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第2章 ショッピングセンターは驚きの連続

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 結局、持ってきた服を全部買うことにし、一着は着たまま精算する。大収穫に喜んでいた多希だったが――

「タキ、兄上にはタキからも許してって言ってほしいんだけど」

 その言葉にはっと我に返る。

(しまった! アイシスの服に集中しててライナスさんのこと、すっかり忘れていた!)

 大焦りで周囲を見渡し、ライナスを捜す。だが、すぐに見つかった。

(まぁ、そうよね)

 ライナスはショッピングセンター内に置かれているベンチに座って本を読んでいた。姿勢よく座って足を組んでいる姿は絵になる。ただ腰を掛けているだけなのに、ただならぬ気品を感じるのは育ちゆえだろう。

 ジュストコールにクラヴァット、長ブーツ、豪華な金髪に抜けるような碧眼。映画かなにかの撮影、もしくはショッピングセンター内でのイベントか、と客たちが集まってきて注目の的となっている。だが本人は悠然としていて、まったく気にしている様子はない。

(王子様だから注目されることに慣れているのかな。っていうか、ライナスさん。服を買ったらそのまま着てって言ったのに)

 多希がライナスに歩み寄ろうとすると、アイシスが気づいて駆けて行った。そしてライナスの目の前でクルリと回る。

「アイシス」
「タキがいいって言ってくれたんだ。ここにいる間だけ、女の子の服を着ていたい。いいでしょ、兄上」

 ライナスの目が驚きで丸くなっているが、次第に目元は緩み、最後には愛おしそうな優しいまなざしに変わった。

「ずっと我慢していたのか?」

 アイシスが恐々といった様子で頷く。

「そうか」
「兄上?」
「気づいてやれなかった。すまない」
「…………」
「よく似合っている」
「ホント!?」
「本当だ。私がアイシスに嘘をついたことがあるか?」

 アイシスはわずかな時間ライナスの顔をじっと見つめ、それから激しくかぶりを振った。そしてベンチに腰を掛けているライナスの首に両腕を回して抱きついた。

 見ていてジンとくる。と同時に、多希はライナスが腹違いの妹を大切に想っていることを感じた。いや、それだけではない。アイシスも同じだ。

(勝手なイメージだけど、腹違いのきょうだいって、仲がよくないって思ってしまうんだけど。この二人はお互いを大事に想っているんだわ。複雑な境遇だからかな)

 片や後妻に気を遣って臣籍降下しながらも信じてもらえず疎まれ、片や女の子なのに王子としての生活を強いられているのに、次に生まれてくる子どもの性別次第では扱いが変わってしまう可能性をはらんでいる。

 多希は小さく吐息をついた。

(考えたくないけど、アイシスの言動からはどうもお母さんに大事にされていなさそうな感じを受けるのよね。でないと、腹違いの兄に、あんなに懐くとは思えないのよね)

 ライナスが立ち上がり、多希に向かって歩いてくる。意識は二人の生活環境に向いていたが、立ち姿に見惚れ、ライナスがいまだ王子様衣装に身を包んで大注目の的であることを思いだした。

(ライナスさん、ホントにイケメンなんだから。うちの手伝いじゃなく、モデルでもやったほうがいいんじゃないかな。きっとそのほうが儲かる)

 なんて考える。

「服、買わなかったんですか? お金渡しておいたのに」
「店員にいろいろ勧められてわからなくなった。タキさんの意見が聞きたいと思って待っていた」
「いろいろ勧められた?」

「傾向が統一されていたら、私に合うものがどういうものか理解できるが、多種多様なので本当にそれがいいのかよくわからなくてね。買ってくれるならなんでもいい、そう思っているのではないかと邪推してしまった。だからタキさんの意見を聞いてから購入しようと思う」

「……そう。わかりました」

 いくら金を渡したのは多希とはいえ、それは一時的なもので、のちに返してもらえる。だから購入するのはライナス自身なのだが、王子様なら自分が気に入ればなんでも全部買いそうな気がする多希には意外に思えた。

(なんか、堅実)

 臣籍降下をして官吏として働いているからだろうか。多希は首をかしげた。

 その後、紳士用のブティックに入って上下数着セレクトし、次に靴や鞄なども二人それぞれ購入した。

 ここで一度車に戻って戦利品を積むと、また売り場に戻った。身軽になって向かったのはゲームコーナーだ。広がる遊び場にアイシスの目が輝く。

「これ、なんだ?」
「これはクレーンゲームといってね、アームを動かして商品を端にある穴に落とすのよ」
「落としたらどうなるの?」
「もらえるのよ。やりたい?」
「やりたい!」
「私が見本を見せるから、よく見ていてね」

 多希は硬貨を入れると、縦の動作を操り、次に横の動作を行った。クレーンがアームを開きつつ、狙った商品に向かって下降する。そしてアームが閉じ、商品を掴んだ。

「やったー」

 アイシスが歓喜の声を上げた。

 だが。

「ああっ」

 上昇を始めた瞬間、商品はコロリと落ちてしまった。


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