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人形龍に感謝する
しおりを挟む少年と別れた私達は、森の奥へと向かい、また休日を再開した。
私は、薬草をどうにかすることを諦めて、今度こそ美味しいお茶を飲みながら、本を読むことにした。
これまでに、賢者に関する本をいくつか読んでいたが、どの本も賢者がいかに素晴らしい人物かを讃える文字が並んでいるものばかりだった。
【賢者様は、カリオス王国の未来を見据えて孤児院を開設した。】
【賢者様は戦争が絶えなかった国々を周り、仲を取り持ち戦争をやめさせた。】
【賢者様は貴族の悪事から民を救うため、貴族達をこらしめた。】
など、賢者は各地を周り世直しを行なっていたようだ。
賢者は、全身真っ白な服を身に纏い、一切肌を見せずにいた為、顔を見たことがある人物はいないらしい。
どの本も書き方が同じなので、書いた人が同一人物ではないかと思った。
賢者様は野菜が好きじゃないらしいとか、女性の前では緊張して話せなくなる。などの日常的なことも書かれており、本を書いた人物は、常に賢者に付いて回っていたのではないかと思う。
なんか、水戸の殿様みたいだな。
娯楽が少ない中で、世直しをするヒーローは人々の関心の的だっただろう。
だから、テレビもなく情報が伝わりにくいこの世界で、これだけ認知されているんだと思う。
本の書き方も、ハラハラドキドキするように書かれており、皆が楽しめる物語風だった。
私は本を読み進みながら、メモを取り、賢者の情報をまとめていく。
賢者:アレン・ウォークリア
魔王の息子と同じ名前
独特の訛りで話す
野菜が苦手
女性が苦手
全身白の服で肌を一切出さない
髪の色も見たことがない
魔法は使えない(使ったところを見たことがない)
孤児院を設立
戦争を終結させる
貴族から民を救う
村々を襲っていた魔物を追い払った
年に数日、行方不明になる
ある日から訛りがなくなる
弟子をとるようになる
弟子に世直しをさせるようになる
ふと、書き留めていたメモを見ながら、気づいた。
弟子に世直しをさせるようになってから、賢者が全く世に出て来ていないのだ。引退したのだろうか?
(うーん。読めば読むほど、わかんなくなるな~。)
ソファに座ったまま、筋肉をほぐすように、くるくると首を回しながら呟く。
奏那は、氷の蝶を次々と飛ばしながらメモを手に取り読み出した。
(本当だね。これを読む限り、いい人っぽいけど。賢者に対する嫌悪感は消せないわ。今どこにいるのか知ってる人いるかな?弟子はあの弟子だよね。あいつには会いたくないしな~。この本を書いた人を探してみる?)
(そうだね。いろんな所で一緒に世直ししてたみたいだし、知ってる人もいるかもね。)
(うんうん、次の国に行ったら聞いてみよう!)
(そうだね!ところで。その氷の魔法さ、出店でも使ってたけど、氷の魔石なんて持ってないよね?どうやってんの?)
(え?普通に出したいと思えば出せるよ?)
私は桜の花びらを思い浮かべ、空中に手を向けて出してみる。
すると、美しい氷の花びらが空を舞った。
((おお~~!))
蝶と花びらが光を浴びてキラキラと舞う。
どちらも透明だったので、幻想的な光景だった。
私達はしばらくその光景を堪能した。
(ねぇ、ちょっと思ったんだけど、これ魔石の魔法じゃないんじゃない?)
ふと、気がつき奏那に言ってみる。
私達はこの世界に来てから、ずっと爪に魔石をはめたままだ。
そして、あの弟子の言葉を聞き、魔石のおかげで魔法が使えると思っていたが、もしかすると、魔石が無くとも魔法がつかえるんじゃないか?
(そうかな?でも、氷って元は水だよね?水の魔石を使ってるんだと思ってたけど。)
そう言いながら、奏那は指にはまった魔石を全て外した。
(じゃ、やってみるね。)
奏那がそう言って、手を空に向けると、綺麗な鳥の羽が宙を舞った。
(わ!本当にできた!え?どゆこと?)
(わかんないけど、私達が言葉も文字もわかる事と同じなんじゃないかな?龍のコアとか言う物が関係してるのかも。)
(なるほどね。でも、知識的な物は引き継がれないんだね。)
(うん、なんかよくわかんないね。私達の魂の記憶に上書きされちゃったとか?)
(えー。賢者の事覚えてれば、どういう事なのかすぐに知ることが出来たのにね。)
(まぁ、でも龍さんには感謝だね。身体も丈夫だし、魔法も使えるし。)
その後は、この体があるのは龍さんのおかげ!と感謝しつつ、魔石を外した状態で魔法を試してみることになった。
結果的に、魔石がなくとも色々な魔法が使えるということがわかった。
例えば、今まで使っていた火や水などの魔法の他に、物を浮かしたり、植物の成長を早めたりすることができたのだ。
非常に興奮した私達は、空を飛ぶという夢を実現させる為に自分たちを浮かせて見たが、ほんの少ししか浮き上がることが出来ず、またしても断念することになった。
その代わり、以前手に入れた稲の種を蒔き、成長させて刈り取るということを繰り返した。
((夢だけど!夢じゃなかったー!))
という、某アニメのセリフを唱えながらタネの周りをぐるぐる回り、交互に魔法をかけてゆく。
とても楽しいひと時を過ごした。
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