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第9章 この社会を革命するために 前編
第148話 座談会 The rebel
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俺は寝汗まみれの状態で目覚める。悪夢にうなされた時はいつだってこうだ。クソッ、後でベッド・シートを取り換えなくちゃ。
いやそんなことを考えている場合か? 今日からは例の仕事をしなくちゃならないんだ、とにかく職場に急げ! 御託は後回し!
下民地区の中でもかなり酷いと評されるような場所に、一軒の小さな工場がある。自動車を修理するためのもので、俺は数年前からここに勤めている。
そして今はかなり大型のトラックと格闘中だ。車体の下に潜りこんで方々をいじくっている。もっとも修理をしているわけではない。
率直に言えばこれは違法改造だ。ある目的を果たすため、遠隔操作で車を動かす装置を取りつけたり、爆弾を入れる空間を設けたりしている。
このことが同僚や上司にバレる心配はない。俺は奴らをうまく誤魔化す方法を知っているし、そもそもこの工場自体が裏の商売として違法改造を請け負っているのだ。
よほど妙なことをしない限り、誰も俺のやることに気を留めない。ありがたい話だ。それでこそ、この工場で働く意味がある。
まぁそれはそれとして、今日はどこまで作業を進めよう? 可能な限り頑張りたいところだが、夜に”座談会”に参加の予定だからな。疲労困憊したくない。
ほどほどの仕事量に留めておいて、残りは明日以降。そのプランでいこう。
第三次世界大戦の業火が東京を焼き尽くした後、経済力のある土地はそこそこの復興を遂げた。しかし貧乏なところは放ったらかしだ。
終戦からもう数十年が経ったが、未だに倒壊した建物だらけ、そんな場所は数えきれないほどある。非合法な奴らが身を隠すにはうってつけだ。
そういった事情は革命活動をする者にとっても同じであり、だから俺は今ここに、即ち、半分崩れたビルの地下フロアにいる。
もう少し正確に言えば、地下フロアの片隅にある小さな部屋だ。数脚の粗末な椅子とボロい木製の机1つがあるだけの、実に殺風景な一室。
だがそれでいい。俺にせよ、同席中の数人の仲間たちにせよ、お茶会を楽しむためにここに集まったわけではないのだ。
俺たちは”座談会”を、率直に言うなら反LM武装戦線の会議をするためにここにいる。そうだ、今の俺は革命家。命を懸けてLMと戦う男だ。
レヴェリー・プラネットを引退した直後、ある事件がきっかけで俺はこの革命組織に身を投じた。工場作業員に転職して違法改造のスキルを学んだのも革命のためだ。
当時の俺は世の中にほとほと嫌気がさしていて、社会を変えたいと本気で願っていた。だから最初はデモや署名活動に参加した、しかし結果から言えば無意味だったな。
何かやるとすぐ警察や情報局がきて邪魔をする。そのうち俺は気づいた、全てはLMによる自作自演、マッチポンプで、人々は踊らされているに過ぎないのだと。
本気で社会を変えたいならデモなんぞ役に立たない。他のことをしなければ。だからこそ武装戦線の一員となったわけだが、まぁそれはそれとしてだ。
俺は向かいの席にいる中年男性、武装戦線の副リーダーである倉間さんにたずねる。
「あの……。会議が始まる予定時刻、とっくに過ぎてませんか?」
「そりゃそうですけど、でもリーダーがまだ来てませんから」
「遅刻ですかね?」
「あるいは不測の事態でも起きたか……」
全員に緊張が走る。武力闘争をやっている俺たちにとって、”不測の事態”とは「情報局による急な逮捕や暗殺」に他ならない。
もし本当にそうなら一刻も早く解散して逃げなくては。しかしただ単に交通渋滞か何かで遅れているだけという可能性もあり得る。
どうしたものかな……。そう思った時、倉間さんが全体に向けて発言した。
「あと5分だけ待って、それでもし来なければお開きにしましょう。規則ではそうなっているわけですしね」
俺は「分かりました」と答える。他の人たちも似たような返事だ。やれやれ、気が抜けない展開とは歓迎しないな。
早く来てくれるといいんだが。このまま黙って5分間を過ごすのはちょっとした苦痛だぜ。俺は倉間さんに視線を向けて、何か話して欲しいと言外に伝える。
彼はそれに気づいた。だから穏やかな声で話しかけてきた。
「そういえば久泉くん。前から聞いてみたいと思っていたんですが……」
「はい」
「あなたがLMを憎む理由とはなんですか?」
「……」
「無理に話してくれとは言いませんよ。ですが、あなたの気持ちをここでみんなに説明しておけば、将来なにかの役に立つかもしれない」
「……」
「どうです?」
「少しだけ。少しだけなら話します。面白い話じゃありませんが、それでよければ……」
「構いません。お願いします」
もしかしたら俺は、この悔しい気持ちを誰かに伝えたくてたまらなかったのかもしれない。そんなふうに思いつつ、俺は記憶を探り始める。
いやそんなことを考えている場合か? 今日からは例の仕事をしなくちゃならないんだ、とにかく職場に急げ! 御託は後回し!
下民地区の中でもかなり酷いと評されるような場所に、一軒の小さな工場がある。自動車を修理するためのもので、俺は数年前からここに勤めている。
そして今はかなり大型のトラックと格闘中だ。車体の下に潜りこんで方々をいじくっている。もっとも修理をしているわけではない。
率直に言えばこれは違法改造だ。ある目的を果たすため、遠隔操作で車を動かす装置を取りつけたり、爆弾を入れる空間を設けたりしている。
このことが同僚や上司にバレる心配はない。俺は奴らをうまく誤魔化す方法を知っているし、そもそもこの工場自体が裏の商売として違法改造を請け負っているのだ。
よほど妙なことをしない限り、誰も俺のやることに気を留めない。ありがたい話だ。それでこそ、この工場で働く意味がある。
まぁそれはそれとして、今日はどこまで作業を進めよう? 可能な限り頑張りたいところだが、夜に”座談会”に参加の予定だからな。疲労困憊したくない。
ほどほどの仕事量に留めておいて、残りは明日以降。そのプランでいこう。
第三次世界大戦の業火が東京を焼き尽くした後、経済力のある土地はそこそこの復興を遂げた。しかし貧乏なところは放ったらかしだ。
終戦からもう数十年が経ったが、未だに倒壊した建物だらけ、そんな場所は数えきれないほどある。非合法な奴らが身を隠すにはうってつけだ。
そういった事情は革命活動をする者にとっても同じであり、だから俺は今ここに、即ち、半分崩れたビルの地下フロアにいる。
もう少し正確に言えば、地下フロアの片隅にある小さな部屋だ。数脚の粗末な椅子とボロい木製の机1つがあるだけの、実に殺風景な一室。
だがそれでいい。俺にせよ、同席中の数人の仲間たちにせよ、お茶会を楽しむためにここに集まったわけではないのだ。
俺たちは”座談会”を、率直に言うなら反LM武装戦線の会議をするためにここにいる。そうだ、今の俺は革命家。命を懸けてLMと戦う男だ。
レヴェリー・プラネットを引退した直後、ある事件がきっかけで俺はこの革命組織に身を投じた。工場作業員に転職して違法改造のスキルを学んだのも革命のためだ。
当時の俺は世の中にほとほと嫌気がさしていて、社会を変えたいと本気で願っていた。だから最初はデモや署名活動に参加した、しかし結果から言えば無意味だったな。
何かやるとすぐ警察や情報局がきて邪魔をする。そのうち俺は気づいた、全てはLMによる自作自演、マッチポンプで、人々は踊らされているに過ぎないのだと。
本気で社会を変えたいならデモなんぞ役に立たない。他のことをしなければ。だからこそ武装戦線の一員となったわけだが、まぁそれはそれとしてだ。
俺は向かいの席にいる中年男性、武装戦線の副リーダーである倉間さんにたずねる。
「あの……。会議が始まる予定時刻、とっくに過ぎてませんか?」
「そりゃそうですけど、でもリーダーがまだ来てませんから」
「遅刻ですかね?」
「あるいは不測の事態でも起きたか……」
全員に緊張が走る。武力闘争をやっている俺たちにとって、”不測の事態”とは「情報局による急な逮捕や暗殺」に他ならない。
もし本当にそうなら一刻も早く解散して逃げなくては。しかしただ単に交通渋滞か何かで遅れているだけという可能性もあり得る。
どうしたものかな……。そう思った時、倉間さんが全体に向けて発言した。
「あと5分だけ待って、それでもし来なければお開きにしましょう。規則ではそうなっているわけですしね」
俺は「分かりました」と答える。他の人たちも似たような返事だ。やれやれ、気が抜けない展開とは歓迎しないな。
早く来てくれるといいんだが。このまま黙って5分間を過ごすのはちょっとした苦痛だぜ。俺は倉間さんに視線を向けて、何か話して欲しいと言外に伝える。
彼はそれに気づいた。だから穏やかな声で話しかけてきた。
「そういえば久泉くん。前から聞いてみたいと思っていたんですが……」
「はい」
「あなたがLMを憎む理由とはなんですか?」
「……」
「無理に話してくれとは言いませんよ。ですが、あなたの気持ちをここでみんなに説明しておけば、将来なにかの役に立つかもしれない」
「……」
「どうです?」
「少しだけ。少しだけなら話します。面白い話じゃありませんが、それでよければ……」
「構いません。お願いします」
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