお年寄りが多いっていうぜ? それに比べたらずっと幸せだろ?
俺は若海のすぐそばに立つ。頭へ拳銃を向ける。
「モゴッ! モゴッ!」
今さら無駄だ!
引き金を引く。バンッ! 乾いた発砲音と共に弾丸が飛び出し、若海の頭をブチ抜いて絶命させる。
人を殺したのはこれが初めてだが、案外たいしたことねぇな。罪の意識なんてさっぱり感じない。
それもそうか、実質的には殺人じゃなくて害虫駆除みたいなものなんだから。ゴキブリを殺して罪を感じるわけがない。
(七寺、よくやった。見事だ)
(ありがとうございます!)
(よし、すぐに次の人質の準備だ。おい、カメラ! 中継をいったん止めろ! 片づけ担当者はさっさと死体を始末、急げ!)
ゲームで人を殺すのと違って、現実の場合はいろいろと面倒だな。やれやれ。
まぁ愚痴るのは後、後。まだ作戦は続いてるんだ、最後まで気を抜かずにやり遂げよう。
ターゲットとなる企業の社員を誘拐して人質にとった後、使い捨てのアジトにたてこもり、ネットの生放送で料金値下げを要求する。
相手が要求を無視すれば、一定時間ごとに人質を殺す。そして作戦終了後は秘密の地下通路で脱出する。
ヤマさんの話によると、以前から活動していた別部隊が、先日すべての人質を確保したらしい。
これで作戦の第一段階が終了。次は俺たちの部隊が頑張る番だ。締まってこう!
第三次世界大戦では、東京や大阪といった大都市にミサイルの雨が降り注ぎ、多くの建物や道路が破壊された。
それらは戦後に再建されたが、貧乏人が住む地区は「重要性が低い」と政府に判断され、瓦礫だらけのままで放置されている。
革命軍や犯罪者は、そういう場所を隠れ家にして活動しているわけだ。貧乏人を見捨てると、いずれその代償が社会全体にのしかかるのさ。
さて……。月の無い夜、俺たちは作戦を始め、事前に選定しておいたアジトに人質を連れて立てこもった。
ここは地形が複雑だから、敵にすぐ攻略される恐れはない。それに、銃で武装した仲間たちが守っているんだ。数時間程度なら充分にもちこたえられる。
そして俺は、同じ班のメンバーと共に地下室にいて、椅子に縛りつけられた一人の人質を監視中だ。
人質の名前は若海ソラノ。まだ若い女で、水道会社の調査員の服を着ている。
彼女は猿ぐつわをかまされていて、まったく喋れない。また、彼女の前には一台のカメラが設置されており、彼女の様子をネット経由で世界中に報せている。
今ごろ別の部屋のヤマさんが、若海の属する水道会社を相手に、値下げ要求の放送をしているはずだ。
もし会社が要求を飲まなければ、前述した通り若海を殺す。処刑を執行するのは俺の役目だ、だから俺は拳銃を持ち、カメラの範囲外に立って若海を観察している。
俺は右耳の下にあるソケットに脳波を送り、無線機を起動してヤマさんの生放送の電波を受け取る。
選挙の政見放送によく似たそれは、画面中央に中古の旧型アンドロイドが置かれており、ヤマさんがそいつを遠隔操作して合成音声で喋っている。
「人質の処刑予定時刻まで残り5分を切った! 会社は何も回答しないつもりか!」
まぁしないだろうな。大企業にとって、平社員なんぞは取り換えのきくコマに過ぎん。死んだら新しいのを雇えばいい。
だったらわざわざ若海を助けるもんか。可哀想だが、この子の人生はもうすぐ終わる……俺の拳銃によってな。
悪いとは思わねぇ。だって、こいつは貧乏人から搾取して遊び暮らすクズだ。殺して何の問題がある?
こいつにせよ、こいつ以外にせよ、金持ちはいつだって自分の都合しか考えない。自分より弱い立場の人々を思いやるなんて、そんな人情、あるものか。
かつて日産のお偉いさんをやってた、カルロス・ゴーンのことを考えてみろ。奴は司法や行政を騙し、裁判を受ける前にレバノンへ脱出した。
なおかつ、レバノンで開いた記者会見では、「俺は悪くない、行政の不当な拘禁が悪い」と、あくまで自分の正しさを主張した。
奴は決して謝らなかったし、迷惑をかけた人たちに償うこともしなかった。そう、これが金持ち、特権階級、上流国民すなわち上民だ。
血も涙もないエゴの塊! どうせこの若海だって、同じような人間さ。弱者への優しさを持たないゴミクズ! だったら殺して構わねぇ。
時間がさっさと過ぎればいいのに。だってすぐにでも殺してぇんだ。俺は、イライラしながら若海をにらみつける。
視線に気づいた若海が俺を見る。猿ぐつわに妨害され、それでも何かを言おうとする。
「モゴッ、モゴ……」
なんだ、命乞いか? 言いたいか? 言えねーよなぁ? ざまーみろ、てめぇみたいなクズにはその程度のチャンスすらないんだ。そのまま怯えてろ!
やがて生放送の映像が変化する。アンドロイドの口が動く。
「予定時刻となった! 人質を処刑する!」
部屋の隅で様子を見守っているマロンさんが、無線機を通じて俺に指示する。
(やれ)
(了解!)
俺は若海へと歩き出す。
お前の家族や友人恋人、そして会社の上司や同僚は、きっとこの放送を見てるだろう。
そのままチャンネルを変えなければ、これからお前が殺されるところを目撃するわけだ。
よかったじゃねぇか。ちょっと変則的な形とはいえ、人生の最期をみんなに見守られながら迎えられるんだから。
最近は孤独なまま死んでいくお年寄りが多いっていうぜ? それに比べたらずっと幸せだろ?
俺は若海のすぐそばに立つ。頭へ拳銃を向ける。
「モゴッ! モゴッ!」
今さら無駄だ!
引き金を引く。バンッ! 乾いた発砲音と共に弾丸が飛び出し、若海の頭をブチ抜いて絶命させる。
人を殺したのはこれが初めてだが、案外たいしたことねぇな。罪の意識なんてさっぱり感じない。
それもそうか、実質的には殺人じゃなくて害虫駆除みたいなものなんだから。ゴキブリを殺して罪を感じるわけがない。
(七寺、よくやった。見事だ)
(ありがとうございます!)
(よし、すぐに次の人質の準備だ。おい、カメラ! 中継をいったん止めろ! 片づけ担当者はさっさと死体を始末、急げ!)
ゲームで人を殺すのと違って、現実の場合はいろいろと面倒だな。やれやれ。
まぁ愚痴るのは後、後。まだ作戦は続いてるんだ、最後まで気を抜かずにやり遂げよう。
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