171 / 227
第10章 この社会を革命するために 後編
第168話 逃避行 Run away to fight another day
しおりを挟む
治を落ち着かせるため、なるべく穏やかな声でシンゴは語る。
「パニクる気持ちはわかるが、まぁ冷静になれ。さすがの情報局もフダを取るには時間がかかる、それまでは逮捕されねぇよ」
「フダ?」
「逮捕状のことだよ。もちろん奴らは場合によっちゃあフダなしで捕まえにくるが、今回は緊急性が低いからな。そうはならんだろ」
「なるほど……」
「それでだ、治、よく聞いてくれ。もちろん捕まるのは嫌だよな?」
「当たり前だろ!」
「じゃあ俺と一緒に来い。革命戦団の力を借りて逃げるんだ」
「なんだって……?」
「いきなりこんなこと言われて面食らうのは百も承知、その上で話してるつもりだ。そもそもの話、革命戦団はお前に大きな価値を見出してる。
だって、戦団の活動目的は、LMに都合の悪い情報を暴露することだからな。そしてお前がやろうとしてることはまさに暴露だろう?
つまり戦団とお前は利害関係が一致している。お前を保護してリーク活動を助けることは、戦団の利益につながるわけだ。
だから俺はお前を逃がすためにここに来たのさ」
実にうさん臭い話だ。こんなことをいきなり言われて信じられる人間はそうそういないだろう。
とはいえ、シンゴの言い分のすべてが嘘であるとも思えない。少なくとも通報に関しては事実と考える方が妥当なはずだ。
だったら通報以外の言い分も事実なのでは? いや、しかしそんな安直に信じていいのか。やはりこれはなにか手のこんだ罠では?
疑心暗鬼の苦しみが治の心を締めつけ、言葉を吐き出させる。
「無茶を言うなよ、こんな、まるで意味不明な話……」
「ご意見ごもっとも。だが俺は嘘なんてついてない。マジでお前がヤバいから、捕まる寸前だから助けにきた。本当にそれだけだ。……うん?」
部屋の色が赤に変わる。機械の合成音声による警告メッセージが読み上げられる。
「何者かがチャット・ルームに接近中、接近中!」
軽く舌打ちし、大慌てでシンゴは言う。
「ちっ、サイバー・パトロールだ! 悪りぃが時間切れ、話は終わりだ」
「おい……!」
「後でもう一通のメールを送る。もしお前が俺の話を信じるなら、そのメールの指示にしたがって行動してくれ」
「言うだけ言って逃げるなんて無責任だぞ!」
「しょうがねぇだろ、サツに見つかっちまったんだから! それに、お前だっていいかげん職場に戻らねぇと怪しまれるぜ?」
「それぐらい分かってる!」
「とにかく俺はちゃんと伝えたからな! 機会があったらまた会おう、じゃ!」
シンゴの姿が消失し、直後にチャット・ルームも消える。治の意識は強制的に現実世界へと引き戻され、彼の視界に自分の仕事部屋が映る。
治は考える。今のは夢だったんだろうか? それとも本当にあったこと? いったいどっちだ?
スマートフォンが震える。恐る恐る手に取ってプッシュ通知を見る。”新着メール一件”。
メールのタイトルにはこう書かれている。
”逃げる者に贈る翼”
さっきシンゴが言っていたメールとはこれだろう。そして治の今後の運命は、このメールの内容を信じるか否かにかかっている。
いったいどうすべきか?
都内某所、戦火によって崩壊した倉庫街。夕方。今にも降り出しそうな曇り空の下を、白いシャツとチノパン、ショルダー・バッグという服装の治が歩いている。
どこか遠くで雷鳴が響く中、彼は無言で十分ほど歩き、目的地にたどり着く。倉庫の貨物用扉の右横に設けられた人間用の扉、治はそこに立ってノックする。
まずゆっくりと三回。それから少し間を置いて一回。さらに間を置き、今度は素早く二回。
扉が開き、室内から長身の日本人が姿を現す。髪型は黒の刈り上げ、口とアゴにひげを生やしていて、年齢は30代前半だろうか。
カーキ色の迷彩服を着ている彼は、ニコリと笑って治に話しかける。
「よう! よく来てくれたな、歓迎するぜ」
「……シンゴか?」
「イエス」
「アバターと現実の姿と、あまり変わらないんだな」
「その話は後だ、とりあえず中に入ってくれ。こんなとこ誰かに見られちゃヤバい」
「わかった」
治は扉をくぐって入室する。そこは小さな事務所らしい、古ぼけたスチール・デスクやオフィス用チェアがいくつか並べられている。
部屋の奥のソファに座っている男性が治に言う。
「剣崎・ジョシュア・治は君だな?」
「そうですが……」
「まずは自己紹介だ。私の名前はカジキ、よろしく頼む」
「はい」
「これからどう行動するかは、事前に送ったメールに書いてある通りだ。倉庫の隠し通路から地下鉄へ降り、そこを歩いて隠れ家に向かう。質問はあるか?」
「地下鉄を歩いて大丈夫なんですか?」
「とっくの昔に廃棄された路線だ。電車が通る可能性は無い」
「疑問を感じてるのはそこじゃありませんよ。地下鉄というからには真っ暗なはずですが、そんな場所を長時間歩いて迷ったりはしないんですか?」
「対策はちゃんと用意してある。君の後ろの壁を見てくれ」
指示通りに治は動く。そこにはハンガーに吊るされたカーキ色の迷彩服が存在している。カジキの説明。
「それはステルス機能が搭載された軍服だ。闇市で売られていたオンボロの旧型だが、性能に問題はない。で、服の横を見てくれ」
ずいぶんと長い黄色のロープが壁のフックにかけられている。いったいこれは何だ?
「すみません、こいつが一体なんの役に立つんですか?」
「我々の腰に巻くのさ。迷った時はロープをたぐっていけばいい、誰かのもとにたどり着ける。命綱ということだ」
「なるほど……」
「これから君にあの迷彩服を着てもらって、それから我々全員にロープを巻く。準備が終わったら出発だ。不明な点はあるか?」
「いえ……」
「では、さっそく作業にとりかかろう」
言い終わったカジキは治に背を向ける。この間に着替えを済ませろということなのだろう。そういえばシンゴは? 彼へ視線を向けると、既に背を向けている。
治はバッグを手近な机に置き、シャツのボタンを外し始める。そして強い不安を感じる、僕はこれからどうなるのだろう?
シンゴの提案に乗って本当によかったのか。しかし今さら後には引けない、だったら行けるところまで行くしかない。
それに、情報局に暗殺されるくらいなら、イチかバチかでシンゴたちに助けを求める方がマシだろう。これでよかったのだ、きっと。
「パニクる気持ちはわかるが、まぁ冷静になれ。さすがの情報局もフダを取るには時間がかかる、それまでは逮捕されねぇよ」
「フダ?」
「逮捕状のことだよ。もちろん奴らは場合によっちゃあフダなしで捕まえにくるが、今回は緊急性が低いからな。そうはならんだろ」
「なるほど……」
「それでだ、治、よく聞いてくれ。もちろん捕まるのは嫌だよな?」
「当たり前だろ!」
「じゃあ俺と一緒に来い。革命戦団の力を借りて逃げるんだ」
「なんだって……?」
「いきなりこんなこと言われて面食らうのは百も承知、その上で話してるつもりだ。そもそもの話、革命戦団はお前に大きな価値を見出してる。
だって、戦団の活動目的は、LMに都合の悪い情報を暴露することだからな。そしてお前がやろうとしてることはまさに暴露だろう?
つまり戦団とお前は利害関係が一致している。お前を保護してリーク活動を助けることは、戦団の利益につながるわけだ。
だから俺はお前を逃がすためにここに来たのさ」
実にうさん臭い話だ。こんなことをいきなり言われて信じられる人間はそうそういないだろう。
とはいえ、シンゴの言い分のすべてが嘘であるとも思えない。少なくとも通報に関しては事実と考える方が妥当なはずだ。
だったら通報以外の言い分も事実なのでは? いや、しかしそんな安直に信じていいのか。やはりこれはなにか手のこんだ罠では?
疑心暗鬼の苦しみが治の心を締めつけ、言葉を吐き出させる。
「無茶を言うなよ、こんな、まるで意味不明な話……」
「ご意見ごもっとも。だが俺は嘘なんてついてない。マジでお前がヤバいから、捕まる寸前だから助けにきた。本当にそれだけだ。……うん?」
部屋の色が赤に変わる。機械の合成音声による警告メッセージが読み上げられる。
「何者かがチャット・ルームに接近中、接近中!」
軽く舌打ちし、大慌てでシンゴは言う。
「ちっ、サイバー・パトロールだ! 悪りぃが時間切れ、話は終わりだ」
「おい……!」
「後でもう一通のメールを送る。もしお前が俺の話を信じるなら、そのメールの指示にしたがって行動してくれ」
「言うだけ言って逃げるなんて無責任だぞ!」
「しょうがねぇだろ、サツに見つかっちまったんだから! それに、お前だっていいかげん職場に戻らねぇと怪しまれるぜ?」
「それぐらい分かってる!」
「とにかく俺はちゃんと伝えたからな! 機会があったらまた会おう、じゃ!」
シンゴの姿が消失し、直後にチャット・ルームも消える。治の意識は強制的に現実世界へと引き戻され、彼の視界に自分の仕事部屋が映る。
治は考える。今のは夢だったんだろうか? それとも本当にあったこと? いったいどっちだ?
スマートフォンが震える。恐る恐る手に取ってプッシュ通知を見る。”新着メール一件”。
メールのタイトルにはこう書かれている。
”逃げる者に贈る翼”
さっきシンゴが言っていたメールとはこれだろう。そして治の今後の運命は、このメールの内容を信じるか否かにかかっている。
いったいどうすべきか?
都内某所、戦火によって崩壊した倉庫街。夕方。今にも降り出しそうな曇り空の下を、白いシャツとチノパン、ショルダー・バッグという服装の治が歩いている。
どこか遠くで雷鳴が響く中、彼は無言で十分ほど歩き、目的地にたどり着く。倉庫の貨物用扉の右横に設けられた人間用の扉、治はそこに立ってノックする。
まずゆっくりと三回。それから少し間を置いて一回。さらに間を置き、今度は素早く二回。
扉が開き、室内から長身の日本人が姿を現す。髪型は黒の刈り上げ、口とアゴにひげを生やしていて、年齢は30代前半だろうか。
カーキ色の迷彩服を着ている彼は、ニコリと笑って治に話しかける。
「よう! よく来てくれたな、歓迎するぜ」
「……シンゴか?」
「イエス」
「アバターと現実の姿と、あまり変わらないんだな」
「その話は後だ、とりあえず中に入ってくれ。こんなとこ誰かに見られちゃヤバい」
「わかった」
治は扉をくぐって入室する。そこは小さな事務所らしい、古ぼけたスチール・デスクやオフィス用チェアがいくつか並べられている。
部屋の奥のソファに座っている男性が治に言う。
「剣崎・ジョシュア・治は君だな?」
「そうですが……」
「まずは自己紹介だ。私の名前はカジキ、よろしく頼む」
「はい」
「これからどう行動するかは、事前に送ったメールに書いてある通りだ。倉庫の隠し通路から地下鉄へ降り、そこを歩いて隠れ家に向かう。質問はあるか?」
「地下鉄を歩いて大丈夫なんですか?」
「とっくの昔に廃棄された路線だ。電車が通る可能性は無い」
「疑問を感じてるのはそこじゃありませんよ。地下鉄というからには真っ暗なはずですが、そんな場所を長時間歩いて迷ったりはしないんですか?」
「対策はちゃんと用意してある。君の後ろの壁を見てくれ」
指示通りに治は動く。そこにはハンガーに吊るされたカーキ色の迷彩服が存在している。カジキの説明。
「それはステルス機能が搭載された軍服だ。闇市で売られていたオンボロの旧型だが、性能に問題はない。で、服の横を見てくれ」
ずいぶんと長い黄色のロープが壁のフックにかけられている。いったいこれは何だ?
「すみません、こいつが一体なんの役に立つんですか?」
「我々の腰に巻くのさ。迷った時はロープをたぐっていけばいい、誰かのもとにたどり着ける。命綱ということだ」
「なるほど……」
「これから君にあの迷彩服を着てもらって、それから我々全員にロープを巻く。準備が終わったら出発だ。不明な点はあるか?」
「いえ……」
「では、さっそく作業にとりかかろう」
言い終わったカジキは治に背を向ける。この間に着替えを済ませろということなのだろう。そういえばシンゴは? 彼へ視線を向けると、既に背を向けている。
治はバッグを手近な机に置き、シャツのボタンを外し始める。そして強い不安を感じる、僕はこれからどうなるのだろう?
シンゴの提案に乗って本当によかったのか。しかし今さら後には引けない、だったら行けるところまで行くしかない。
それに、情報局に暗殺されるくらいなら、イチかバチかでシンゴたちに助けを求める方がマシだろう。これでよかったのだ、きっと。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜
天海二色
SF
西暦2320年、世界は寄生菌『珊瑚』がもたらす不治の病、『珊瑚症』に蝕まれていた。
珊瑚症に罹患した者はステージの進行と共に異形となり凶暴化し、生物災害【バイオハザード】を各地で引き起こす。
その珊瑚症の感染者が引き起こす生物災害を鎮める切り札は、毒素を宿す有毒人種《ウミヘビ》。
彼らは一人につき一つの毒素を持つ。
医師モーズは、その《ウミヘビ》を管理する研究所に奇縁によって入所する事となった。
彼はそこで《ウミヘビ》の手を借り、生物災害鎮圧及び珊瑚症の治療薬を探究することになる。
これはモーズが、治療薬『テリアカ』を作るまでの物語である。
……そして個性豊か過ぎるウミヘビと、同僚となる癖の強いクスシに振り回される物語でもある。
※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります
※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます
※この小説は国家資格である『毒物劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。
参考文献
松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集
船山信次 史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり
齋藤勝裕 毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで
鈴木勉 毒と薬 (大人のための図鑑)
特別展「毒」 公式図録
くられ、姫川たけお 毒物ずかん: キュートであぶない毒キャラの世界へ
ジェームス・M・ラッセル著 森 寛敏監修 118元素全百科
その他広辞苑、Wikipediaなど
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる