上 下
20 / 22

人形龍に出会う

しおりを挟む

その古龍は、思っていたより小さかった。
三メートルくらいの高さで、真っ黒な鱗に、空のような青い目をしていた。

龍は奏那があけたスペースに降り立つと、翼をたたみ、後ろ足で立ち上がり、こちらをじっと見つめた。


私は、目の前に現れた龍に危機感はまったく感じなかった。
それよりも、その見た目のファンタジーさと、美しさに感動すら覚えた。


奏那は、さすが特攻隊長ということもあり、私に注意を促してきた。


(ちょっと!前に出ないで!顔を覗かせないで!なんであんたはそんなに警戒心ないのよ!美しいものが、全て安全だと思ったら大間違いなのよ!じっとしてなさい!)


私は無意識に、近くで見たいと足を踏み出していたようだ。
顔をガシッと掴まれ、後ろに下がるようにと、押し返された。


奏那は私にお説教をしている間にも、じっと観察するように龍を見つめ続けていた。


しかし、奏那のお説教が終わると同時に、龍は突然大声を上げて泣き出した。
綺麗な青い目からは大粒の涙を流しながら、私と奏那を交互に見つめた。


困惑する私達に構わず、グオオという低い鳴き声を上げ続ける。


(ど、どうしよう。泣いちゃった。怯えられてるの?どうする?ハンバーグ分けてあげよっか?)


え?食料で全てが解決すると思っているの?


そんな私の気持ちも伝わらず、奏那は余っていた自分の分のハンバーグを手に取り、龍の元に歩いて行った。


(えっと、これ食べますか?)


そういいながらハンバーグを差し出した。

すると、龍はピタッと泣き止み、私達の頭の中に直接言葉を届けて来た。


(ありがとうございます。姉上様方。)



((え?))



私達はこの龍の姉なの?







その後、落ち着いた龍をテーブルの方へ誘導して座らせた。

ハンバーグが大変お気に召したようだったので、追加で作りながら、龍の話を聞くことになった。


(私の分まで作って頂いて申し訳ありません。)

しょんぼりしている龍を奏那は笑いながら慰めていた。


(気にしなくていいよ!私の分も作るし、ついでなんだから!)


言っておきますけど、作るのは私で、奏那の分がついでですからね。

そう言ってやりたいが、フードプロセッサー奏那の力が必要なので、黙っていた。

さ、私はこねることに集中しなくては。



(それで、龍さん、この身体の中にいるのが、龍さんのお姉さんってことなんだよね?)

(そうです。気配が全く同じなので。あ、私の事はディリーとお呼びください。)


始めは私達も、ディリーさんに敬語を使い丁寧に話していた。
しかし、敬語を使う度に、頭を下げ"恐れ多い、やめてください"と言って全く話が進まなかった。

私達の中にいる古龍さんは余程偉い龍だったようだ。



そして、私達がディリーさんの知っているお姉さんではないとわかり、攻撃をされても困るので、テーブルへ移動する前に、一方的に記憶を送らせて頂いた。


ここまでの全ての記憶を見た、ディリーさんは項垂れながら、私達を"大変でしたね"と労ってくれた。



(さっきの記憶を見てわかったと思うけど、何が起こっているのか全くわからないの。出来ればディリーさんの話も聞かせてもらえる?)


(ああ!!ディリーさんなんて!!恐れ多い!!!ディリーと!!ディリーとお呼びください!!)


ディリーは突然絨毯の上に突っ伏し、ガンガン頭をぶつけ始めた。


(わかった!!わかったから!!ディリーやめて!!)


ディリーが頭を絨毯にぶつける度にテーブルの上の料理が跳ねる。
それを回避する為、奏那は慌ててテーブルごと持ち上げて、ディリーを止めていた。


すぐに座り直したディリーは、またしょんぼりとしながら謝った。


(大丈夫、気にしないで。ディリー、知ってることを話してくれる?)



私は少し離れた調理スペースで、それを眺めながら、一欠片だけでも肉を落としたら許してもらえなかっただろうな。と思った。


無事、奏那の怒りを回避したディリーは知ってることを全て話します、と言って話し出した。


(ここから飛んで二週間ほどの所に海に浮く島があります。そこが我ら古龍が住んでいるところなのです。
そこでは、全ての龍が家族です。
龍にとっては家族がすべて。家族が一番大切なものです。
ある日、そこに何十人もの人間が現れました。
彼らは賢者の弟子と名乗り、私達に有力な情報があるといいました。
その情報は、数年前に行方不明になっている兄上様の事でした。
龍は家族の気配を辿ることができます。しかし、いくら探しても兄上様の気配を見つけることができなかったのです。
そんな中、賢者の弟子は兄上様を見たいと言いました。
しかし、私達はその話を全く信じませんでした。賢者の弟子は兄上様の特徴を一切答えることが出来なかったからです。のらりくらりと話をそらすばかり。
段々と、不機嫌になってゆく私達を見て、賢者の弟子は"その目で確かめればいい"と言いました。
そこで、古竜王様が姉上様方に確かめてくるようにと仰られました。
姉上様方は、我等家族の中で一番力があり、一番聡い方々だったからです。
しかし、旅立った日から五年経ってもお帰りになられませんでした。不安を覚えた私達は、気配を探りましたが、全く見つからず、賢者の弟子を見つけようにも、姉上様方がどうにもならない相手となれば、我等家族がどうにかしようとしても、返り討ちに合う可能性があります。
何度も話し合いが行われ、遂には全員で総攻撃を仕掛けようと言う話にもなりました。
しかし、そんな時にようやく待ち焦がれた姉上様方の気配を察知したのです。
急ぎ確認をするべく、私が志願をしこちらに参った次第です。)


全てを話し終えたところで、ディリーのお腹が鳴った。


(なるほどね、わかった。
中身はディリー達が知ってる姉上様じゃないけど、私達はあなたの姉上様の一部なの。だから、家族も同然。なんとかして、賢者の弟子と兄上様を探そうね。
まぁ、その前にご飯食べよう!うちの料理長の腕前はピカイチよ!料理長!門外不出のアレもお願い!)


(あいよー!)



私達は、気持ちを一つに食卓を囲んだ。

しおりを挟む

処理中です...