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人形お米を味わう
しおりを挟む旅はとても順調だった。
あと3日もあれば、次の国に着くだろう。
今日も、日が暮れそうな時間に進むことを中断し、我が家を設置する。
屋根がないのが寂しいが、今のところ不便は感じていない。
むしろ、この開放感は普通の家では体験出来ないだろう。
雨も降っていないし、降った時は洞窟でも探して過ごせばいいと思う。
そして家具を設置し終わると、私の出番だ。
移動中は、我らが特攻隊長が全ての指揮をとっている。
私が探知をして、そのイメージを隊長に送り、隊長が道を決めるのだ。
(全員!12時の方向に進め!)
元気よく、命令を飛ばしてくるが、基本は全て真っ直ぐ進む。
こういうのは、雰囲気だけ楽しむ事が大切なのだ。
たまに退屈すぎて、刺激が欲しくなってしまう隊長は、
(むむ!2時の方向に魔物を発見!ちょっかいをかけに行く!皆の者続け!)
と、魔物にとって迷惑この上ないこともするので、そんな時は、料理長権限を発動させてもらう。
(隊長、そんなことしたら、本日の夕飯は抜きですからね。いいのかな~?今日は、骨つき肉の骨からとった出汁でラーメンを試してみようと思ったのに。)
(え!命令を撤回する!敵は回避!通常のルートに戻る!だから、ラーメン食べていいよね?)
(うん、いいよ。)
そんなこともありつつ、今日も夕飯を作っていく。
今日は、ハンバーグとご飯、野菜たっぷりスープだ。
先日のラーメンは中々の出来だったと思う。ただ、やっぱり魚介の出汁が欲しいと切実に思う。
そして、醤油や味噌も欲しい。
なぜ、この世界の料理はあんなに雑なのかが、料理をしていくうちにわかった。
この世界のお肉も野菜も、元の世界よりも味がありとても美味しいのだ。だから、火加減も考えることなく焼き、それを食べることで、満足しているようだ。
しかし、材料がいくら素晴らしいものでも、火加減を調節しないと肉はパサパサになり、野菜もシャキシャキ感がなくなってしまう。
料理は一手間が大切なのだ。
私は、元の世界の全ての料理人に感謝をしながら、調理をした。
お米を鍋に入れて、蓋をしないまま沸騰させて混ぜる。しばらくたったら、蓋をして弱火でじっくり煮て、火を止める。
奏那が泣いても蓋は取っちゃダメだ。
このお米は私達の努力の結晶である。
脱穀から精米するまでにかなりの時間がかかったのだ。量もかなりあった為、丸々休日2日分かかってしまった。
木の枝を二本使いながら地道に脱穀していたが、途中から、龍の皮膚は頑丈だということを思い出して、自らの手で強引に脱穀をした。木の枝の二倍は早く出来たと思う。
しかし、その作業だけで半日を使ってしまった。
そのあとは、もみ殻を取るために、両手を合わせゴリゴリすり合わせる作業を行った。普通は石臼などでするのだろうが、古龍のパワーは伊達ではない。
風魔法を使いもみ殻を飛ばして、玄米になったものを皮袋に入れ、太い木の棒で突いていく。
私のうろ覚えの知識ではこれが最善の方法だった。
農家の親戚に感謝しつつ、もっと学んでおけば良かったと、後悔もした。
奏那は初めてやる作業ばかりだったため、楽しんで作業をして、私のことを"オババの知恵袋"と呼び出した。
その日の奏那のスープには、たっぷりともみ殻を入れて出してやった。
そんなこんなで、20キロほどのお米を精米することに成功した。
残りは、玄米のまま、混ぜて使うことにしたのだ。
お米を炊きながら、あの苦労を思い出し、次の作業へ移る。
ハンバーグ作りだ。
肉をミンチにする作業は思った以上に時間がかかり、奏那にも手伝ってもらうことにした。
奏那は、あらゆる魔法を試しながら、最後には肉を一度冷凍して鍋に入れ、風魔法で調整しながらミンチにするという技を編み出した。
フードプロセッサーの称号を見事に獲得した奏那は、満更でもない様子で、
(仕方ないわね。フードプロセッサー奏那って呼んでもいいわよ。)
と言っていた。
無事に全ての料理が完成し、二人で仲良く食べ始める。
((いただきます!))
まずは、念願のお米から頂こう。
日本のお米に比べるとパサパサしていてツヤがないし、あまり甘みもない。
でも、このお米は、今まで食べたどんな料理よりも美味しいと感じた。
奏那もそうだったのだろう。あっという間にご飯だけを完食し、鍋から二杯目をよそう。
(料理長、このお米は門外不出にしよう。)
奏那が、戦国時代のお殿様みたいなことを言い出した。
(ははっ!御意!)
私はイエスマンだ。このお米は他には出さんぞ。
そうして、食事を楽しんでいると、探知に何かが引っかかった。
猛スピードでこちらに飛んでくる。
奏那にそれを伝えながら、鑑定をしてみると、古龍としか出なかった。
こんな事は初めてだ。
奏那は静かに立ち上がり、私を庇うかのように前に立ち、目の前の木々を消した。
5メートル四方に丸く空間が出来たところに、龍がゆっくりと降り立った。
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