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第1章 オーブンが爆発した!
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(あ、いた!)
草が茂っているコンクリートの土手に並んで座っている。その背からはなんとも哀愁が漂っている。
多希は二人に向かって歩き、そして傍までやってきた。
「兄上、これからどうするの?」
「そうだな、とりあえず、この世界がどういう秩序になっているのか学ばないといけない」
「どうやって?」
「なんとかして情報収集をする」
「なんとかしてって、ぜんぜん答えになってないよ。ねえ、兄上」
「ん?」
「お腹空いた」
「…………」
「ねえ兄上、お腹空いたよ」
「…………」
「食べるものを分けてもらおうよ。どこの世界だって、お金を出せば買えるでしょう?」
ねえねえと子どもが男性の腕を揺するが、彼のほうはうんともすんとも言わず、無言で正面を見据えている。
「兄上ってば」
「わかっている。私だって少々空腹だ。が、この世界の金を持っていないだろう。まずはそれを手に入れる方法から学ばねばならない」
「宝石を売ればいいんじゃないの? セルクスがポケットに金目のものを入れてくれたでしょ?」
「だから、その宝石をどこに持っていけば換金してくれるのかをだな」
「それじゃあ、お腹がもたないよ」
「わかっている。手っ取り早く手に入れる方法がないか、さっきから周辺を観察しているんだが、川魚以外に手に入りそうなものがないから迷っている」
「どういうこと?」
「私は水泳が苦手だ」
「じゃあ、鳥を掴まえるのは?」
「武器がないし、剣術は得意ではない」
「…………」
二人は黙り込んでしまった。
(なんというか……)
信じられるのか、ちょっとどこかおかしいのか、多希は首をひねりつつも、沸々と湧いてくる笑いを嚙み殺すのがつらい。
その時、ぐう、と子どもの腹が鳴った。
「兄上、やっぱりお腹空いたよ。魚がとれないなら、ここに生えてる葉っぱとか食べるしかないのかな」
「そうだなあ。あまりうまそうではないが」
「僕、サラダ好きじゃないんだけど」
「贅沢を言うな」
多希の肩が小刻みに揺れている。もう我慢の限界だった。
大きく息を吸ってからゆっくり吐き出し、深呼吸をしてから二人に近づいた。
「あの、お二人、お腹が空いているなら、うちに来ませんか?」
「え?」
二人が同時に振り返る。やはりびっくりするほどのイケメンだ。外見だけ見れば、アニメやゲームに出てくる王子様そのままだ。
「私と一緒にごはん食べませんか?」
「いいんですか?」
「まあ、ホントはよくないんでしょうけど、お二人が私に危害を加えそうには思えないので、食事くらいはいいかなって」
「ですが……悪いです。勝手に家に入り込んでしまったというのに」
「行く! お腹空いた!」
「アイシス!」
子どものほうが素直だ。多希は子どもに向けて手を伸ばした。
「行こっか」
「うん!」
呆然としている男性を置いて、多希と子どもが手を繋いで歩き始める。少し進んでから振り返り、多希が、
「来ないんですか?」
と、声をかけると、彼は慌ててついてきた。
家に戻って二人を二階のダイニングに案内する。店はシャッターを下ろしているので暗いため、食事をするのにはどうだろうと思ったからだ。
ダイニングテーブルに向かう二人を横目に、多希は朝食作りに取りかかった。
大きめのプレートに、レタスとトマトとゆで卵のサラダ、クロックマダムとクロワッサンを盛りつける。
そこにインスタントのポタージュと、大人二人は紅茶、子どもにはオレンジジュースを添える。
「はい、どうぞ」
多希が言うと、二人は目を大きく見開いた。
「どうかした?」
「君の朝食はいつもこんな感じなのか?」
「こんな感じって?」
「少なくない?」
「あ、二人はもっと食べるのね?」
子どもが「うぅん」と言ってかぶりを振った。
「食べる量はこれで充分だけど、テーブルにいーーっぱい並べるんだ。それで、好きなのを選んで食べる」
「選ばなかったものはどうするの?」
「さぁ」
かなり贅沢な食事風景のようだ。
「そうなんだ。でも、うちは食べられる分だけ作るから。足りなかったら追加するけど、残さないようにしてほしいです。もったいないから。あ、もし、アレルギーとかで食べられないものがあったら取り替えるから言ってちょうだい」
子どもが「アレルギー?」と首を傾げているのを横目に、男性が謝ってきた。
「アイシスが失礼なことを言って申し訳ない。馳走にあずかっているのに、贅沢なことを言って恥ずかしい。これは千切って食べたらいいのだろうか?」
「あなたの世界にパンはないのですか?」
「パン……もちろんあるが、肉を挟むだけで、こんなふうなのは見たことがない」
「同じです。これはクロックマダムといって、ハムとチーズとベシャメルソースを挟んで、その上にベシャメルソースと卵を載せて焼いているんです。手では持って食べられないから、ナイフとフォークを使うんですよ」
二人は、へえ、と感心したような声を出した。
「いただきます」
多希が手を合わせてそう言うと、二人はまた呆けたようになって見ている。
「この国では、多くの人が食事をする時に手を合わせて『いただきます』、食べ終わったら『ごちそうさまでした』って言って、ご飯を食べられる感謝を述べるんです。二人は外国の人だから、気にしなくていいですよ」
だが、二人は手を合わせて「いただきます」と言い、ナイフとフォークを手に取った。
草が茂っているコンクリートの土手に並んで座っている。その背からはなんとも哀愁が漂っている。
多希は二人に向かって歩き、そして傍までやってきた。
「兄上、これからどうするの?」
「そうだな、とりあえず、この世界がどういう秩序になっているのか学ばないといけない」
「どうやって?」
「なんとかして情報収集をする」
「なんとかしてって、ぜんぜん答えになってないよ。ねえ、兄上」
「ん?」
「お腹空いた」
「…………」
「ねえ兄上、お腹空いたよ」
「…………」
「食べるものを分けてもらおうよ。どこの世界だって、お金を出せば買えるでしょう?」
ねえねえと子どもが男性の腕を揺するが、彼のほうはうんともすんとも言わず、無言で正面を見据えている。
「兄上ってば」
「わかっている。私だって少々空腹だ。が、この世界の金を持っていないだろう。まずはそれを手に入れる方法から学ばねばならない」
「宝石を売ればいいんじゃないの? セルクスがポケットに金目のものを入れてくれたでしょ?」
「だから、その宝石をどこに持っていけば換金してくれるのかをだな」
「それじゃあ、お腹がもたないよ」
「わかっている。手っ取り早く手に入れる方法がないか、さっきから周辺を観察しているんだが、川魚以外に手に入りそうなものがないから迷っている」
「どういうこと?」
「私は水泳が苦手だ」
「じゃあ、鳥を掴まえるのは?」
「武器がないし、剣術は得意ではない」
「…………」
二人は黙り込んでしまった。
(なんというか……)
信じられるのか、ちょっとどこかおかしいのか、多希は首をひねりつつも、沸々と湧いてくる笑いを嚙み殺すのがつらい。
その時、ぐう、と子どもの腹が鳴った。
「兄上、やっぱりお腹空いたよ。魚がとれないなら、ここに生えてる葉っぱとか食べるしかないのかな」
「そうだなあ。あまりうまそうではないが」
「僕、サラダ好きじゃないんだけど」
「贅沢を言うな」
多希の肩が小刻みに揺れている。もう我慢の限界だった。
大きく息を吸ってからゆっくり吐き出し、深呼吸をしてから二人に近づいた。
「あの、お二人、お腹が空いているなら、うちに来ませんか?」
「え?」
二人が同時に振り返る。やはりびっくりするほどのイケメンだ。外見だけ見れば、アニメやゲームに出てくる王子様そのままだ。
「私と一緒にごはん食べませんか?」
「いいんですか?」
「まあ、ホントはよくないんでしょうけど、お二人が私に危害を加えそうには思えないので、食事くらいはいいかなって」
「ですが……悪いです。勝手に家に入り込んでしまったというのに」
「行く! お腹空いた!」
「アイシス!」
子どものほうが素直だ。多希は子どもに向けて手を伸ばした。
「行こっか」
「うん!」
呆然としている男性を置いて、多希と子どもが手を繋いで歩き始める。少し進んでから振り返り、多希が、
「来ないんですか?」
と、声をかけると、彼は慌ててついてきた。
家に戻って二人を二階のダイニングに案内する。店はシャッターを下ろしているので暗いため、食事をするのにはどうだろうと思ったからだ。
ダイニングテーブルに向かう二人を横目に、多希は朝食作りに取りかかった。
大きめのプレートに、レタスとトマトとゆで卵のサラダ、クロックマダムとクロワッサンを盛りつける。
そこにインスタントのポタージュと、大人二人は紅茶、子どもにはオレンジジュースを添える。
「はい、どうぞ」
多希が言うと、二人は目を大きく見開いた。
「どうかした?」
「君の朝食はいつもこんな感じなのか?」
「こんな感じって?」
「少なくない?」
「あ、二人はもっと食べるのね?」
子どもが「うぅん」と言ってかぶりを振った。
「食べる量はこれで充分だけど、テーブルにいーーっぱい並べるんだ。それで、好きなのを選んで食べる」
「選ばなかったものはどうするの?」
「さぁ」
かなり贅沢な食事風景のようだ。
「そうなんだ。でも、うちは食べられる分だけ作るから。足りなかったら追加するけど、残さないようにしてほしいです。もったいないから。あ、もし、アレルギーとかで食べられないものがあったら取り替えるから言ってちょうだい」
子どもが「アレルギー?」と首を傾げているのを横目に、男性が謝ってきた。
「アイシスが失礼なことを言って申し訳ない。馳走にあずかっているのに、贅沢なことを言って恥ずかしい。これは千切って食べたらいいのだろうか?」
「あなたの世界にパンはないのですか?」
「パン……もちろんあるが、肉を挟むだけで、こんなふうなのは見たことがない」
「同じです。これはクロックマダムといって、ハムとチーズとベシャメルソースを挟んで、その上にベシャメルソースと卵を載せて焼いているんです。手では持って食べられないから、ナイフとフォークを使うんですよ」
二人は、へえ、と感心したような声を出した。
「いただきます」
多希が手を合わせてそう言うと、二人はまた呆けたようになって見ている。
「この国では、多くの人が食事をする時に手を合わせて『いただきます』、食べ終わったら『ごちそうさまでした』って言って、ご飯を食べられる感謝を述べるんです。二人は外国の人だから、気にしなくていいですよ」
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