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第6章 レヴェリー・プラネット運営方針
第108話 闘鶏 Enraged beasts
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週明けは朝から大雨だ。家にこもっていたい。でも仕事が待っている、治は仕方なく出社して会議室の席に座る。
自分の左横を見ると、梅下が「当然」という顔でふんぞり返り、治を見る。クソアマめ……。
普段は僕に任せっきりでぜんぜん出席しないのに、今回はなぜか出てきやがった。
まぁ理由は察しがつく。今の12号サーバーの状況を利用し、手柄を立てるつもりなんだ。
じゃあ仕切りは梅下に任せてしまえ。そう思って治は黙りこくる。梅下が話し出す。
「まずは話を整理しましょう。
現在の12号サーバーは、重課金集団のヘル・レイザーズによって牛耳られており、絶対的な支配体制が敷かれている。
しかし、ゲールフォースが下剋上を果たした事件がきっかけとなり、反逆するプレイヤーが増えつつある……」
要するに12号サーバーは戦国時代に突入したのだ。力ある貧民が幸運をつかみ、王を倒す。そんな革命すら夢ではない。
だが現実の革命史がそうであったように、下剋上には困難がつきまとう。それについて梅下が説明する。
「肝心なのはこの先です。このアンチ・レイザーズの旋風を巻き起こしたのは、スエナというプレイヤー。
彼女はあちこちに呼びかけて仲間を集め、反レイザーズの連合軍を結成しつつある。
この企ては成功するでしょう、なにせネメシスが参加しましたからね」
ある女性スタッフが質問の手を挙げる。
「ボス、ネメシスとはなんですか?」
ボスとは梅下を指す言葉だ。ちなみに、治はリーダーと呼ばれることが多い。
「12号サーバーで第二位のクラン、そして、アンチ・レイザーズの集団です。
リーダーはアンドリューという男性プレイヤー。彼は筋金入りのアンチ・レイザーズで、ネメシスを作ったのもレイザーズを倒すため。
こういう武闘派が連合軍に入った以上、いずれレイザーズとの全面戦争が始まるでしょう」
全面戦争と聞き、治は憂うつになる。なんでゲームでそんな酷いことになっちまうんだ?
彼はそのワケを知っている、梅下が得意げに言う。
「いいですか、皆さん。この戦争は大儲けのチャンスです。
これほどの衝突であれば、どちらの陣営も必死になり、借金してでも勝とうとする……。
剣崎くん、ではこの状況下で、我々は何をすべきですか?」
「……」
治はボンヤリしている。答えられない。
「剣崎くん?」
「あ、はい」
「どうしたんですか。体調不良?」
「いえ、体は万全です」
「だったら、我々がなすべきことについて答えなさい」
「はい……」
何か苦いものが胃から口へとこみあげ、治は不快感を味わう。それを精神力で抑えこみ、淡々と語る。
「なすべきは、戦いのコントロール。両方の陣営を競わせ、憎み合うように仕向け、冷静さを失わせる……」
「ご名答! プレイヤー同士の戦いなんて、ニワトリのケンカと同じです。
参加者は誰もが怒り狂い、罵り合い、復讐心を満足させるためならジャブジャブ課金する。
我々はそれを眺めているだけで儲かるわけです」
ネットで見た闘鶏の動画が治の脳裏に蘇る。
試合場に放たれたニワトリたちは、人間に煽られ、怒り、がむしゃらに突進して蹴爪を振るい、相手を絶命させる。
そこには知性など無い。闘争本能に突き動かされるケダモノだけが存在する。
梅下は、それと似たことをやろうと言っているのだ。ぞっとするような嫌悪感が治を包む。
これは正義の行いか? 万人が善と判断できるようなことなのか?
いや……今はそんなことを考えてもナンセンスだ。とにかく集中しなくては。治は軽く深呼吸する。
自分の左横を見ると、梅下が「当然」という顔でふんぞり返り、治を見る。クソアマめ……。
普段は僕に任せっきりでぜんぜん出席しないのに、今回はなぜか出てきやがった。
まぁ理由は察しがつく。今の12号サーバーの状況を利用し、手柄を立てるつもりなんだ。
じゃあ仕切りは梅下に任せてしまえ。そう思って治は黙りこくる。梅下が話し出す。
「まずは話を整理しましょう。
現在の12号サーバーは、重課金集団のヘル・レイザーズによって牛耳られており、絶対的な支配体制が敷かれている。
しかし、ゲールフォースが下剋上を果たした事件がきっかけとなり、反逆するプレイヤーが増えつつある……」
要するに12号サーバーは戦国時代に突入したのだ。力ある貧民が幸運をつかみ、王を倒す。そんな革命すら夢ではない。
だが現実の革命史がそうであったように、下剋上には困難がつきまとう。それについて梅下が説明する。
「肝心なのはこの先です。このアンチ・レイザーズの旋風を巻き起こしたのは、スエナというプレイヤー。
彼女はあちこちに呼びかけて仲間を集め、反レイザーズの連合軍を結成しつつある。
この企ては成功するでしょう、なにせネメシスが参加しましたからね」
ある女性スタッフが質問の手を挙げる。
「ボス、ネメシスとはなんですか?」
ボスとは梅下を指す言葉だ。ちなみに、治はリーダーと呼ばれることが多い。
「12号サーバーで第二位のクラン、そして、アンチ・レイザーズの集団です。
リーダーはアンドリューという男性プレイヤー。彼は筋金入りのアンチ・レイザーズで、ネメシスを作ったのもレイザーズを倒すため。
こういう武闘派が連合軍に入った以上、いずれレイザーズとの全面戦争が始まるでしょう」
全面戦争と聞き、治は憂うつになる。なんでゲームでそんな酷いことになっちまうんだ?
彼はそのワケを知っている、梅下が得意げに言う。
「いいですか、皆さん。この戦争は大儲けのチャンスです。
これほどの衝突であれば、どちらの陣営も必死になり、借金してでも勝とうとする……。
剣崎くん、ではこの状況下で、我々は何をすべきですか?」
「……」
治はボンヤリしている。答えられない。
「剣崎くん?」
「あ、はい」
「どうしたんですか。体調不良?」
「いえ、体は万全です」
「だったら、我々がなすべきことについて答えなさい」
「はい……」
何か苦いものが胃から口へとこみあげ、治は不快感を味わう。それを精神力で抑えこみ、淡々と語る。
「なすべきは、戦いのコントロール。両方の陣営を競わせ、憎み合うように仕向け、冷静さを失わせる……」
「ご名答! プレイヤー同士の戦いなんて、ニワトリのケンカと同じです。
参加者は誰もが怒り狂い、罵り合い、復讐心を満足させるためならジャブジャブ課金する。
我々はそれを眺めているだけで儲かるわけです」
ネットで見た闘鶏の動画が治の脳裏に蘇る。
試合場に放たれたニワトリたちは、人間に煽られ、怒り、がむしゃらに突進して蹴爪を振るい、相手を絶命させる。
そこには知性など無い。闘争本能に突き動かされるケダモノだけが存在する。
梅下は、それと似たことをやろうと言っているのだ。ぞっとするような嫌悪感が治を包む。
これは正義の行いか? 万人が善と判断できるようなことなのか?
いや……今はそんなことを考えてもナンセンスだ。とにかく集中しなくては。治は軽く深呼吸する。
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