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第3章 七寺英太の革命日記
第69話 終着駅 Mission complete
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こうして数時間にわたり作戦が続けられたが、どの会社も値下げを認めず、交渉は無意味に終わった。
すべての人質を殺した以上、もうやれることは無い。だから俺たちはアジトの自爆装置を起動させ、地下通路での脱出を開始した。
作戦は失敗してしまったのか?
いや、違う。確かに値下げ要求は拒まれたが、交渉の過程で得られた収穫がある。
たとえば、俺たちは電力会社の幹部を殺し、同時に、そいつの不正行為を暴露した。
この野郎は変電所の工事予算を横領し、結果、工事が遅れて大停電が起きた。あれでどれだけの命が失われたことか……!
普通ならすぐに捕まって裁判のはずだ。でも、こいつはLMにコネがあるから、それを使って今日まで逃げ隠れしてきた。
ふん、悪人め。そんなインチキな生き方、LMが許しても革命軍が許さねぇ。だからあぁして処刑してやったんだ。
今ごろ世間の連中は拍手喝采だろう。正義を成した俺たちを褒めたたえ、悪人をかばったLMを非難するに決まってる。
とりあえずはこれでいい。ヤマさんが言う通り、当面はこうやって革命軍の支持者を増やしていくことが大事だ。小さい失敗など気にするな。
まぁこの話はこれぐらいにして、今は脱出に集中しよう。死んじまったらどうしようもない。
ヤマさんが率いるチームAは、とっくに別ルートへ離脱していった。俺はマロンさんのチームBに入り、懐中電灯を手にして暗闇を進んでいる。彼女は話す。
「しばらくすると例のトンネルに着く。戦争で破壊され、廃止された地下鉄の線路だ。
利用客はあたしらのみ。だから安心して歩け、『スタンド・バイ・ミー』みたいに後ろから列車が来るなんて、ありえないから」
俺も他の連中も「はい」と返事をする。
「トンネルに入ったら、後は簡単さ。目標地点の駅まで歩き、地上に出て新しいアジトにもぐりこむ。
しばらくはそこで生活して、ほとぼりが冷めたらシャバに戻るんだ」
話の途中、秘密通路の出口が見えてくる。あの先がくだんのトンネルってわけか。なんともホコリくさそうだ。
ま、こればっかりは我慢するしかねぇ。さっさと地上に出たいもんだぜ。
それからどれほどの時間を歩き続けたのだろう? いい加減に疲れてきた頃、ようやくマロンさんが口を開く。
「よし! ここだ……」
彼女は懐中電灯の明かりを遠くへ投げかける。何かの建築物が照らし出される。
「あれが駅だ。いくぞ」
マロンさんに導かれ、俺たちは四苦八苦してホームによじ登る。そのまま階段を上がり、途中の踊り場で足を止める。
よく目を凝らすと、壁に大きな穴が開いている。いったい誰がこんなものを? 俺はマロンさんに聞こうとするが、それよりも早く彼女は言う。
「そう不安がるな、敵の罠とかじゃない。うちの工作部隊がつくったんだ。この抜け道を進めば、アジトにたどり着ける」
なるほどね。俺は安心し、みんなと共に抜け道を歩いていく。
やがて、道の終わりに出口が見えてくる。どうやらこの先は小さな部屋に繋がっているらしい。マロンさんが真っ先に入室し、喋る。
「明かりをつけるぞ」
天井の蛍光灯がぼんやりと光り始める。まぶしく感じられるのは、長いこと暗所にいたせいだろう。まぁすぐ慣れるさ。
やがて全員が部屋に集まり、そのタイミングでマロンさんが告げる。
「残念だが、ここはまだアジトじゃない。倉庫の管理室だ。でも気を落とすな、目的地は目と鼻の先なんだから」
どういう仕組みかしらないが、部屋の隅にあるドアが開いていく。
「お前たちは先に行け。あたしはここの後始末をしてから出る」
ドアの先からは新鮮な空気が流れてきている。みんなそれを吸いたくて、我先に管理室から出ていく。もちろん俺もだ。
管理室から踏み出してあたりを見回すと、倉庫のくせになんの荷物もない。前方の出入口はシャッターで締め切られていて、これじゃあ進めないな。
いったいどうしよう? そう思っていると、突然シャッターが上がり始める。
ガラン、ガランと派手な音が響き、実にうるさい。俺の横に立っている男が言う。
「おい、なんか展開がおかしくねぇか……」
シャッターが上がりきる。直後、全ての照明が強くなり、昼間のように明るくなる。
なんだ? どうなってる? 混乱した頭を整理しようとする最中、視界にとんでもない光景が飛びこんでくる。
さっきの男が悲鳴をあげる。
「エクソスケルトン!?」
シャッターの向こう側、なにもない空間。そこに、プラネットでステルスを解除した時のように、いきなりエクソスケルトンが姿を現す。
なぜこんなとこにスケルトンが? 待ち伏せ? どうやって俺たちの動きを知った? いや、そもそもいきなり出現ってなんだ? 今までステルス待機してたのか?
ステルス機能を搭載した新型が各国で開発中って噂は聞いたことあるけど、そんな実験機がどうしてこんな場所に? なんだよ、ワケわかんねぇ!
俺は呆然となる、だが事態は俺を待たずに進行する。スケルトンの四本の腕が動き出し、それぞれの手に握られたマシンガンが狙いを定める。
発砲。「バババッ! バババババッ!」。仲間たちの悲鳴。
「わぁあああぁぁぁああっ!」
「助け……」
「ギャーーーーッ!」
血と肉片が飛び散り、地面を汚す。死が空間を満たしていく。
マシンガンが俺に向けられる。思わず絶叫する。
「うわぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
バババババババババババババババッ! 大量の弾丸が俺の体をぶち抜いていく。激痛と流血が襲ってくる、耐えきれずに地面に崩れ落ちる。
急速に意識が薄れていく。俺は死ぬのか? こんなところで? わけもわからずに?
なんで待ち伏せされた? 誰かが密告したのか? 誰だ? 安蔵か? まさかマロンさん?
マロンさんはどこだ? まだ管理室の中? なぜ俺たちを先に行かせた? すべてを知っていたから? いや、副リーダーのあの人が裏切るなんて……。
助けて……誰か……。死にたくない……。俺は……革命を……。
マロンさん……あんたは……。
すべての人質を殺した以上、もうやれることは無い。だから俺たちはアジトの自爆装置を起動させ、地下通路での脱出を開始した。
作戦は失敗してしまったのか?
いや、違う。確かに値下げ要求は拒まれたが、交渉の過程で得られた収穫がある。
たとえば、俺たちは電力会社の幹部を殺し、同時に、そいつの不正行為を暴露した。
この野郎は変電所の工事予算を横領し、結果、工事が遅れて大停電が起きた。あれでどれだけの命が失われたことか……!
普通ならすぐに捕まって裁判のはずだ。でも、こいつはLMにコネがあるから、それを使って今日まで逃げ隠れしてきた。
ふん、悪人め。そんなインチキな生き方、LMが許しても革命軍が許さねぇ。だからあぁして処刑してやったんだ。
今ごろ世間の連中は拍手喝采だろう。正義を成した俺たちを褒めたたえ、悪人をかばったLMを非難するに決まってる。
とりあえずはこれでいい。ヤマさんが言う通り、当面はこうやって革命軍の支持者を増やしていくことが大事だ。小さい失敗など気にするな。
まぁこの話はこれぐらいにして、今は脱出に集中しよう。死んじまったらどうしようもない。
ヤマさんが率いるチームAは、とっくに別ルートへ離脱していった。俺はマロンさんのチームBに入り、懐中電灯を手にして暗闇を進んでいる。彼女は話す。
「しばらくすると例のトンネルに着く。戦争で破壊され、廃止された地下鉄の線路だ。
利用客はあたしらのみ。だから安心して歩け、『スタンド・バイ・ミー』みたいに後ろから列車が来るなんて、ありえないから」
俺も他の連中も「はい」と返事をする。
「トンネルに入ったら、後は簡単さ。目標地点の駅まで歩き、地上に出て新しいアジトにもぐりこむ。
しばらくはそこで生活して、ほとぼりが冷めたらシャバに戻るんだ」
話の途中、秘密通路の出口が見えてくる。あの先がくだんのトンネルってわけか。なんともホコリくさそうだ。
ま、こればっかりは我慢するしかねぇ。さっさと地上に出たいもんだぜ。
それからどれほどの時間を歩き続けたのだろう? いい加減に疲れてきた頃、ようやくマロンさんが口を開く。
「よし! ここだ……」
彼女は懐中電灯の明かりを遠くへ投げかける。何かの建築物が照らし出される。
「あれが駅だ。いくぞ」
マロンさんに導かれ、俺たちは四苦八苦してホームによじ登る。そのまま階段を上がり、途中の踊り場で足を止める。
よく目を凝らすと、壁に大きな穴が開いている。いったい誰がこんなものを? 俺はマロンさんに聞こうとするが、それよりも早く彼女は言う。
「そう不安がるな、敵の罠とかじゃない。うちの工作部隊がつくったんだ。この抜け道を進めば、アジトにたどり着ける」
なるほどね。俺は安心し、みんなと共に抜け道を歩いていく。
やがて、道の終わりに出口が見えてくる。どうやらこの先は小さな部屋に繋がっているらしい。マロンさんが真っ先に入室し、喋る。
「明かりをつけるぞ」
天井の蛍光灯がぼんやりと光り始める。まぶしく感じられるのは、長いこと暗所にいたせいだろう。まぁすぐ慣れるさ。
やがて全員が部屋に集まり、そのタイミングでマロンさんが告げる。
「残念だが、ここはまだアジトじゃない。倉庫の管理室だ。でも気を落とすな、目的地は目と鼻の先なんだから」
どういう仕組みかしらないが、部屋の隅にあるドアが開いていく。
「お前たちは先に行け。あたしはここの後始末をしてから出る」
ドアの先からは新鮮な空気が流れてきている。みんなそれを吸いたくて、我先に管理室から出ていく。もちろん俺もだ。
管理室から踏み出してあたりを見回すと、倉庫のくせになんの荷物もない。前方の出入口はシャッターで締め切られていて、これじゃあ進めないな。
いったいどうしよう? そう思っていると、突然シャッターが上がり始める。
ガラン、ガランと派手な音が響き、実にうるさい。俺の横に立っている男が言う。
「おい、なんか展開がおかしくねぇか……」
シャッターが上がりきる。直後、全ての照明が強くなり、昼間のように明るくなる。
なんだ? どうなってる? 混乱した頭を整理しようとする最中、視界にとんでもない光景が飛びこんでくる。
さっきの男が悲鳴をあげる。
「エクソスケルトン!?」
シャッターの向こう側、なにもない空間。そこに、プラネットでステルスを解除した時のように、いきなりエクソスケルトンが姿を現す。
なぜこんなとこにスケルトンが? 待ち伏せ? どうやって俺たちの動きを知った? いや、そもそもいきなり出現ってなんだ? 今までステルス待機してたのか?
ステルス機能を搭載した新型が各国で開発中って噂は聞いたことあるけど、そんな実験機がどうしてこんな場所に? なんだよ、ワケわかんねぇ!
俺は呆然となる、だが事態は俺を待たずに進行する。スケルトンの四本の腕が動き出し、それぞれの手に握られたマシンガンが狙いを定める。
発砲。「バババッ! バババババッ!」。仲間たちの悲鳴。
「わぁあああぁぁぁああっ!」
「助け……」
「ギャーーーーッ!」
血と肉片が飛び散り、地面を汚す。死が空間を満たしていく。
マシンガンが俺に向けられる。思わず絶叫する。
「うわぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
バババババババババババババババッ! 大量の弾丸が俺の体をぶち抜いていく。激痛と流血が襲ってくる、耐えきれずに地面に崩れ落ちる。
急速に意識が薄れていく。俺は死ぬのか? こんなところで? わけもわからずに?
なんで待ち伏せされた? 誰かが密告したのか? 誰だ? 安蔵か? まさかマロンさん?
マロンさんはどこだ? まだ管理室の中? なぜ俺たちを先に行かせた? すべてを知っていたから? いや、副リーダーのあの人が裏切るなんて……。
助けて……誰か……。死にたくない……。俺は……革命を……。
マロンさん……あんたは……。
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